それはいわば、一つの賭けだった。
待ち合わせ場所である、カーネルサンダースの前で一人たたずむ女性。周りに人影は無いし、彼女に間違い無いとは思うが…万一違ったら、秘密組織LiarClubの存在を公にしてしまう事になる。
私は、意を決して、彼女に話しかけた。
「あの、すみません。」
「はい?」
「あなたはLiarClubの会員の方ですか?」
「いえ?違いますけど?何ですか、それ??」
ガ 〜 ン !!
外した!そして組織の名前を口にしてしまった!!
と、その女性はニヤッと笑って、
「な〜んてね、嘘よ。私はLCの会員、IDナンバー004の卯相月子(うそうつきこ)。よろしくね。」
「なぁんだ、ビックリしましたよ。私はIDナンバー007の法螺福蔵(ほらふくぞう)。いやぁ、早速一本取られましたね。」
…LiarClubとは、その名の通り嘘つきの集まった秘密組織である。
「嘘こそ唯一の美徳」と言い切る会長の元、普段は郵便、電話、パソ通などで嘘の情報をやり取りして楽しんでいる集団だが、今日、会長の指令により、普段顔を合わせないメンバーが集まって、じかに嘘をつきあおうというイベントが行われる事になったのだった。
「それで…他の人はまだ来て無いようですね。」
「ううん、みんな来てるわ。法螺さんだけまだだから、私だけ残ってみんな会場の方に先に行ったの。」
「そうですか。じゃ、早速行きましょうか。」
「ええ。こっちよ。」
卯相さんの案内で会場とやらへ向かう。バスで飛行場まで行き、ニューヨーク行
きの便に乗った。
「随分と遠くなんですね。」
「そうね…。」
卯相さんは窓の外を見ながらそう言った。
「会長はなんだってまたニューヨークなんて遠い所を会場に選んだんでしょう?」
卯相さんは答えなかった。私は次の質問をした。
「あの…もしかして…、また嘘ですか?」
卯相さんが振り返る。その顔に満面の笑みを浮かべて。
「あったりィ!」
「いやぁ、なかなか手厳しいですね。なんか私、さっきから騙されっぱなしで。」
「それは嘘。あなただって私に嘘をついてるわ。」
「えっ!?」
私は驚いた。まさか…読まれてる??
「あなた…法螺さんじゃ無いわね?」
「う〜ん…何か根拠があって言っておられるのですか?」
「あるわ。根拠ってゆうか、確実な証拠だけど。」
「それは?」
「だって、私がIDナンバー007の法螺福蔵なんですもの。」
と、卯相さん…のふりをしていた法螺さんは勝ち誇ったような顔をした。
(…良かった、全部見破られている訳では無いらしい。)
「ははは、バレちゃいましたか。」
「でも、私が卯相さんじゃないって事もバラしちゃったわね。それでも、今のところ、私の方が優勢みたいだけど。」
「それはどうかな?」
「どういう意味?」
「あなたが私についた嘘が、実は全て嘘だと知っていながら、私が騙されたふりをして、あなたがそれを真に受けていたとしたら、私の逆転勝ちもありうる、って意味ですよ。」
「としたら、って…そうなの?」
「だって私は…会長ですから。」
「!?」
法螺さんは目を丸く見開き、口をぽかんと開けている。
…やった。私の勝ちだ!
「ついでにいうと、会員もあなた…IDナンバー007の法螺さんだけでしてね。あとの人はみんな私のでっちあげなんですよ。だから、あなたが卯相さんじゃない事も解っていた。」
「じゃあ…じゃあ、最初っから全部嘘だったの!?何故、そんな…そんなまわりくどい事を…。」
私はここぞとばかりに熱っぽいまなざしで法螺さんを見つめ…言った。
「君が…君の事が好きだから。」
「…!」
「嘘つきな君の気を引きたくて、LiarClubなんてのをでっちあげた。卑怯な手段だって事は百も承知だけどね。」
「会長さん…。」
法螺さんは頬を染め、まっすぐに私の目を見ている。
…そんな彼女に、私はハッキリと、こう言った。
「なんてのも嘘だけどね。」