「あははは!何が魔女っ子よ。マキなんてスティックがなけりゃタダどんくさいだけの女じゃない。」
スティックを手にした天馬玲子は、鬼の首を取ったかのように私をあざ笑う。
「返せーっ。ドロボーっ!」
「人聞きが悪いわね。あなたがこれを持ってたってロクな事に使わないから取り上げただけよ。あなたがこれを使ったおかげで、私は…私は…。」
そういう玲子の目に涙が溜まる。
「何いってんの。あんたなんてあぁでもしなきゃ、一生、男とヤレないじゃない。感謝してよね。」
「こ…殺してやる!ブッ殺してやる!!ヘケマカヘケマキ!魔女っ子は火あぶりになれッ!!」
そういって玲子がスティックを振りおろしたと同時に、玲子は炎につつまれた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ…」
あとには…黒コゲのゴミと、スティックだけが残った。
私はスティックを拾い、すすを払い落とす。
バイバイ、玲子。
あんたヤッパ大バカだよ。
そしてその次の日の帰り道。そそくさと教室を出る真吾の後を追いかける。
「真吾クン!一緒に帰ろ?」
「…ああ。」
真吾の反応はまだ今一つ。
…二人のカラダが魔法で結ばれた夜から、ずっとこんなカンジ。
でもいいの。
魔法にたよらずに真吾のハートをゲットするの。
カラダはもう結ばれてるんだもの。きっとうまくいくわ。
帰り道を二人、並んで歩く。
風が、二人の間を抜けてゆく。
ふと…真吾が足を止めた。真吾を見ると…何か思い詰めたような表情で、私を見つめていた。…私の心臓の鼓動が早くなる!
「マキ…あのさ…」
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。
「俺…ずっと、考えてたんだけど…やっぱ言わなきゃ、って思って…」
体の芯が熱くなる。真吾の次の一言が待ち遠しく、狂おしい。
「こんな事言うと、無責任な男だって思われるだろうけど、あの夜、どうして俺はあんな事をしたのか…全然解らないんだ。」
…へ?
「ゴメン。勝手だけど…俺、マキとはつきあえない。」
一瞬、体中の血の気が引くのを感じた。
「う…、嘘…。」
真吾は、うつむいたまま、もう一度「ゴメン」と言って、そのまま去っていってしまった。
何故?どうして??
茫然と、その場に立ちつくす私。
気がつくと、いつの間にかスティックを握っていた。
これを使えば…これを使えば、もう一度真吾を振り向かせる事は出来る。
私にはその力がある。だけど…。
私は、スティックをカバンにしまった…。
魔法のスティック。振れば何でも願いが叶う魔法のスティック。
だけど私の恋を実らせる事は出来ない。私が欲しいのは「魔法に操られた真吾」ではなく、「ホントの真吾の心」なのだから。
…ならいっそ、心は諦めて、もっぺんスティックで真吾を呼び出してカラダだけでも…とか一瞬思ったけど、下らな過ぎるのでやめた。
例え一瞬でもそんな事を考えた自分が馬鹿みたいで、なんかおかしくて、クスッと笑うと涙が一つ二つ、こぼれた。