大石ともみ詩集


みずみずしい骨

骨粗鬆症などと
やわなことは言ってはいられない
十二万年という時間をくぐってなお
みずみずしいと形容される
骨もあるのだから

わたしたちがイブと呼ぶ
たったひとりの女性をめぐる
はてしない論争のなか
シリアで見つかったネアンデルタール人の骨
「この骨はまだみずみずしいので遺伝子が抽
 出できるかもしれない」*

骨から読みとるものは言葉
十二万年をかけてつたえられる物語
言の葉いちまい持たなくても
そこに在ること
全身が言葉そのものだったのだから
からだのいちばんふかいところ
みずみずしく結晶したものがあったとしても
なんの不思議もない

言葉を持ったことで
からだはずっとずっと遠くへいってしまった
でも 言葉をたよりに
わたしを旅することはできる

ちょうど
花が咲いたときだけにわかる
庭の白侘助のように
その乾いた幹のうちがわ
ひそやかにしたたかに
匂いたつ流れが
わたしにもあるなら
その流れをたどるわたしの言葉は
みずみずしい骨となって
わたしの輪郭をかたどるにちがいない




*1993年12月12日付 日本経済新聞より


アルファ104号 (1994年 6月 発行 )


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