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――「欠陥住宅を正す運動の歴史と歩み」――

代表幹事 澤田 和也

すでに総会でのシンポでご配布した『欠陥住宅を正す会の歩みと会の運動展開』と題するレジメを元に、シンポの際喋った内容を骨子にしたものです。これだけ独立したものと考えていただいても結構です

平成23年7月吉日

=====シンポのまとめ=====

1、大きいことはいいことだ・・・・・高度成長の流れの果てに

欠陥には本人の修業等の不足から生じる不具合いもあれば、大メーカーが利潤の獲得を目指して組織的に材料や手間を切り詰める場合もあります。
昭和40年前後の高度成長期における手抜き欠陥とはむしろ後者の欠陥のことで「安く・早く」との命題のもとに本来かけるべき材料や手間をできるだけ省いて、省いていない住宅と同じ効用を持つように見える住宅を造ろうとしたことにあると考えられます。
「安く・早く」という命題自体が大体無理なんですね。
「安い手」を使えば遅くなるし、「早く」ということになれば余程スタッフが揃っているのでなければ、粗製濫造とならざるを得ません。
そもそも「安く」とか「早く」とかいうことは矛盾概念で、また「安く」とか「早く」とかは相対的な概念とはいえ、商業フレーズとしてはこのフレーズに勝るものはないでしょう。消費者の欲求を端的に現しているからです。
だいたい昭和30年代までは、大多数の民衆は住み慣れた故郷に居住し、父子伝来の旧来家屋に居住し、あまり新築の必要は感じなかったのです。
産業が効率的に都市中心に再編成され始めると、多くの労働力も都市に集中するようになり、それに早くという現代的スピード要求が加算された結果、仕事の結果そのものよりも「安く・早く」という虫のいい結果が尊重されるようになったのです。
そういうわけで、昭和40年頃を境に「安く・早く」がまた産業界のモットーの一つになりました。
1960年代の物作りは電気洗濯機、電気掃除器、電気冷蔵庫、クーラーなどの家庭用品を電化して主婦の家事軽減を図ろうという商品(電化製品)つくりにあったわけですが、そのいわば終着駅が住宅であり住宅会社の登場であったのです。
それに当時はA社の自動車、B社の家電製品というように、大きな会社が良い商品を作っていましたので「大きいことはいいことだ」という消費者の盲信が生まれたわけです。
当時大都市への人口流入が盛んとなり、住宅需要が飛躍的に発達しました。その時、多くの人は父祖伝来の家屋が大工棟梁の匠の技と労力を基本とする手造りであることに気付かず、某メーカーが某有名車を作るように大会社が良い住宅を作るという錯覚を生んだのです。
ですから、多くの人の需要が拡大したことに目を付けた資本は、大工や棟梁を陰に隠し、百貨店やベットタウンの駅前に営業所を構え、きれいなパンフレット――美しいモデルがおしゃれなキッチンでお料理をし、芝生の庭にはペットのワンちゃんも遊んでいる――というような主婦の夢を描いたパンフレットをふんだんにばらまいたのです。
住宅が本来的には大工や棟梁の手造りで、ひとつひとつが違った欲求による違った人の物造りであることを忘れて「大きいこと」に信頼を置いたのです。欠陥住宅の悲劇はこのような背景のもとに生まれました。

2、当時の欠陥の特徴

――手抜き欠陥――

初期の欠陥住宅被害で特徴的だったのは、本来法律や設計図書で必要な部材や下地や設備などを「手抜き」したということです。
いわば「手抜き欠陥」というべきものです。法定の筋交いがない家、基礎底盤が捨コンで代替された家、通し柱のない家、まさしく本来施工すべき「物」を手抜きするという欠陥です。乱暴といえば乱暴ですが、ある意味では単純なアッケラカンとした手抜きです。
このような手抜き欠陥時代も私たちの活動で世論が喚起され、消費者の知識が上がるとだんだん無くなっていったのですが、この次の段階、つまり現在の手抜きはある意味ではこの初期の幼稚な手抜きよりは悪質になっています。いわば「性能の手抜き」というべきもので、その手始めとしてプレハブや型式住宅では、構造躯体に何か必要かは先ほど申し述べた大臣認定図書を見ないとわからないものですから、専門の建築士ですらわからない認定図書の手抜きを堂々とやってのけるわけです。
ですから平成12・3年ごろからのこの「性能の手抜き」の時代にはいいると、やたらと基礎や地盤補強についての欠陥が増え始めました。
地盤補強とか基礎補強とかは上部躯体構造に関係なく、建物である限り建物荷重を躯体に安全に伝えるべき地盤補強や基礎補強をすべきものですので、躯体の手抜きが認定図書の入手不能でなかなかわからないのに対し、地盤や基礎の手抜きは認定図書がなくても割合はっきりとしていてわかりやすいので、この時代に入ると「地盤補強の手抜き」や「基礎の手抜き」が目立ってきたのです。
いずれにせよ無くならないのが手抜きで、いざ補修の段階に入っても消費者が断らざるを得ないような無理な補修スケジュールが組まれており、現実の欠陥補修はなかなか実質を伴わないものばかりで、今でも消費者は補修交渉に疲れています。
このようなわけで“相手変われど主変わらず”。消費者はなかなか手抜きからは解放されていないのです。せめてものこと補修問題について自動車のように補修が定型化され、早急に補修が行われるようになってもらいたいものです。いうならばこの今の性能の手抜きのほうが高等かつ悪質で消費者の救済もなかなか大変です。

