第2章・攻性生物概論

1.特殊な生命体・攻性生物

 攻性生物、殊に純血種は、遺跡やエンジンといった「旧世紀機械群」と同じ素材で構築された生命体である。だが、だからといって同じ技術で作られているわけではない。旧世紀機械群は、生体素材をあくまでも素材として扱い、その力で壊れた箇所を修復させ、半永久的な稼動を実現しているのに対し、攻性生物の場合、1つの全能細胞を成長させれば、セラミック似の堅固な装甲や光学兵装、補助エンジンに至るまで全ての装備が「生えて」くるようになっている。元から存在するものを直せばいい旧世紀機械群と、遺伝子によって1から成長させられる攻性生物とでは、あまりに技術的難易度が違うことは誰の目にも明らかである。

 通常、生物はDNA(RNA)を遺伝物質として使う。構造上、同一のコピーを作り出すことが容易だからである。さらに言えば、RNAを「型」にして、必要な時にアミノ酸や酵素などを作り出し、生体を維持することができるからである。しかし、知っての通り、タンパク質で形成された生物の体はやわらかく、熱などにも弱い。普通に考えれば、セラミック装甲やレーザー発振器などが生えてくることはありえない。そういう点から見ても、攻性生物は特殊な生命体なのである。

2.生物の体に新素材を使え

 通常、化学反応というのは外部からのエネルギー注入がないと進まない場合が多い。具体的には、熱を加えなければダメなわけだが、生物の組織上では、あまり熱を加えるとタンパク質等が壊れてしまうので、それにも限界がある。そのため、生物は酵素を化学反応を促進する「触媒」として使用している。例えば、

酵素をまず作り、これを触媒にして特殊な金属系触媒を作って、できた触媒で装甲などを形成する、というのはどうであろう。こうすれば工程が増えることになるが、常温下で合成できる物質の自由度が飛躍的に向上し、旧世紀機械群と同じ素材でできた器官を、生物の上で発現させる道も開けるのではないだろうか。もちろん、それが本当に可能なのか確かめる術はなく、例え可能だとしても、それを遺伝子が制御しうるのか微妙である。あくまでも可能性の話として捉えていただければ幸いに思う。

3.成長(修復)・代謝・寿命をコントロールする

 兵器に生物を採用した大きな理由の一つは、前線において頭数が足りなくなった時に、単為生殖によって補充することができれば、戦略的なメリットが大きいと考えられたことであろう。しかし、考えてみてほしい、分裂して成体に成長するのに、例えば数日かかっていては意味がない。その場合、後方から補充した方が早いからである。そのため、おそらくは成体になるまでの時間は、最低でも数時間程度であると考えられる。しかしこれは驚異的な速さである。細胞分裂にはそれなりの時間がかかり、単純な酵母でさえ1回の分裂に20分程度を要する。何らかの方法で準備期間をキャンセルできたとしても、「数時間で成長する巨大な攻性生物」っていうのは微妙である。成長スピードを速くしたくても、物事には限度があるということだ。無理に高速化しても、エラーの可能性が高くなるだけであろう。ただ、基本にある代謝をかなり高速化できればできそうな気もする。

 代謝というのは、生命活動そのもののことと言ってよい。細胞を常に新しい状態に維持するために、DNAはmRNAを作り、mRNAはタンパク質などを作る。必要な物質は外部から取り入れ、不要なものは排出する。このサイクル、すなわち代謝が停止するということは死に等しい。そうなった細胞は朽ちていくだけだからである。ところが、攻性生物の場合、代謝を停止した状態で何百年間もの間休眠することができる。メカニズムは不明だが、攻性生物は代謝スピードをかなり大きな幅で変化させることが可能なようだ。限り無く0に近くまで落とせば休眠、限界まで速くすれば「爆発的成長」「傷を一瞬で修復」が実現するのではないか。

 おそらく攻性生物(純血種)は不死であると思う。普通の感覚で考えると、生物に寿命があるのは当然のような気がするが、実は生物は基本的には不死である。種内の多様性を保つため、わざわざ寿命が設定されていると考えていい。それゆえ、その設定を変更すれば限りなく不老不死になる。ただ、変異種には寿命があるようだ。これについては後で触れたい。もう一つ、活性酸素が老化の原因と言われたりもするが、多分攻性生物は呼吸に酸素を用いないので影響はないだろう。

