環境汚染

環境汚染


 最近「環境ホルモン」という言葉がマスコミで取り上げられることが多くなり、特にダイオキシンについては発ガン性が問題になっています。化学合成物質の中には女性ホルモンや男性ホルモンに似た作用を持つものがあり、その毒性によって生殖機能や免疫機能が障害されることが分かってきました。
 この「環境ホルモン」にはダイオキシン以外に農薬(殺虫剤や除草剤など)や産業化学物質、合成製品など多くの化学合成物質が含まれています。これらの「環境ホルモン」の影響によると考えられる多くの生物の奇形や異常な生殖行動が世界各地から報告されていますし、さらに人間においても男性の精液1ミリリットル中の精子が数十年の間に40%も減少しているといわれています。「環境ホルモン」が深刻であるのは世界中の大気、河川、土壌、食糧などがすでに汚染されていること、人体にも蓄積されており次世代への影響も心配されていることです。 環境汚染については30年以上も前に警告をしている人がいます。アメリカ人の女性科学者レイチェル・カーソンで、1962年「沈黙の春」という書物の中でDDTなどの殺虫剤が環境に与える害を説き、このまま無制限に農薬を使用していけば春になっても花も咲かず鳥も現れない時が来ると警告したのでした。カーソンはもちろん人間に対する影響も警告したのですが、最近の「環境ホルモン」の問題はこの心配が現実のものとなってきたことを示していると思われます。
 地球温暖化やオゾン層の破壊も人類が直面している重大な問題です。石油や石炭の燃焼によってできる二酸化炭素には地球表面から放射される赤外線を吸収する働きがあり、産業革命以後増え続けている二酸化炭素による地球の温暖化が心配されているわけです。 地球温暖化により海面水位の上昇や異常気象が起こり、農業にも大きな影響がでるだろうといわれています。また、地球を取り囲んでいる成層圏にはオゾン層があり、このオゾン層が太陽からの有害な紫外線の99%を吸収してくれています。このオゾン層が破壊されつつあることが観察されています。これは冷蔵庫、エアコン、スプレーなどに利用されているフロンガスが成層圏に蓄積されたことが原因とされています。オゾン層が破壊され紫外線が直接地球に降り注ぐことになれば皮膚癌や白内障が増加することが考えられます。 その他にも酸性雨の問題、放射能汚染の問題など多くの環境汚染が問題となっており、それぞれが人類を含んだ全ての生物の存続を左右しかねない深刻な問題となっています。 現在問題になっている環境汚染は、以前に日本で問題になった公害とはいくつかの点で異なっていることに気づきます。まず汚染が一地域だけでなく地球全体の問題となっていることです。また、被害の実態がわれわれの目にはわかりにくい形の汚染であったり、慢性的に徐々に進行する汚染であるために実感がわきにくいという面もあるようです。さらに、以前の公害では一企業が加害者で地域住民が被害者という単純な図式であったものが、現在の環境汚染はわれわれ自身が被害者であると同時に加害者でもあるという面があることです。現在環境汚染の原因となっている物質は科学技術の進歩により生み出されたもので、これらの科学技術や化学合成物質の恩恵によりわれわれの生活は豊かなものになってきたわけです。事実、DDTやフロンガスなどは無害ですばらしい物質であると考えられ広く利用されてきた物質なわけです。またその物質が非常に安定してこわれにくい性質を持っていたために、人間がその害に気づいた時には全世界に蓄積されていたのです。
 人類は他の生物と違い大きな脳を持ち知性を獲得しました。この知性によってすばらしい文化を築き、科学技術を発展させ、これまで地球上に存在しなかった多くの化学合成物質を生み出してきました。これらの人間の活動によって地球の環境が破壊されつつあることにわれわれは気付き始めたのです。地球を取り囲む大気について考えてみましょう。
45億年前地球が誕生して間もないころの大気には酸素がなく、二酸化炭素、窒素、イオウ、塩素ガスなどから構成されていたと考えられていますが、海ができると大気中の二酸化炭素や塩素ガス、亜硫酸ガスが海に溶け、大気中の二酸化炭素は減少していきます。38億年前に地球上に最初の生物が誕生した後、多くの生物が進化によって生まれていきます。27億年前になると光合成(太陽エネルギーと二酸化炭素を利用して炭水化物を合成し酸素を放出する)をおこなう生物があらわれ大気中の酸素が上昇していきます。当時の生物にとっては酸素は毒であったのですが、酸素を利用できる生物が誕生し、現在では多くの生物は酸素がなくては生きていけないようになっています。また当時の地球上には太陽からの有害な紫外線が降り注いでおり海水中以外では生物は生存できる状態ではなかったのですが、大気中の酸素が太陽光線の中の紫外線によってオゾンに変えられオゾン層が形成されることにより地表にとどく紫外線が減少し、生物が陸にあがる条件がととのえられていきます。このように現在の地球環境が成立するのには何十億年もの長い時間がかかっており、生物もその環境に徐々に適応していったわけです。それが人間の活動により、たった100年ほどの短い期間に地球環境が変化させられようとしているのです。地球環境だけではありません。地球上の生物は直接的、間接的にお互いに影響を与えあっています。急速に減少しているといわれる熱帯雨林の植物は二酸化炭素を吸収し酸素を放出しています。目に見えない土壌の中の微生物は老廃物を分解したり、植物に対して栄養を供給しています。一種類の生物が減少すれば生物界のバランスがくずれる心配があるわけで、人間にとって有害か無害か、人間にとって必要かどうかという判断は危険なことになるわけです。人間が作り上げた都市の中で生活していると、われわれも地球上の生物の中の一種類であることを忘れてしまいがちになります。地球もひとつの生命体であるという考えが今日ほど重要になっていることはないのだと思われます。