大石ともみ詩集


三河 奥山田・枝垂れ桜

今年は花に間にあった
「老いた桜は早いよ」
あれは
いつ教えられた言葉だったか
花に手繰られて
山道をのぼった

ただ一木
山を背に
淡い雲がたなびくように見えた

言い伝えによれば
千年をおおらかにこえる
弓なりに伸びた枝先には
つぼみの紅がまだ残っている

一年に一度
ずっとそこで千年
木が花をつけるわけを
聞きたいと思った
老いた桜が
さきがけて咲くことの意味を
知りたいと思った

夜来の雨があがって
しずくを含んだ木は
ただ美しい
桜の木 いっぽん
森につりあい
山にかなう

喜び哀しみ
森に吹き
山に降り
老いた桜の木こそが
じっと抱きしめる





アルファ  120号(1998年)


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