労災上積み補償はいくら必要か


 従業員が労災事故で死亡した場合、労災保険給付額だけで足りると思っていませんか?
 結論からお答えしますと絶対に足りません。遣族は、ほぼ必ずといっていいほど労災保険のほかに損害賠償として上積みを請求してきます。なぜなら、労災保険は国が定める保険ですから、その給付額の水準はとかく最低補償の色彩が強いのです。労働基準法では労働条件の最低の基準を定めており、労災補償はその労働基準法から出発していますので、このような最低補償の労災保険給付額だけでは遺族の生活が維持できないからです。大黒柱を失った遺族の側に立てば、この請求は無理もないと思われます。
 通常、上積み額は示談で決着しますが、その金額は2000万円前後が多いようです。ただし、その労災事故の原因が本人にあるのか会社にあるのかで金額は大きく変わることがあります。示談金の計算式は次のとおりで、損害賠償請求額から労災保険給付額を控除する方法が一般的です。

@遺族からの損害賠償請求額−A労災保険給付額=上積み額(示談金)

 上の計算式の中身を見てみますと、@の遺族からの損害賠償請求額の決定にあたっては、遺族はまずいくら会社に請求できるかを弁護士に相談します。どこの弁護士事務所でも自賠責保険(自動車事故の強制保険)の基準額(死亡による損害推定一覧表)をベ一スにして、「○○円ぐらい取れるでしょう」と指導します。この一覧表は性別・年齢・給料・遺族の数によって金額の目安が決定されているものです。一方、会社側も顧問弁護士に相談をしますが、同じ表を用いて相談に応じますから金額はほぼ一致します。たとえば、45歳で、年収が630万円(給料40万円、年間ボーナス150万円)、遺族が3人の場合のモデル例では次の金額になります(単位は万円)。

@賠償請求額=逸失利益(5,750)+本人慰謝料(350)+葬祭費用(60)+遺族慰謝料(900)=7,060万円と計算されます。

次にAの労災保険給付額を計算してみます。

A労災保険給付額=葬祭料(80)+遺族特別支給額(300)+遺族年金15年分(3,719)+遺族特別年金15年分(1,146)=5,245万円と計算されます。
(妻35歳、第一子13歳、第二子10歳の場合)

 労災保検の遺族給付は年金支払いが原則で、何年分の年金を労災保険給付額に含めるのか議論の分かれるところです。10年分という説や20年分という説があり、結局は遺族側の感情と会社の支払い能カを考慮して決定されることになります。ここでは、中をとって15年分の年金を労災保険給付額に含めました。しかし、裁判になると、年金払いの労災や厚生年金などからの支給で、将来もらえるものについては、差し引かないという判例が多く出ている点についてもご注意ください。
 このモデル例では@の遺族からの損害賠償請求額の7,060万円より、Aの労災保険給付額の5,245万円を控除した、残りの1,815万円を上積み額として会社側から遺族へ提示し、遺族が納得すれば示談の成立となります。ただし、事故の原因に会社の過失が認められれば、この金額では済みません。反対に、本人の過失が認められたり、または本人に過失が無くても遺族が納得すれば労災給付額だけで納まる場合もあります。日頃より、従業員の安全管理や待遇、福利厚生面などに気を配っておれば遺族も会社に対して好感を持って接してくれるものです。
 なお、会社としては労災上積み支払いのリスク対策として、損害保険に加入すること検討することをお勧めします。損害保険各社は「労災総合保険」という商品名でこの保険を販売しています。ご加入の場合、死亡保険金は少なくとも1,000万円、できれば2,000万円は必要と思われます。保障内容の決め方や保険料がいくらかかるか、社内規定のつくり方など、詳しくは当事務所へお問い合わせ下さい。

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