あえて
呆気にとられていた。
ぼーっとしていた。
白い月が空には浮かんでいる。
ぼくは、走るのをやめても良かったのに。
危険を感じて、そうたいしたことでもないのに、人から見ればどうでもよいことなのに、一人で焦って、逃げ出した。数々の仮面が無意識のうちに潜入してきて、あの化粧が、一つ一つ、妙な味に変化して。そして、空が暗い。本当はいるみねぇしょんでうるさいほど明るいはずなのに、毎日の暗さがやっぱりあったりすることに気付く。だから、やっぱりあれは強調して、輝いて見える。普段の自分の仮面は、絶対に、緊急に、はがされる。野うさぎの黒っぽい部分に同調しながら。
波のない人生に生きていながら、欲望した明るさが、逆にとんでもなく虚しさを運んでくる。じっとしていたくなる。抱きしめたい。矛盾した合流点は、いつも先の蜃気楼のように頓挫して。ばかになる。はいりこめないばかになる。先を見て、信じられないくらい期待して、ちょっとやそっとでは動かない破廉恥な肉体も、一瞬のうちに、幻想のうちに、流されて、流されて死して、幻想で。
なのに楽天家と呼ばれて、マイペースだといわれて、もっと交わりを持ちたいのに。あのうさぎの耳のような髪飾りも、うさぎの目のようなコンタクトも、ほわっと惑う頬紅も、世界の象徴の前に、造られ、そして、ハードに破壊していく元凶となっているような気がする。真面目に、あの木の根っこの梅干しが、とっくに干からびて、それから効力を示すような。自分は存在したい。ただそれだけで。
走った。橋を越えるのがつらかったけれど、走った。まわりには誘惑の渦となって飛び込んでくる、きたない光がある。風を吸い込むように走り去って、いつかの、段ボールの、公園にたどり着く。いつものベンチに味を占めて、どっぷりオリオン座を見つめる。いつもは見えないはずのオリオンは、この公園にいるときだけ、ぼくに視力を与えてくれる。狩人の走っている姿からは、つらいほど涙があった。いたたまれなく全てを知りたくなった。無駄な、本性のような欲望が、あっさり抱き合って、自分からは届かないところにある、音、が。何もできないけれど、自分らしい弱さが、はっきりと、向こう岸に繋がり、そして、愛くるしい音を立てて……切断。
あえて、ねらう