小泉総理の決定的弱点は「経済音痴」ということである。「構造改革」という言葉を万能薬のごとく考えて経済政策を誤っていまる。「構造改革」をなすべきは「政治や行政」分野であって景気回復のために「構造改革」として、リストラの嵐を吹かすのは正しいことではないし、少なくとも長引く不況の真最中に行うべきではない。そういった感覚だから倒産や失業を他人事のように捉え、無益な減税(全体では増税)を行おうとして、かえって国民の間の将来不安を助長しデフレの悪循環の中で皆がもがいているのである。
今、改めて日本は景気回復のために何をすべきか、今の不景気の原点ともいえる「バブル経済」の反省に立ち返って検証してみようと思う。
●中小企業の経営不振や倒産を経営者の責任にするのは、政治の怠慢である
有効需要が不足している今は企業同士が少ない市場を奪い合うことになる。このことは椅子取りゲームと同じであり必ず敗者が出る。この必ず生まれる条件での敗者とすべての人数分が用意されているときの失敗とは意味が異なる。前者は政策のミスによる犠牲者ともいえる。後者は経営者自身のミスによる。
●不況の原因を難しく考えすぎてはいけない
不況とは単純に物が売れない⇒作っても仕方ない⇒働く場が減る⇒所得減⇒物が売れないという悪循環である。 では、このスタート地点の「物が売れない」ということは何故起きたのか??
これもことさら難しく考える事はない。人々が消費よりも貯蓄を、それも過剰に行っているからである。では何故人々は貯蓄ばかりで消費をしなくなってしまったのか。それはあの「バブル崩壊」をふりかえってみると分かってくる。 バブル経済崩壊後、一気に不況に陥ってしまった原因は、「資産デフレ」である。だから、今、景気対策として必要なことは「資産デフレ」対策である。バブルの原因は、もちろん当時の日本経済のファンダメンタルズの良好さもあったのかもしれないが、大きくは人々の「金持ち幻想」によるところである。人々が値上がりを確信していた「土地」「株」などを保有することによって金持ちになったという感覚をもった。人々がそう思えば、消費増大⇒生産増大⇒雇用増大というサイクルになる。
●バブルは何故 生じたか??
バブルのきっかけは、1985年のプラザ合意ある。当時、米国は財政赤字と貿易赤字のいわゆる双子の赤字に悩んでいた。米国は貿易赤字を解消するために輸出の増加を望んでいた。そのためにドル安(円高)政策をとりたいと思い、そのことを協調して行うことを取り決めたのがプラザ合意である。その結果、為替レートは、1ドル=240円から1ドル=120円へと急激に円高ドル安になった。すると、次のような流れができてしまった。
← ← ← ← 円高ドル安
↓ ↓
米国はドル安によって 日本は円高不況
国内インフレ発生 ↓
↓ 日本は不況対策として公定歩合引き下げ
ドル安政策中止 ↓
(1987年ルーブル合意) 景気過熱 → 国内に資金溢れ株や土地に向う
↓ ↓
ドル高のために米国金利 地価対策(地価税など) ← 土地株値上がり
引き上げ ↓
1990年バブル崩壊 → 土地、株値下がり
↓
デフレの悪循環 ← 担保われによる不良債権多発
●バブル期に土地や株が急騰した理由を更に考える
バブル期には企業が利益を上げた為、貸し出し先が減り、大口から小口へ、安全なものからリスクの大きいところへ。すなわち不動産会社や個人へと広がっていった。
これがバブルをあおった一つの要因である。
●何故バブルは弾けたのか・・・
このことも複雑に考える必要はない。いくら金持ちになったからといっても、物はある程度手に入ればもうそれ以上は要らないということである。「金持ち幻想」が満足してしまえば、もう必要以上に消費を楽しむことはなくなる。やがて人々は、バブルはバブルにすぎなく幻想であり、実態経済を反映していないと気付く。すると、土地や株に対する神話が崩れ、少しずつ不安が頭をもたげてくる。「金持ち幻想」は、やはり幻想であって、自分は本当の金持ちではないのではないかという感覚である。
すると後は、きっかけだけであった。人々はもうどのタイミングで売りぬけるかばかりを考えるようになった。すると、土地や株はどんどん値下がりを続けた。他方、人々が「金持ちでいたい」という気持ちはすぐには無くならず、値下がりによって失った分を何とか回復したいと思った。まず、行われたのは消費を減らして貯蓄へまわすという自衛策である。その結果、消費が減少し生産が減り、雇用が減るという悪循環に入りこんでしまった。その上、医療、年金、金融などで将来不安をかきたてる材料が次々と現われ、さらに深刻な事態になってしまったのである。挙句の果てには、最後のより所と思っていた銀行ですら潰れるという状況で、人々はタンス預金につとめ、ますます経済は萎縮してしまった。
まさに政策のミスが招いた悲劇である。
●景気対策として何をすべきか
バブル経済の反省の中に景気対策としてやるべきことは存在する。
今やるべきことの一つは、「資産の信用回復」である。すなわち、土地政策、證券市場政策、金融安定化策である。
二つ目は人々に蔓延する「将来不安」を解消することである。そのための医療、年金、介護、雇用、少子化対策などをしっかり行うことである。
