NOVEL

創作昔話「もものおんがえし」

語り 電信柱零郎。

 むかしむかし、あるところに、大変働き者の百姓の若者がおった。

 ある日、若者が畑仕事を終えて帰る途中、一本の桃の木のところでふと、尿意を もよおした。

 見ると、あたりは草も生えないひどい荒れ地で、桃の木も今にも枯れそうななかで一輪だけ花を咲かせておった。
「ぬし、こんな所ではコヤシが足りるまいて。少しじゃけどコヤシをやるぞ。」
な どと言いながら立ち小便をし、そのまま家に帰ったのじゃった。

 その夜…一人暮らしの若者の家の戸をたたくものがあった。

 不審に思いながらも若者が戸を開けると…そこには見た事も無いような、美しいおなごが一人たっておった。

「おまえさん…こんな夜更けにどうなすった?」
「…わたしは今日、あなたさまにコヤシをいただいたももでございます。」

 若者は帰り道での事を思い出した。が、この娘が…?

「…お陰様で、危うく枯れそうなところを生き延びる事が出来ました。ぜひ、あなたさまに御恩をお返ししたく、このような夜更けに人の姿を借りて参りましたのでございます。」

 そして娘は、自分が人の姿でいられるのは今宵一夜限りであること、そして若者のためならばどんな事でもするつもりであると告げた。

 若者は…目の前の娘の姿に見とれておった。

 桃のように美しいすべすべした肌、花のような香り、そして…そして桃のようにふくらんだ胸と尻。
 若者は思わずその桃に手を伸ばし…そしてただ一つの自分の望みを告げた。

 ある荒れ地に一本だけ立つ桃の木。一輪だけ咲いていた花に実がついた。

…その実はまるで赤子を宿したおなごの腹のように大きくなり、やがて自らの重みで地に落ちた。大きな桃は坂を下り、川にはまり、流れにのってどんぶらこ〜、どんぶらこ〜と 川下にある吉備の国へと流れていったそおな。

めでたしめでたし(何が?)

 

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