退院
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入院生活も慣れてくるとだんだん生活リズムってものができてきます。朝起きて朝食 → 検診 → リハビリ → 昼食 → 昼寝 → 夕食 → 就寝。寝てばっかりです。ヒマです。ヒマすぎ。 こんな生活をず〜っとしてると、たまにお見舞いに来てもらえると涙ちょちょギレるくらいに嬉しかったり。 ふと思ったんですが、この生活というのは犬ですよね。犬。ご主人様がいない間はゴロゴロとしてて、ご主人様が来るとしっぽ振って喜びまくり。ん〜。似てる。まぁしっぽ振って喜ぶ対象がお見舞いに来てくれた人ってトコが違いますけど。 一応私も人間なんで、もっと人間らしい生活をしなくちゃいかん。ということで、犬並みの生活から脱出するために小説なんてモンを読むことにしました。 時間はたっぷりあるんで、長編モノを読んでやろうってことで『宮本武蔵』をチョイスしました。マンガ『バガボンド』の原作ですな。 この日から空いた時間は全て小説を読む時間に設定。んでこの日から私はなんちゃって宮本武蔵になりきり。刃は持っちゃいないが、松葉杖は二刀流だ。文句があるならかかって来い! なんだこのヤロウ。あ、これはアントニオ猪木だ。 それにしても、運ばれてきたときを思えば元気になったもんです。骨はくっついていなくても、痛みさえ取れれば何とかなるもんなんですな。 病院の方も元気な患者をいつまでも入院させておいてくれるワケもなく、いよいよ退院となりました。入院生活も飽きてきてたんで、ちょうどいいか。思い残すことがあるとしたら、もっと看護婦さんと仲良くなっときゃよかったって事くらいです。 あばよ! 病院。もう世話になることも無いだろうよ。といいつつボルトを抜くときにゃまたお世話になるんですが。 なんにしろ、いろいろお世話をしてくれた看護婦さん、ありがとうございました。何度も痛い思いをさせてくれた執刀医の先生、ず〜っと覚えておきますから。 また怪我して運ばれることの無いように、これからは気をつけようと心に決めて病院を後にしました。
退院して、さぁやっと家に帰れるぞ。と思ったんですが。家に帰るためには入院するハメになった怪我の原因、アパートの階段を上らないといけません。 私の前に立ちふさがるアパートの階段。健康な私ですら TKO に追い込んだ階段に、今度はギブスに松葉杖という非常に不利な条件で戦いを挑まなくてはいけません。 無謀。無謀です。あまりに無謀な戦いです。今この戦いに挑むのは勇気とは言わないでしょう。ここでまた転倒し、病院に逆戻りすることは許されません。勇気ある撤退。しばらくの間、平屋である実家にお世話になることにしました。 実家にお世話になりながら、日々リハビリに励み落ちた筋力を取り戻し、しっかり食事を取り骨がくっ付くのを待ちました。あの階段を自分の足で上るために。あの階段へのリベンジを果たすために。 そして月日は流れ、足のギブズが外れる日がやってきました。松葉杖はまだ必要なものの、ようやく自分の足で歩くことができるようになったのです。そうです。いよいよあの階段にリベンジを果たす日がやってきたのです。 雨の降ったあの夜。レースに行く前だというのに、滑って転んでポッキリ骨折。あまりの冗談じみた話に最初は誰も信じちゃくれませんでした。私だって信じられません。ホントにレースで骨折してた方がよっぽど格好がつきます。 そんな笑い話も今終わる! さぁ上るぞ!。 両側を壁に囲まれ、手すりもなんも無い急な階段。滑り止めもついていない急な階段。幸いにも今日は雨が降っていません。何とか滑らないように、一段一段、ゆっくりと上っていきます。 小説の中の宮本武蔵は、釘を踏み抜き腫れ上がった足で岩山を登ります。なんちゃって宮本武蔵である私は骨折した足でアパートの階段を上っています。上りきった先には一体何があるというのか。迷わずいけよ。いけば分かるさ。ちなみにこれはアントニオ猪木。 しかし階段というのはこんなにも不安定で、こんなにも疲れるものだったんですかね。まだ上手に歩けていないってのもあると思うんですが、なんかフラフラして危なっかしいですし。こういうときに手すりのひとつでもあれば、ホントに楽に上がれるのに。 一段一段、ひぃひぃ言いながら上っていく階段。きっと長男よりも遅い足取りで上っていく階段。ゆっくりであっても、確実に家に近づいています。 2階。3階。4階。もうすぐ我が家です。最後の一段を上りきったとき。目の前に見慣れた古いドアが現れました。我が家です。ようやく我が家まで辿り着きました。これにて入院生活も完璧に終了。明日から我が家での生活です。 |