●「所得税減税」は有効か・・
現在の財政のありようや、依然として癒着の構造が温存されている古い政治体質の中では、今の減税は将来の大増税を国民に想起させてしまうので、減税分は相変わらず自己防衛のための貯蓄にまわるのが関の山で消費にまわるとは限らない。
●リストラは景気対策として正しいか
リストラによって、1つ1つの企業の状況はよくなるかもしれないが、経済全体でみると、失業増→消費減というサイクルになり、景気はさらに冷え込む。
リストラを是とする社会風潮だけでも、人々はいつ失業するかもしれないという不安感を抱く。だから、リストラはとても最良の景気対策とはいえない。
リストラは、好況期にこそ行い、次の不況に備えておくべきである。何故なら、好況期には失業者や余った設備は、すぐに他の企業に吸収されやすいからである。
●景気回復に公共事業は有効か・・
従来型のバラマキ的なものではもちろん駄目。地方分権を強力に推進し、中央が「大きな政府」にならないことを約束した上で、必要な公共事業は積極的に行うべきである。バリアフリー化、環境対策、子育て支援、福祉介護の基盤整備、少人数学級の推進など。今までと異なる視点による公共事業である。
これらのことによって、今後の少子高齢社会に向けて、所得税、社会保険料等の新たな担い手つくりにも寄与したい。
公共事業の見直しは、最重要な政治テーマの1つであり、まさにこの性質を変えていくことこそ、構造改革の本丸であるともいえる。このことを確認した上でいうなら現在のような不況期こそ公共事業は必要なのである。
政府が財政出動して有効な公共事業を実施→失業者吸収→消費増→乗数効果、波及効果でさらに所得増 というサイクルが期待できるからである。
勿論、今の自民党のやり方では、有効な公共事業は期待できない。むしろ、公共事業は悪いということにさえなってしまう。癒着の構造や利益誘導政治によって正しい判断がなされないからである。自民党の悪政こそが、公共事業に対する悲劇的誤解を招いている。
さらに、中味が悪いだけでなく、自民党政治は、その規模ばかりに目が向けられていることがバラマキともいわれる理由である。だから、自民党政治によれば、少しでも景気が回復し税収が増えると、わがままな国民の声につられることもあって、公共投資が増えていくが、実は好況期には公共事業は削減すべきなのである。好況期には余った資源は少ないのだから、公共事業をやめてその分を赤字国債の償還にまわしたり、次の不況期への備えとしての基金などをつくるべきである。そうすれば、次の不況期には思いきった財政出動が可能にもなる。
●今一度、公共事業とは何かを確認する
公共事業の本来的性質とは、もし公共事業が行われなかったら、すておかれた資源を有効に活用することである。すなわち、余った労働力や設備、材料などを使って、意味のあるものを作ったり、意味のあるサービスを提供したりすることに公共事業の意味がある。
●公共事業か減税か二者択一するとしたら・・・
公共事業では、少なくともその分だけの雇用や資材の活用がなされる。 減税では、それすらなく全てが貯蓄にまわってしまう可能性すらある。また、現在のような財政状況では、国民が「今の減税」=「将来の大増税」を想起させ、将来不安を一層助長する。
●構造改革の目玉「均衡予算方式」の打破
均衡予算方式だと
好況時 → 税収増 → 公共投資増+減税
不況時 → 税収減 → 公共投資減+増税
という図式になる。本来ならば、
好況時 → 公共投資減 + 行政改革 + 減税
不況時 → 公共投資増
となるべきである。沢山はいれば使いきるのに苦労する。少なければ経済全体を萎縮させるというやり方は、本末転倒といえよう。
●消費税をどう考えるか
消費税には、明かに逆進性という欠点がある。従って消費性向の高い低所得者の有効需要を抑制し、それが経済全体に悪影響を及ぼす。不況時に消費税を上げることは、最悪の選択で、むしろ一時停止する位が考えられてもよい。
●金融の有り方はいかに・・・
いくら不況といっても、消費者のニーズにマッチしたものには、人々はとびつく。
だから、不況時こそ、ベンチャーなどユニークな技術やアイデアを持った企業に積極的に融資が行われるべきである。
しかしながら、現実には不況時の銀行の姿勢は安全性重視→貸し渋りということになる。
むしろ、好況期の方が、企業の見とおしは甘くなり、不良債権化するリスクは増えることはバブルが証明しているのにも関わらずである。
銀行の貸し渋りと預金者のタンス預金という銀行と国民の両者の相互不信が著しく流動性を低迷させている
●銀行への公的資金の注入をどう考える
公的資金の注入は、短期に銀行を立ち直らせることができ、預金者にも信用を回復させ預金が増え、金融機関からの貸し出し増にもつながる。
ただし、経営責任を明確にすることや注入するところとしないところの基準づくりや線引きをはっきりするのは当然である。
●不況期こそ政府系金融機関を活用すべし
このように不況期には、貸し渋りが起きやすいので、この時こそ政府系金融機関の出番である。
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