NOVEL

可 菜 と 八 郎 の バ レ ン タ イ ン (後編)

 

あらすじぃ。「間違ってアクセスしちまったけど,前編を読む気が無い」人のために。
 三島さんちの可菜ちゃんと、西賀さんちの八郎くんは、うちが隣で高校のクラスも一緒の、絵に書いた様な幼なじみ。…バレンタインも近いので、チョコ買いに行った、ってぇのが前編の内容だな。
 あんなにも書ぃて、要約するとコレだけってゆ〜のはちょっと凄い気がする(^^;。

 時の経つのは早いもので、もう2月14日、バレンタインデー当日になっちまった、と思いねぇ。
 ま〜、我らが可菜ちゃんは、あのでっかいビニール袋をまたも八郎に持たせて、自分は鞄一つで登校ですわ。
 八郎には軽視の視線が注がれてかぁいそう…。
 きっと後で「じい」とか「荷物係」とか呼ばれるんでしょうな。
…んでついてからがまた大忙し。授業が始まる前に全部配って、最後に八郎に、

「はい、チョコ持ってきてくれたお礼。」
「わぁ、ありがとう。森永チョコボール(キャラメル)って、おい!」
「何?」
「あんだけ重い物2回も持たせて、殴られて蹴られて、その代償が…」
「殴った蹴ったは、おまえが乙女を侮辱するよ〜な行動するからだろ?それに、おまえチョコボールを馬鹿にするけど、これは零郎御推奨のキャラメルバージョンだぞ。」
「あいつも、いい年こいてこんな…」
「運が良けりゃ、おもちゃのカンヅメが貰えるじゃねぇか。」
「金なら1枚、銀なら5枚、だろ?…大体金のエンゼルなんて見た事ないぞ。」
「心配せんでも、それが銀なら、あたしの持ってる銀4枚あげるって。」
「…本当だな?」
「ホントホント。そら、先生が来たぞ。自分の席に戻りな。」

 かくして、八郎はチョコボールと、当たってもいない「おもちゃのカンヅメ」でまるめこまれたのだった。

 近頃、2年B組に、東原松恵をたずねてくる女生徒がいたりする。って前編にも書いたが、三島可菜ちゃんだな。
 もう放課後で、生徒もほとんど帰っちゃったんだけど…。
「ま〜〜っちゃん、か〜えろっ。」
「あ、三島さん。」

 同じ学年の子を「さん」づけで呼ぶこの娘は、良家のお嬢様。『おしとやか』で『優しくて』…、可菜ちゃんとは正反対。
 んでも可菜ちゃんの『明るい』性格もきちんと正反対してるから、『暗い』っていう見方もあるわな。そんでも可菜ちゃんは、まっちゃんが好きらしく、こうやって放課後にはたずねてくる。

「まっちゃんて、今日誰かにチョコあげた?」
「お父様と…、家庭教師の先生にあげるつもりだけど。」
「学校の連中にはやらなかった訳だ。」
「…特に欲しいという人もいないみたいだし…、特にあげたいと思う人も…」

 結局、八郎は当人には言わなかったワケだ。

「あ〜わかるわかる。うちのガッコ、ロクな男いないもんね。」
「えっ?三島さんには八郎さんが…」
「ぶっ、冗談きついよ。まっちゃん。あいつは…あたしの手下ってトコかな。」
「ひっどぉい。で、三島さんは誰かにチョコあげた?」
「もう、義理の嵐。あたしって義理がたいからさぁ。」

(義理がたいやつが、あれだけ迷惑かけた八郎にチョコボール一個?)

「…だけどね、本命にはまだ。」
「じゃ、早く渡さなきゃ!」
「まっちゃん…。」
「なぁに?」

 可菜ちゃん、何だか急にシリアス…。

「チョコ、貰ってくれる?」
「え?」
「あたしの…、本命の手作りチョコ。」
「だめよぅ、ちゃんと本人に渡さなきゃ。」
「違うの、これ…まっちゃんにあげる為に作った。あたし、まっちゃんが好き。おかしいよね、女同士なのに。…でも、」

 まっちゃん、きょとんとしてる。

「あたしは、まっちゃんを愛してる。」
「三島さんも冗談きついわ、本気にしそうになっちゃった。」
「あたしは本気。…せめて、このチョコを貰ってくれるだけでも、」
「だめだめ。折角作ったんだから、ちゃんと本命の人にあげなきゃ。三島さんならきっと相手の人も喜んでくれるわ。」
「………。」
「ほら、勇気を出して!」
「…。うん…。ごめんね、まっちゃん。あたし頑張る…。」

 どうも可菜ちゃん、「頑張る」と言ってる割には元気がないよ〜な…。

んで、可菜ちゃんが家についたら、家の前に八郎がいたんだな。
…大方、銀のエンゼルが当たったから、4枚貰いにきたんだろう。んでも可菜ちゃんは元気が無い。
何か妙だ、とは思ったんだろうね、八郎も。

「可菜?」
「八郎…、これ…やる。」
「これ…って例の本命の…。渡せなかったのか?」
「ううん、渡した。で、好きだって言った。真剣に気持ちを打ち明けた。でも…」

 可菜ちゃんの声がくぐもってきた。

「つっかえされた。…本気にして貰えなかったらしくって…『本気だ』って言ったのに…」
「ひどい奴だな。」
「…本気で好きだったのに! …ちゃんと全部言ったのに!!う…うっ…」
「よしよし、俺が代わりに食ってやる。だから道端で泣くな。この銀エンゼルもやるからさ。」
「うっ…うわあああああん」

 ついに、可菜ちゃんは八郎の胸に顔を押し当てて泣き出してしまった。

「零郎、これからどうなるんだ?」
「さぁな、まだ考えてない。」
「…俺もな、なぁんか可菜にもかわいいところがあるな〜なんて、」
「思うのか?」
「思わね〜よ!あいつ、あのあと『おもちゃのカンヅメ』貰って俺にみせびらかしたんだぞ。」
「かわいいよな。」
「誰のお陰だ、って言ったら『買ったのはあたしだ、送ったのもあたし』って、ほざきやがった。」
「おまえな、缶詰の一個や二個の事で…」
「ほう、一個や二個?チョコボールを(しかもキャラメルばっかり)5箱づつ買ってるのは、どこの誰だ?(だって好きなんだもん)」
「それはそうと、可菜ちゃんと東原さんはその後どうしてる?」
「相変わらず、仲良くやってるみたいだぜ。それがどうかしたのか?」
「…結局、もとのもくあみ、か。」
「だから最初に言ったじゃねぇか。『俺と可菜に限ってそんな事は絶対にないからな』って。」

ん〜、まぁ、『あるところに』とでもしておこう。三島可菜とゆ〜女の子と、西賀八郎とゆ〜男の子がいたんだな。
んで、二人の家は隣同士で、ずっと昔から『友達』だった。…つまり、幼なじみっ
てやつですな。更に御都合の良い事には、二人は同じ高校に通っててクラスも一緒。

…時には殴り合ったりするけども、ま、それなりに仲の良い二人でした、と。

 

『可菜と八郎のバレンタイン』…完。

戻る