大石ともみ詩集


八月の木

「木の図鑑」をひらいていたら
桐の木は
草と木のあいだの植物と
書いてありました

五月
高くのびた梢の先
うす紫色の花をつける
あの大きな木のどこに
草のなごりがあるのか
わたしにはわからない
ただ 桐の木は揺れながら
草と木のあいだの
とてもやわらかい時間を
生きているのだと
あれから思うようになりました

いったい わたしも
たしかに「ひと」って言えるでしょうか
冬に生まれたわたしは
風にくるまれ
日の光を恋い
草と木のあいだを生きる
あの桐の木のように
いつもこんなに揺れている

八月の空に
桐の木が揺れて
また ひそやかな物語がつづられる
植物の根からひとが生まれたという
遠い島国に残る言い伝え
木の伝説 空の神話
揺れる木を見るひとよ
すべてが愛しくて




aube  20号(1998年)


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