3、現在の状況

――素人には判らない性能の手抜き――

初期の「手抜き欠陥時代」から現在の「性能の欠陥時代」まで年月と手間とが費やされていますが、契約当事者やら業者が前向きに手抜きは手抜き、欠陥は欠陥と割り切ってビジネスライクな解決に入りやすいようにしていくのが現在の私たちの使命だと思っています。
まあ以上で欠陥住宅の発生、原因、現況を申し述べましたが、これをより少なくし、消費者の嘆きをより少なくするには、今までに説明しました「なぜ欠陥住宅が生まれるのか」の原因をかみしめ、契約を頼む生産者についても新聞や雑誌などの媒体で住宅会社を選ぶよりは自分の身の周りの地場の工務店と知り合い、誠実な住まい造りをしてもらい易いように努力するのが大切でしょう。
欠陥住宅は無くなることはないにしろ、より少なくなってほしいと望んでいます。私もこの問題を手掛けてもう40年になろうとしており、“日暮れて道遠し”の感をぬぐえませんが、それでも少しずつ良くなってきているのではないかと思っています。住まいに対する消費者の嘆きがより少なくなればと思ってよりその努力をしています。

4、住宅の生産システム

先ほど触れました、住宅の生産システムについての消費者の理解が少ないことが、欠陥住宅を生む最大の原因ですので、以下あらためて住宅の生産システムについて解説したいと思います。
住宅は大衆が理解していた他の商品の物つくりとは違って、ひとつずつが異なった手による異なった要求が原点であることが忘れられていました。
欠陥住宅はそんな情勢を背景に生まれたのです。
大きなメーカーが良い住宅を作る。そう思う消費者大衆の目には大工や棟梁の「手つくり」が忘れられていたのです。同じものを大量に作るわけではないので、本来大量生産を前提にする他の工場生産品とはわけが違うのに、勝手に大きな組織ほど良い家を造り、新聞や雑誌の広告ページを飾っているのだと錯覚したことが悲劇の始まりです。
そのような訳で、住まい造りの原点である一つ一つの個性の違いと、個人信頼の原点が忘れられて、大きなメーカーほどより安く、より早く、欠陥のない住まい造りをしてくれるものと思われていました。
高度成長の物作りの最終列車として登場した住宅生産は、このように住宅がひとつひとつの手つくりによる個別生産で、本来大メーカーなどはあり得ず、メーカーであると思っている○○住宅は単なる注文取りの組織で、「大衆には自ら生産すると誤解させて、実は下請け任せの生産をしているのだ」との理解がなかったため、多くの消費者が大手会社の広告に騙されたのです。
「大メーカーだけが欠陥のない住宅をつくる」というのは単なる幻想にすぎなかったのです。

5、欠陥住宅を正す消費者運動の登場

昭和40年代の高度成長も終わりを告げた頃、昭和50年代にかけて欠陥住宅問題が世上を賑わしました。
この『正す会』もその当時に悲涙を飲んだ欠陥住宅犠牲者が集まって作られたものです。
何よりも大切なことは消費者が、メーカー→1次下請け→2次下請け→地場の工務店→大工棟梁という住宅の生産システムの特質を理解して、大メーカーという名だけに期待を寄せすぎないこと。住宅が大工や棟梁の手つくりであることを認識し、広告やセールスマンで住宅を選ぶのではなく、誠実なものつくりをする人か否かの観点から選ぶべきこと、つまり「会社で選ぶのでなく人で選ぶべきである」などがこの『欠陥住宅を正す会』の初期の段階で認識されました。
この時代の欠陥は「手抜き欠陥」ともいうべき材料や手間を手抜きすることに特徴があったのですが、平成10年代の初めに登場した違法木造3階建て住宅いわゆる「木3時代」からは見え透いた法規違反の手抜き欠陥は姿を消し、欠陥であることがたやすく発見しにくいプレハブや型式住宅などの欠陥が多くなって、いわば「物の手抜き」から「性能の手抜」きの時代に変わりました。
プレハブや型式住宅はいわゆる「認定住宅」といって特殊な材料や工法を建設大臣に認定してもらって作るものなので、この大臣の認定した設計図書、いわゆる「認定図書」が欠陥判断の決め手となるのです。しかしメーカーは意識的にその認定図書を契約に際して交付しないようにしていますので、専門の建築家に欠陥調査を頼んでも中々欠陥であることが発見されにくいのです。
今の多くの欠陥住宅はそのこともあってか、認定図書がなければ欠陥かどうかを判断しにくい躯体部分の欠陥には我々専門家グループもなかなか手が付けられず、多くは認定図書がなくても判断できる地盤補強や基礎の手抜きが紛争の中心になっています。
ですから、これから住宅を購入注文する方はできるだけこれら認定工法による型式住宅やプレハブ住宅の購入を避けられるのが賢明であると思います。もしプレハブや型式住宅を買われるのなら、あらかじめこの認定図書の交付を受けておかれることです。
長く難しいことを縷々申しあげましたが、要はどのような商品の購入の場合も同様で、注文に際して買われる住宅の性能や内容を詳しく記した認定図書をもらっておかれれば後々のためには無難であるということです。
自動車や時計などその他の住宅以外の高額商品を買われる場合にはその機械の詳細の文書を手に入れろという話は聞いたこともないし、また住宅以外の多くの商品はそんなことをしなくても安全で快適な商品が入手できるのに非常に残念なことです。
色々とお話ししたいこともありますが、私たちは『欠陥住宅を正す会』の運動を通じてこのような結論を得たわけで、消費者がこのような認定図書まで手に入れる必要のない住宅(住まい造り)ができるようになる日を期待し、心待ちし、それへの努力を続けていきたいと思っています。

おわり