クレイメン率いる特務部隊が帝國に反旗を翻したきっかけは、ドローンのアゼルが発掘されたことだった。アゼルは塔を制御する力を有していて、帝國がアゼルを手にするということは、塔が帝國の制御下に置かれるということを意味していた。クレイメンはそれを「人類の危機」と判断したのである。

 帝國は、旧世紀の遺産を手に入れようとして、数々の失敗を犯している。特0号噴進弾ヴァラーハの実験失敗で都市を消滅させたり、塔を起動させようとして首都に大きな被害を出したりもした。クレイメンは、原理も十分に理解しないまま、安易に旧世紀テクノロジーを手にしようとする帝國のやり方を間近で見てきた。もし、塔を帝國が手に入れたら、帝國は攻性生物を兵器として使い、そして失敗する。そうなれば今度は地方都市が消える程度では済まない。クレイメンの反乱の最初の目的は、アゼルが帝國の手に落ちるのを阻止することにあった。

 しかし、それだけが目的なら、塔に向かう必要はない。それに、遺跡に細工して帝都を壊滅させたのは、帝國軍の出鼻を挫くことで、自らが塔へ辿り着くまでの時間稼ぎがしたかったためとしか考えられない。クレイメン艦隊は、そのために幾多の人間を殺し、自分達も命を捨てる覚悟をしていた。クレイメンの真の目的地は塔だったのである。

 ここで問題となるのは、その真の目的が何だったか、ということである。もちろんシーカー達のように塔の破壊が目的ではないことは明らかだ。だが、クレイメンが塔による世界支配を全面的に是認していたとはどうしても思えないのだ。実際、アゼルもクレイメンについて「世界をあるべき姿にしようとしている」と言っている。

 塔による世界支配の目的は環境再生である。これ自体はいいのだが、再生した自然環境を守るために、人間の数に至るまで管理される、即ち塔が人間を計画的に殺害することが問題なのは周知の事実である。これを止めさせようと考えるのが、人間として普通の感覚なのではないか。とはいえ、塔を破壊してしまえば環境再生は覚束ないのもまた事実だ。クレイメンは、この2つを両立させるために塔へ向かったのではないか?むしろそうでないと、死んでいった者達は浮かばれないだろう。

 クレイメンは、必ずしも間引き賛成論者ではないと思う。むしろ、行き過ぎたテクノロジーを人類が手にすることを危惧したのではないか。旧世紀テクノロジーは人類の手に余るし、それを手にした帝國は、浪費と戦争しかせず、かえって環境を悪化させているとクレイメンは考えていた。旧世紀テクノロジーを手にした人類は、永遠に自分の首を絞め続ける、と。逆にいえば、旧世紀テクノロジーが人類の手に届かないところにあるなら、そのような悪循環はおきない、ともいえる。そう考えると、クレイメンは帝國を滅ぼすつもりだったという結論に行き着く。帝國のような組織があれば、人類はいつか旧世紀人が手にした全ての物を再び手に入れ、今度こそ完全に滅びてしまうので、帝國には消えてもらわないと困る、と考えたわけだ。アゼルを手に入れて塔を起動させて、追いかけてきた帝國軍を叩くつもりだったのだろうか。

 そして、残る問題は間引き。環境再生の敵は「人類」ではない。本当の敵は「旧世紀テクノロジーを所持した人類」である。…という思想を前提に考えると、間引きは全然必要ではなくなる。旧世紀テクノロジーになるべく人類が触れないように、遺跡を攻性生物が警備すれば十分だ。ただ、現状は休眠中の遺跡や塔が多いわけで、簡単に侵入を許してしまう。その現状を変えるためには、セストレンによる管理システムをいじって、全ての遺跡を再起動させるしかない。(そうすれば、環境再生のスピードも増すだろう)さらに言えば、全遺跡が十全に機能すると間引きがひどくなるので、これも管理システムを改変して止めさせる必要もある。

 そして、クレイメンが考えた管理システム改変のための切り札がアゼルだった、というのは飛躍し過ぎだろうか。クレイメンが、アゼルに関する情報をどこまで持っていたか不明だが、塔をコントロールできて、時には破壊もできる、ということぐらいは知っていただろう。管理システム、即ちセストレンに全てを任せているといっても、問題があった時の奥の手は必要で、旧世紀のいわゆる賛成派もそれを持っていたのは想像に難くない。クレイメンはその奥の手がアゼルであって、アゼルを使えば管理プログラム変更ももしかしたら可能かもしれない、と思っていた節があるのだ。もしそれがだめでも、塔の起動は確実にできるので、帝國軍の無力化は可能だろう、と思っていたはずだ。話をまとめると、クレイメンが遮二無二塔へ向かった理由は、「帝國軍の無力化」「塔を含む旧世紀遺跡群の再起動」「管理システム改変」のためであり、それらを可能ならしめるのがアゼルだったということだ。

 誤算だったのは、アゼルの「塔をコントロールする力」が復活しなかったことである。それにより、帝國軍とクレイメン艦隊との圧倒的な戦力差は如何ともし難くなり、クレイメン艦隊は壊滅した。クレイメンは選択をエッジとアゼル、かつて一緒に戦ったドラゴンに委ね死んで行った。結局エッジ達はセストレン破壊の道を選んだわけだが、「旧世紀テクノロジーを人間に触れさせない」という目標は一応達成されたことになる。その結果が、失われた人命と同価値かどうかは微妙なところで、クレイメンが歴史的英雄か、ただの虐殺者なのか、明確に判定することは難しい。生き残った人々が、帝國と旧世紀遺跡のなくなった世界でどういう社会を築くのか。それによってクレイメンの歴史的評価は確定する。クレイメンが歴史的英雄であったことが証明されることを願ってやまない。

2001.06.19


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