1、線香花火


 夏のおもちゃ花火の定番、「線香花火」。日本人の心ともいえるくらい皆さんに浸透していると思います。この線香花火よく知っているようで実体についてはあまり知られていません。どうしてこのような現象が起こるのか全てが解明されていません。神秘に満ちた花火なんです。火薬の量も0.06から0.08gの世界です。0.1g以上にすると「線香花火」にはなりません。玉が落ちてしまうのです。
 よく、カクテルなどに付いてくる「スパーク」も火花を出していますが、あれは金属の火の粉です。しかし「線香花火」の火花は炭なんです。よく似ていますが、全然違う素材なのです。
 また、皆さんがいう線香花火は「手牡丹」というものです。姉妹品で藁(わら)の先に火薬の付いているもので「スボ手」というものがあります。これも線香花火です。


 原料はとってもシンプル。和紙(こうぞ紙)と硝石と硫黄と松煙。これだけあればできるんです。でも、あの綺麗に咲く線香花火はなかなかの技術が必要です。

線香花火のこより  まず、紙縒(こより)をよることができること。最近この紙縒をあまり見かけませんが、昔は誰でもできたものです。日本人の器用さがうかがえるこの紙縒(こより)が線香花火の命です。程良く堅く縒ることであの綺麗な松葉のような火花が飛ぶのです。また、火の玉がなかなか落ちないのは、ここら辺が関わっているのです。火薬の配合自体も当然関わり合っていますが、この紙縒の仕上がりが決め手となるのです。
 もう一つは、和紙。パルプの紙つまり洋紙では出来ません。紙の繊維方向が不規則でもんでも破れない薄くて丈夫な半紙、しかも「楮」(こうぞ)で作ったものが最高。最近は極上ものが手に入らないそうです。
 最後に原料の中で一番重要なのは、松煙です。松煙は松の木の切り株を焼いたときに出るすす(油煙)です。松の枝ではいけないのです。今これがはっきりいってありません。そこで分子構造まで似たものを合成して作っています。つまり、天然物の松煙がないので昔と現象が違っているのです。輸入物も松煙を使っているとは思いますが?違うんですよね。  業界では、「線香灰」というもので通用しています。これは、合成品で本物ではありません。
 昔見た線香花火は、この楮(こうぞ)紙と松煙を探して頂ければ完璧にできます。和紙は、「美濃半紙」、松煙は、松の切り株のところでしかも数年たったものどなたか、割安に作っていただけますか?

 国産の線香花火はこの長年の経験が生んだ芸術品です。でも、手作業で行っていますのでばらつきがあり、すべてが完璧に思った通りになるとは限りません。火薬の原料と配合比、紙縒のより具合この全てが揃って最高のものとなるのです。



線香花火の咲いているところ



   少し画像が薄くて見にくいかもしれませんが、これが国産の線香花火です。火花がとても大きく細かい火花が飛んでいます。最近は少し派手な現象の方がいいという傾向にあるので、少し改良したそうです。
 また、火薬の入っている部分は、下から4cm位で、後は柄の部分になります。昔より柄の部分が長くなりましたが見栄えをよくするために長くなってきたそうです。ですから、柄が長いからといってあまり上の方を持つと線香花火が揺れて、玉が落ちやすくなります。
 点火するときですが、線香花火の先っぽに小さな火で付けて下さい。あまり勢いの良い火で点火すると玉にならずに燃え尽きてしまいます。気を付けて下さい。
 作ってから2,3年たったものの方が綺麗という話を聞きました。よく馴染むからというのですがどうしてなのかよくわかりません。先日30年前の線香花火を手に入れたので遊びました。 よかったですよ、これが線香花火!保存状態がとても良かったみたいで酸化していませんでした。


  入山芳枝さん     
 この人を知っていますか。夏になるとテレビで紹介されていた岡崎の竹内花火店の入山芳枝さんです。数少ない線香花火の製造者です。しかし、平成8年11月7日にお亡くなりになりました。線香花火は国内ではわずかに生産されてはいますが、ほんの少しです。線香花火を作れる方(線香花火の紙縒の出来る方)はいますが、市場価格に合わないので作る業者がほとんどいません。三河地方のお年寄りで昔この内職をしていた方々まだいらっしゃいます。入山さんは先代から受け継いだ技を持っていました。紙縒をよるときのほんのわずかな力加減、薬量0.07gというわずかな計量などとても微妙なこの技が、綺麗な線香花火を生んだのです。暇を見つけては1日1,000本は作ってました。
 この方も最近安い本物の原料が手に入らないので苦心していました。皆さんが昔見たという極上の線香花火を作ろうと思うと1本100円でも作れないそうです。それでも自分自身が昔の線香花火をよく知っているので、合成原料でもそれに近づけようと努力をしていました。頑固な職人の心です。
 私が最後の取材者になりました。


線香花火の束

 


 

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