「さぁ、いよいよ最後の挑戦者の登場です。東京都世田谷区でマンションを経営しておられる、立倉一志さん!どうぞ!!」
観客の拍手につつまれて、一人の男が何やらオドオドとしながらステージの上に姿を現した。
男は…何故自分がここにいるか解らない、といった感じで客席を見回し…そして言った。
「ここは…どこだ?」
誰も答えない。
「…あんたたち、誰だ?何故、俺をこんな所へ連れてきたんだ?」
やはり、誰も答えない。それどころか、次に立倉が何か言うのを楽しみに待っているかの様にも見える。
…立倉が何も話さないでいると、審査員席の一番左に座っている女性が口を開いた。
「つまり…あなたは、何も知らないまま、何者かにここへ連れてこられた、ってワケ?」
「そうだ。黒の礼服を来た三人組の男だった。」
「…他に、その三人の特徴は?」
「一人はチョビヒゲで、背がやたら高かった。俺より…20cmは高かったかな。別の一人は色黒で筋肉質。あとの一人は割ときゃしゃな体つきで…そうだ。左手の甲に薔薇の刺青をしていた。」
「…わかりました。」
「わかりましたって…あんたらの仲間じゃないのか!?」
しかし、女性審査員はそれ以上何も言わなかった。次に審査員席の真ん中に座っている中年男性が話し始める。
「さっき、あなたは、ここがどこか聞いていたが…あなたはここが『全国嘘つきコンテスト会場』だと知らずに来たのか?」
「は…!?何だそりゃ??」
「知らない、という事か?」
「ちょっと待て、だから、俺は、何も知らないまま黒服の三人組にここへ連れて来られて…」
立倉の顔に動揺の色が見えた。
「その三人組について、もう少し何か覚えてないか?顔はどんなだった?手は?指輪してたとか、小指が無かったとかいう事は無かったのか??」
「顔は…三人ともストッキングみたいな物を被っていて解らなかった。手も…そうだ、白の手袋をしてた。三人とも。」
「…わかりました。」
そして中年男性もそれ以上何も言わなかった。最後に審査員席の右端に座っている老人が立ち上がった。
「…私の質問は一つだけだ…。今、先の二人の質問に対する君の答えに間違いは無いか?」
立倉は少し考えて…から言った。
「間違いない。」
少し間を置いて、司会者はマイクを手に取った。
「以上で、第一億七千二百四十一万八千六百九十三回、全国嘘つきコンテストの発表が終わりました。審査員の先生方は別室で審査に入って頂きます。」