その木についてなら、話せると思った。隣の塀越しに
見える雑木林のなか、ひときは高いその木についてなら、
わたしにも話せると思った。
その木は、ブナの木かナラの木か。枝と枝は触れあい
そうで触れあわず、ただ隣の幼い木と手をつないでいる
ように重なって見える。
冬日と冬日の谷間、風もない朝、色づいた葉に柔らか
な日がさしてきた。こんな日にはその木がどんな歳月を
過ごしてきたのか、透けて見えてくるようだ。
「生まれた所からどこへもゆかないのなら、植物とい
っしょじょないか」*
たしかにわたしの時間も、垂直に伸びる木の時間によ
く似ているのかもしれない。
ただ、見えない枝がどれほど遥かなものか知っている
だろうか。木は、夢みて、憧れて、また夢をみつづける。
若葉が萌えでるのは、夢みている証拠。木がそこにずっ
といるということと、たとえば自由に行き交う鳥とどれ
ほどの違いがあるのだろう。
その木についてなら、話せると思った。夜明けの空の
美しさは、ひとつところにとどまっている木のためのも
の。どこにもゆかない木は、億年の星の話ならだれより
もよく知っている。
あの幼い木も、ブナの木かナラの木か。触れあいそう
で触れあわず、手を伸ばしてその木の長い歳月に触れよ
うとして背伸びをしている。その木についてなら、話せ
ると思った。その木についてなら、わたしにも。
|