揺れながら、ひらいたりとじたり、その木の物語が見 え隠れしている。揺れながら、空の神話、風の音楽が入 り交じる。その木が揺れるのを見ているとなつかしい手 紙を読んでいるようだ。
その木の物語は、わたしにはまだ読み解けない。ただ 自在に揺れながら、決してどこへも行かないのは、その 木がたったひとつのことを知りたいから、たったひとつ のことを考え続けているから。
いちまいの葉先まで水を含んで、生木のからだは重い に違いない。風をはらめば、苦しいに違いない。 揺れながら、どうしようもなく不器用なわたしに、そ の木は風に揺れることこそ美しいと伝える。
詩誌 アルフア 118号 1997 年