大石ともみ詩集


その木6

 雨の滴にたわみ、わずかな風にも揺れる。たとえば木
がどんなことにも揺れない、そういうものだったら、こ
んなにも惹かれていただろうか。その木のかたちがどん
なに素晴らしくても、風に揺れる木こそが美しい。

 揺れながら、ひらいたりとじたり、その木の物語が見
え隠れしている。揺れながら、空の神話、風の音楽が入
り交じる。その木が揺れるのを見ているとなつかしい手
紙を読んでいるようだ。

 その木の物語は、わたしにはまだ読み解けない。ただ
自在に揺れながら、決してどこへも行かないのは、その
木がたったひとつのことを知りたいから、たったひとつ
のことを考え続けているから。

 いちまいの葉先まで水を含んで、生木のからだは重い
に違いない。風をはらめば、苦しいに違いない。
 揺れながら、どうしようもなく不器用なわたしに、そ
の木は風に揺れることこそ美しいと伝える。


詩誌 アルフア 118号  1997 年


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