「ママ!」
突如、病室の扉を押し開けて、少女は私の元に駆け寄って来た。
「ママ、見て!お金が出来たわ!これで手術が受けられるよ!!」
と言って、その少女…ステラは手に持ったトランクを開け、中の札束を見せる。
「ステラ…お前…。」
「言っとくけど、これはちゃんとしたお金よ。私が自力で、金持ち連中がやってる非合法なレスリング大会で優勝した賞金なんだから!」
『非合法なレスリング』の賞金が『ちゃんとしたお金』なのかという問題はさておき、私は義理の娘が私の為に命懸けで頑張ってくれた、という事が嬉しかった。
「それで…ママの病気、治るよね?ね!?」
ステラはその小さく青く丸い純真な瞳でまっすぐ私の顔を見つめた。
…正直、これは辛かった。
私の為に、必死で手術代を用意してくれたステラ。そんな彼女に本当の事を言う事が出来ない。
「ママ…どうしたの?答えてよ。病気、治るんでしょ??」
ステラが不安げに聞いてくる。
「あ、ああ、もちろん!あたしゃ死なないよ。ステラのお陰で手術が受けられるんだもの、治らないワケが無いじゃないか!なぁ、ドクター?」
「え…えぇ。もちろんですとも。」
と、私の隣に立っている白衣の男が調子を合わせる。
ステラは…今一つ腑に落ちない、といった感じだったが、とりあえずは納得したようだった。
「じゃ、また来るね!ママ、頑張って!」
「ああ、気をつけてお帰り。」
ステラが病院から出て行くのを窓から見送る。彼女の姿が見えなくなるまで…。
そして…
「ドクター、始めるよ!急いでプロジェクターの用意を!!」
「はッ!」
男は、せかせかと部屋の明かりを消し、スクリーンを降ろし、プロジェクターをセットした。
やがて、スクリーンに先日ステラの参加した大会の様子が映しだされる。
スクリーンの上で、ステラが跳躍する。世界各地から集まった強豪を相手に拳を奮う。その腕力、スピード、共に人間技とは思えない。
私は、親に捨てられて身寄りも無かった少女ステラを拾い、武術を教えこんだ。
彼女は私を心の底から信じ、慕っている。
…そんな彼女を、私は、世界征服の為の兵として利用しようとしているのだ!
今日、私はステラを拾ってから初めて、胸が少しだけ痛むのを感じた。