大石ともみ詩集


その木5

 その木が揺れると、地面深く同じように揺れる根があ
ることを知ったのは、いつだっただろう。

 風がわたって木の葉が揺れると、いちばん遠い根のあ
たりが、かすかにざわついているのに気がついたのは、
いつだっただろう。

 その木が揺れるとき、枝は少しずつ空に近づこうとす
る。そして、根はずっとずっと遠い水をめざして、伸び
ていることに気がついたのはいつだっただろう。

 あれは、春のはじめ。柏の古い葉かげにあった鳩の巣
をとった日。杉の木の太い幹を切った日。桃の枝をはら
った日。

 杉の地面深く、鮮血がにじんで、塀越しに見えるその
木もふるえあがっていたに違いない。


 「悲喜こもごも」 その木を見ていると、いつからか
この言葉がうかぶようになった。空にある喜びのように
哀しみのように、光さし、雨が降る。若葉が、憧れのよ
うに萌えるとき、根は、哀しみを聴いているにちがいな
いと思う。


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