4.エネルギー供給の問題

 攻性生物(純血種)は、消費するエネルギー量が通常の生物とは比較にならないほど多いと思われる。そのため、体内に強力なエネルギージェネレーターを内蔵していなければ活動できないはずである。しかし、それを内蔵してしまうと、当然のことながら体が大きく重くなってしまい、下手をすれば兵器として使えなくなってしまう。これを解決する一番の方法は、エネルギー供給を外部から受けるようにすることである。具体的には、普通の純血種は、普段は塔や遺跡、空母型旧世紀兵器などに接続された形で休眠していて、いざ有事の時は目覚めて戦い、消耗して帰ってきたら、エネルギー補給を塔や遺跡から受ける、というやり方だ。もう一つ付け加えれば、タンパク質などの物質や、白い装甲や光学兵装の維持に必要な、特殊な物質の補給をも受けている可能性が極めて高い。攻性生物は、物資供給の面から見ても塔や遺跡の支配下にあるのだ。

5.変異種の発生

 物資供給をある程度外部に依存していると思われる純血種にとって、塔や遺跡の機能停止(低下)は由々しき事態であると思う。遺跡の内部なら、適当に転がって休眠していればいいのだろうが、外界ではそうもいかない。その場合、純血種は生き残るため、自らを大きく変化させることになる。

 まず、エネルギー消費が激しい光学兵器は、使えなくなってしまう。もしかしたら、特殊なレンズなどの素材の供給停止で、兵器自体の維持が困難になるかもしれない。同様に、白い装甲も必要最小限のものになり、装甲の色も周囲の環境に合った色に変化するだろう。純血種であれば十分に強いので、迷彩をする必要はなかったであろうが。そして、全体的に身体は小さくなると考えられる。エネルギー消費を抑えるためである。

 さらに、必要な物資を取り込むために、他者を捕食せねば生きていけない。純血種には消化器官はないと考えられるので、他の器官を変化させて対応する必要がある。変異種が、どのように獲物を消化するのか、試料がないのでなんとも言えないが、腹腔内に丸呑みして時間をかけてドロドロにしてしまうのであろうと想像できる。食虫植物が用いる方法に近く、消化器官の発達を必要としないからだ。狩りに使う麻痺毒や、消化に使う酸などは、生体弾生成器官の能力の転用ではないか。

 そして、環境に適応して生き残るために、生殖の面でも変化を強いられる。純血種には、自己のコピーを製造する能力が備わっているが、その能力は通常は必要とされない。しかし、いざ塔や遺跡に頼れなくなった時、そうも言っていられない。あらゆる手段で、種の保存を図らねばならなくなる。とにかく複製を作りまくり、エラーを進化に利用しようとするもの。雌雄の別を発生させ、多彩な組み合わせで種の多様性を実現しようとするもの。いろいろな道を進む変異種がいるはずだ。寿命にしても、世代交代を促すために必要なので、いつか老化して死ぬことを選択した変異種も多いだろう。もちろん、そういった生殖や死を拒否し、一人で頑張る変異種も考えられないことはない。

 純血種と変異種。あまりにも違う両者に対しては、最長で数千年の隔たりがあるにせよ、違いが大きすぎて進化の常識から懸け離れているのではないか、という声もある。しかし、純血種が補給を外部に依存していることが事実なら、簡単に説明が付く。純血種は自立するために、大きな変化を強いられるのである。普通に塔や遺跡のシステムが稼動していれば、変異種があのようにたくさん発生するはずはないのだから、昔一度全ての遺跡が機能停止させられたという噂は本当かもしれない。

6.まとめー攻性生物は本当に必要だったのかー

 攻性生物の役割は何か。塔(遺跡)を守ること、塔を人間から遠ざけること、人間を殺すこと。この3つであろう。だが、正直言って攻性生物でなくともできる仕事である。旧世紀機械群の技術を使えば、無敵の軍隊を作り出すのはもっと簡単なはずなのに…である。先に述べたように、生物を採用したのは、単為生殖による頭数の補充と、環境に適応する能力を重視したためであろう。しかし、もし戦力が足りなければ塔から追加派遣すれば済むことだし、環境適応に関してもいろいろなタイプの兵器を生産し、状況に応じて使い分ければいいだけである。戦場に行ってから、やれ単為生殖だ環境適応だと大騒ぎするのは言うまでもなく戦略上大問題ではないか。

 最大の疑問は、遺伝子という「ゆらぎ」のあるものを、なぜシステムに組み込んだのかという点である。確かに、100%完璧なシステムというのは存在しないので、システムが不調の時に、生物の適応放散に期待するのは逆転の妙案と言えなくもないが、システムにわざわざ不確定要素を盛り込むのは、科学者や技術者の在り方としては疑問を感じるのだ。結局、自分達が作ったシステムに信頼がおけなかったのかもしれない。それを補完するための攻性生物…だったのではないか。変異種があふれる今の世界は、果たして彼らの計算の範囲内だったのだろうか。どちらにしろ、バイオハザードが大地に取り返しのつかない傷を残したことは間違いない。


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