第1章・再生する機械

1.再生する機械

 我々が知りうるテクノロジーよりもはるかに高度な旧世紀のテクノロジー。その根幹を成す技術は、再生可能な機械を造り出す技術だと言えるだろう。再生可能な機械を開発した恩恵は計り知れないほど大きい。まずメンテナンスの手間が軽減される。現在の機械は故障が多く、メンテナンス自体が商売になるほどだが、自己修復で直す(治す?)ことができれば、余程のことがない限りメンテナンスは不要となる。さらに言えば、閉鎖循環系(必要な物質全てを内部で賄うシステム。究極のリサイクル)の構築が可能なら、機械は半永久的に稼働することができる。逆に言えば、閉鎖循環システムが破綻した機械は、いつか壊れて動かなくなることもあると想像できる。死んだ遺跡や出力の低下した塔、壊れたエンジンなどがまさにそうなのかもしれない。

2.生体組織

 旧世紀の機械は、「生体組織とマシンのハイブリッドで、それを白い装甲でくるんだ形」というのが基本である。普通に考えれば、生体組織があるゆえ、旧世紀の機械は再生可能になっているということになる。まずはこの「生体組織」から話を進めようと思う。

 生物の体を形作るもの、それが生体組織である。細胞の一つ一つに存在するDNAは、自らをひな型にmRNAを作り、タンパク質やアミノ酸、酵素を必要に応じて生産することができる。それらを材料として使うことで、常に同じ状態になるようにしている。たとえ組織が傷付いても、修復可能というわけだ。DNA自身にも、簡単な自己修復機能が備わっている。

 しかし、若干の問題がある。DNAは比較的丈夫にできているが、さすがに数百年同一性を保持できるわけではない。生物にとって、DNAがエラーを起こすことは進化にもつながることだが、機械にとっては「変わらないこと」が肝要なのだからそれは排除すべき要素ではないのか。

 これを回避するためには、DNAが果たしている一部の役割を機械に委ねる必要がある。すなわち、「生体組織の設計図の保持」と「生体組織維持のための指示」を機械(コンピュータ)に担わせるのである。生体組織は、結局のところ化学反応やイオンの出し入れなどで情報を伝達しあっているのだから、機械でコントロールすることが可能なはずだ。もちろん、コンピュータでもプログラムが壊れることは避けられないが、複数を同時稼動させ、常に相互にプログラムに異常がないか監視しあうことで防げると思われる。そして、DNAやRNAはコンピュータの支配下に入り、エラーが起きないように厳重に監視されながら、生体組織の維持の実作業を担うのだろう。

 もう一つの問題は、必要物資の補充の問題である。生体組織は代謝によって自らを更新しながらそのままの姿であろうとし、それによって生じた老廃物は排出されるので、減じた分の物資は外部から補充しなければならない。しかし、我々が知る限り、旧世紀の機械は基本的に外部からの補給がなくても半永久的に動くものだ。つまり、旧世紀の機械には、老廃物を再処理して、再利用するプラントが備わっているのである。

 長くなってしまったが、要は「生体組織全体のコントロール」と「老廃物質の再処理」を機械に手伝ってもらうことで、生体組織は長期間変わらずにいられるということである。

3.生体組織が機械を修復する

 生体組織の生体反応(化学変化)を利用して無機物の結晶を形成する技術を「バイオミメティック技術」という。何度も言うように、生物の組織は、分子科学的に言って様々な化学反応によって維持されている。その化学反応を利用して、無機物を思い通りに結晶化したり、またそれが壊れた場合は修復することができれば、生体組織上に無機物で構成された機械を自由に発現・修復することが可能になるわけだ。

 しかし、現状ではセラミックスや金属、様々な新素材は、特殊な条件下でないと精製・成形できない。

セラミックスは高温で焼いて作る以外に方法はないし、金属にしてもドロドロに溶かして成形するしかない。常温の生体組織内で、化学反応だけでそれらの素材を形成する技術を現代の我々は保持していないのである。それに、それらの素材と生体素材との相性の問題もある。将来、これらは可能になるのだろうか。

 困難を打ち破る鍵は、ケイ素が握っているのかもしれない。ケイ素は炭素に近い特徴があり、ケイ素化合物も多彩である。そして、有機ケイ素化合物、すなわち炭素とケイ素を中心にした物質には多くの可能性が秘められているといわれる。有機ケイ素化合物とタンパク質は、同じく炭素を含む化合物だけに相性が良く、例えばタンパク質で大まかな形を作り、有機ケイ素化合物が補完をすることで、白くてs非常に堅くて軽いような素材を作り出すことが可能ではないか。そして、触媒を工夫することによって、生体組織内でそれらを合成し、機械などを組織内で構築することも可能になるはずだ。そしてこれこそが、攻性生物にも関連する、旧世紀テクノロジの根幹を成す技術なのである。


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