第5回 誰かが何とかしてくれる? |
「施設から出て何が一番つらかった?」という問いに対して、「今晩、何が食べたいですかと聞かれること」という答えが返ってきたことに、ビックリしたことを今も鮮明に覚えている。 一人暮らしにあこがれ、いざやってみると予想もしないことが起こる。 今まで親元や施設で、人に任せきりの生活をしていると、本当に自分で考えることを忘れてしまう。出されたものを何の疑問も持たずに食べて、出されたものを着る。 全部、周囲の人が決めてしまい、それに従っていれば生きて行ける。気が付いた時には自分で決めて良いことまで忘れてしまい、「誰かが何とかしてくれる」と安心してしまう。そして、ふと「おかしい」と気が付いた時には、もう手遅れで、考える力が奪われている。 オレも一人暮らしに入った時、今晩、何を食べようかと考えるのに苦労した。買い物に行って、自分の欲求に素直に従って買っていたら、身体がブクブクになった。 「これはいかんぞ!」と思い、栄養の三要素という表を壁に貼り、毎日眺めては買い物に出かけた。それでも誘惑に負けて、余分なものを買ったりしていた。 障害基礎年金が入れば、郵便局に行き年金を下し、家賃の支払いに大家さんの家に行く。 米をといで炊飯器にかけてご飯が炊けた時の喜び、目玉焼きを作ってフライパンの根元を持って指を火傷したこと。 ガス、水道、電気などの請求が来ると、「今月はこんなに使ったか?」、「今月はこんなに節約できたか!」と一喜一憂しながらの生活をしていた。 親と同居していた頃には考えられなかったような新聞の勧誘や押し売りやいかがわしい業者に騙されたこともあり、大きな授業料を払った。この時は本当に自分が世間知らずだと思い知らされた。友だちと遊びに出掛け、財布を落として家のカギをなくして家に入れなかったり、失敗を数え上げたらきりがない。 それでも「人生の中で一番楽しかった」と思えるのは、“やはり自分で決めたことはそのまま自分で受け止めないといけない”という当たり前のことが実感できたこと。それに対して誰も批判をせずに「バカだなあ」と思いつつ、自分にも経験があるという共感があったこと。 パチンコに行って、儲けたと言って焼肉を友だちと食べたこと。掃除をして疲れて寝てしまったのが夕方で、朝まで畳の上で寝てしまって、身体が痛くなったこと。夜遊びをして朝帰りをしたり、ゴミを捨てに行くのを忘れ、ゴミと一緒に暮らしたことも今はいい思い出となっている。 今までの人生の中で一番面白く、楽しかったと同時に、自分の出来ること出来ないこと、出来ないことは、“努力をして頑張るのか?”、“人に頼むのか?”、そして“諦めるのか?”を常に選択をして生活をすることの大切さを思い知らされた日々だった。 でも、それが今の自分を作っていてくれる。決して人任せでは自分のやりたいことが出来ないということを! 親が健在なうちに自分の可能性を試すことはとてもたいせつなこと。失敗しても帰る場所があるうちに挑戦することをしてほしい。 それから、全てが始まるような気がする。 |
2014.4.14 |
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