98/1/15UP

 

別れの手紙

内舘牧子・高樹のぶ子
瀧澤美恵子・玉岡かおる
藤堂志津子・松本侑子

角川文庫

本屋で角川文庫の新刊を見ていたら、松本侑子さんの名前があったのでこの本を手にし購入しました。松本さんは以前に「別れの美学」という本を書いていて、それを読んだのでどんなお話を書かれているのか興味がありました。確か、同じ角川文庫から文庫化されています。(それを誕生日プレゼントにした記憶があります。後でとやかく言われたけれど。)

この本ですが、作者六人による短編六編です。その他の人達は、あまり本を読まない私にとって初めてなのです。なぜか、以前に読んだことがある人の読んでない本もそうですが、まったく初めての著者の作品を読むときには、読み始めに多少の不安があります。ただの文字の列挙だけれど、その世界は何もない空白の世界にぽっと投げ出されたも同然です。でも、それがいいのです。

普段は物語なんて学校の教科書くらいしか読まないので、久々という感じです。今度機会があったら長編も読んでみようかな、と。この本は六人が別れの手紙をキーワードにして書いたものなので、高二の男が読むのもなんか変な気がしますが、まあそこら辺は自由なので素直に読みました。

17歳にとっては色々な人生があるのだとまず思い、そしてそれはこれから身を持って実感していくものだと思います。自分の様々な境遇にシンクロナイズして有効な選択ができると信じています。

物語の主人公の考えていることは、大まかにそのまま著者の考えであるように見えます。それは妙に考えてしまうものが多いのです。

一番初めの物語は普通のサラリーマン家庭の苦悩がでています。平凡な毎日のために妻と夫は互いに機械的な感情を持つようになってくる。でも、実は生きる目的を探して苦悩しているのだと。自分の持っている夢というものを抑え込んで生活していくのは、毎日微かにストレスがたまっていくものなのですね。まだ解りませんが、今このようなことはよく起こっているのではないでしょうか。夫は、妻へ経済的な責任みたいなものを感じて、それは妻の生活的な責任から守られる権利と比べてまったく優位に立っている、というような。なんですっけ、性的役割分業と言うことでしょうか。その不具合からきているようです。

二つ目は、衝撃的な過去の告白の手紙です。今まで育ててもらった母親から実は生まれていなかったと告白される手紙は子にとってはかなり衝撃的であるのは避けられないでしょう。しかし、母は後ろを振り返りません。前に向かっています。その精神はどんな苦難をも乗り越えていけるような教訓になっています。過去の告白よりもなにより、それだと思います。一切合切行動まで抑制されるようなことよりも、心の中だけに留めておいて自分は進もうとすることが、過去への一番の思いやりであると思います。

三つ目は、すれ違いというやつでしょうか。この物語にまんまと赤らんだのは私なのですけど、ま、その事は置いておきましょう。周りが作ってくれた栄光までの道筋は、自然と行けそうな気がするけれど、絶対に自分から動こうとする意力がなければ成就しないということです。女の方は実際に一人男がいるのだけれども、近づいてくる人にも興味がむいて、もし良かったならば付き合ってみたいと思うのです。しかし、そういうときの男に限って、萎縮していてどうも歯がゆいというもの。結局もとのさやに収まるのです。男はもっと向かっていかなくてはならないものなのでしょうか。

四つ目は、都会とは違う田舎でのお話です。今の都会というのは何もかもが速い。こんな中で、愛することと愛されることのどちらを選ぶかと言ったら、愛することだと思います。そうでなかったらついていけない。なにせ、全てが速いのですから。それが、田舎であったなら愛されることが一番安らがせる。今の日本だと、全てその役目が女性であるのだけれど、ゆっくりとしたスピードの中で"何もない"生活を送り続けることができるのはこのためだと思います。

五つ目は、再会です。高校時代の友達が一生の友達と先人達は言います。それが男と女であってもきっとそうなのでしょう。腹を割ってはなせられることが、事件を起こします。主人公が、「人生は白と黒にきっぱりと区分けできない、グレ−の濃淡のようなものだ」ということを言っています。このことは、高校生の私にはまだ理解することがなかなかできないものだと思います。確かに、全部白いこともないし、また、全部黒くなることはないと信じています。多分、きっぱり判断を下してやろうとも、周りの様々な人達の中でそれが完全に気持ちよくできることはないということなのでしょうか。そうであると解っていても、白黒はっきりさせようとする。しかしそれは、気持ちの上では必要なことだと思います。一体どういう判断をすればよいのでしょうか。

六つ目は、松本侑子さんのお話です。読んでいて、かなりどっきりしました。女同士の恋愛感情であるから。(本当は、どっきりしたのは描写でだと思います。)私が感じたのは、「男」への感情です。最初の話よりも強烈に感じている、男女間の関係があります。男のおごった行動が、どうしても体全体で受け入れられないのです。男社会にいる女というのは型があって、それにはまっている窮屈さがこの主人公にはどこかあったようです。それが故の女同士の恋愛感情です。とても切なく感じます。男として、男女の社会的な状況をもっと見つめるべきだと思います。

私なりにこの六つの話には、色々な訴えが含まれていると感じました。先輩方の色々であるけれど共通もしているお話は、どこか、自分の心に留まっていると思います。本を読んで、久しぶりの感想文は深く考えることで自分に有効だと信じます。機会があったらまた。

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