blueball.gif (1613 バイト)  金庸の武侠小説  その2  blueball.gif (1613 バイト)


redball.gif (1607 バイト)  翻訳(続)

越女剣 傑作武侠中篇集
林久之、伊藤未央 訳・全1巻

春秋時代、白猿に剣術を授けられた少女・阿青の剣術指南役となり、宿敵のを打ち破るまでを描いた表題作『越女剣』のほか、西域で両親を殺され、カザフ族の集落で育った少女・李文秀の悲恋を描いた『白馬は西風にいななく』(原題『白馬嘯西風』)、これを得た者は天下無敵となるという宝刀・鴛鴦刀の争奪戦をコミカルに描いた『鴛鴦刀』の三篇の中短編を収録する。

正直言って、三篇ともイマイチであります(^^;) 唯一コメディ調の『鴛鴦刀』が、最後までシャレっ気が利いていてお薦めできるぐらいである。ちなみにこの作品は『碧血剣』の続編というか番外編的な作品でもあり、その点も見所のひとつとなっている。

おすすめ度→

飛狐外伝
阿部敦子 訳・全3巻

『雪山飛狐』の主人公・胡斐の、少年時代の恋と冒険を描く。胡斐は紅花会の三番差配・趙半山に武芸を授けられ、義兄弟の契りを交わす。少年侠客として成長した胡斐は、武林の大物・鳳天南が民に暴虐をはたらくのを見て憤り、鳳天南を倒そうとするが、あと一歩のところまで追い詰めるたびに、謎の少女・袁紫衣に阻まれる。胡斐は袁紫衣に怒りを感じつつも惹かれていく。その頃、乾隆帝の寵臣・福康安は、天下掌門人大会を開き、反清の気運が根強い武林を手中に収めんと画策していた……

前半はボスであるはずの鳳天南が、武芸に特別に秀でているわけでもなく、小物であるせいか、いまひとつ盛り上がりに欠ける。しかし後半の天下掌門人大会のあたりから、『書剣恩仇録』でお馴染み紅花会の面々が続々と登場し、福康安の陰謀が明かとなり、と、俄然話が盛り上がってくる。

前作『雪山飛狐』はもちろん、同時代を舞台にした『書剣〜』の登場人物までもがどんどんと登場するあたり、ファンサービスも充実しており、(というより、元々ファンサービスのために書かれた作品と言うべきか……)全体的に佳作として仕上がっている。

一部、ラストがアレという意見もあるようだが、前作と比べたらよっぽどマシだと思う(^^;)

おすすめ度→☆☆☆

天龍八部
土屋文子 訳全8巻

北宋期を舞台に、四人の若者の冒険を描いた長編。第一の主人公、段誉雲南大理国の王子である。インテリで武術嫌いの彼は父親から武術の修行を強要されたことに反発し、家出をする。しかし江湖での冒険のすえ、 段氏家伝の六脈神剣などの絶技を身につける。

第二の主人公、喬峯は武林で一大勢力を誇る丐幇の幇主として、武芸者たちの尊崇を得ていた。しかし彼が実は宋王朝に敵対する契丹人の遺児であることを暴露されたことにより、一転、武林を追われ、かつての仲間たちから敵視されることになる。彼は実の父の姓をとって蕭峯と姓名を改め、契丹人として生きることを決意するが……

第三の主人公、虚竹は平凡な少林寺の修行僧であったが、様々な奇禍に巻き込まれ、更に妖女・天山童姥に見込まれたことにより、少林寺を破門に追いやられる。段誉・蕭峯・虚竹の三人は意気投合して義兄弟の契りを交わし、彼らに襲いかかる苦難に立ち向かう。

第四の主人公、慕容復は、魏晋南北朝期に強勢を誇った大燕国の末裔である。一族代々の悲願である燕国復興を果たすために暗躍し、段誉たちと 敵対する。

彼ら四人の主人公は父母の代からの因縁に翻弄されることになるが……

個性的なキャラクター群、複雑怪奇を極める人間関係、『射G英雄伝』の設定を絡めるサービス精神、勢いに任せたストーリー展開、そして「ええっ、それは無い!」と叫ばずにおれないドンデン返しと、 金庸作品の魅力を余すところなく見せきった作品である。

作者は最初にまず段誉が登場し、段誉が退場した後は蕭峯 が登場、そして蕭峯の後は虚竹が登場という、『水滸伝』式の群雄劇を構想していたのだろうが、キャラクターごとのエピソードを引き延ばしてすぎて、四人の主人公が出揃った後の展開が消化不良気味 なのが残念である。

契丹人の血を引くというだけで武林の英雄たちから敵視され、最後には自分の愛した女性さえも殺めてしまう蕭峯、自らの野望を果たすために手段を選ばない慕容復など悲劇的なキャラクターが登場し、物語が凄惨な方向に進みがちなのを、段誉・虚竹のような喜劇的キャラクターを配置することにより、うまい具合に読者の肩を抜いてくれる。『射G』シリーズの周伯通なんかも同じような役割を果たしていたが、金庸はこのあたりの舵取りが抜群である。ただ、段誉が片思いの女性を追ってストーカー行為に走ったりするのはやりすぎではないかと思ったが(笑)

おすすめ度→☆☆☆☆☆

鹿鼎記
岡崎由美、小島瑞紀 訳・全8巻

時は清初、主人公の韋小宝は揚州の花街で生まれ育ったお調子者の腕白坊主。英雄好漢に憧れていた彼はたまたま知り合った侠客とともに北京 へと旅立つが、そこで宮中の宦官に捕らえられ、ニセ宦官として紫禁城に潜入することになる。宮中で少年康熙帝と親友になった韋小宝は、ともに権臣の鰲拝を倒したことを皮切りに次々と功績をたて、トントン拍子に出世を重ねていく。

一方で彼は反清の秘密結社天地会のリーダー・陳近南の弟子となって天地会の幹部に抜擢され、また邪教集団・神龍教の教主夫妻に気に入られてやはり幹部に任じられる。韋小宝は持ち前の機知によって宮廷官界・英雄好漢の集う武林・邪教集団の三つの世界を巧みに渡り歩き、 南は呉三桂の治める雲南から北はロシア帝国まで縦横無尽に闊歩し、最後には英雄 ・大官としての信望と巨額の財産、そして七人の妻を得るが、そのような綱渡りは長くは続かず……

本作の主人公・韋小宝は、今までの作品の主人公とは随分違っている。性格はと言えば、お調子者で、口達者で目端が利いて、権力者に対しては、長いものには巻かれろとばかりおべっかを使って取り入るタイプ。基本的に怠け者で飽きっぽく、努力なんて大嫌い。だから武芸の修行も長続きせず、モノにできた武功は片手で数えるほど。おまけにスケベでバクチ好きと、いいところが全くない。まるで読者の感情移入を拒否するかのような 人物造型である。「一寸の虫にも五分の魂」の言葉通り、彼にも一応五分の侠気ぐらいは具わっているものの、それがいったい何のフォローになるだろうか……

普通の武侠小説なら、主人公は迫り来る危機に対して己の知恵と勇気と武功、そして友情によって立ち向かうところが、武芸が全くダメな我らが韋小宝は(悪)知恵(なけなしの)勇気カネ、そして友情(というよりはコネ)を総動員して立ち向かうのだ!

こんな人物があらゆる社会的成功を手に入れてしまうのが、この作品の面白いところである。それでいいのかという気もするが、彼はニセ太后に付け狙われたり、諸々の事情によって「成功か、さもなくば死か」と、常に死と隣り合わせの状態にあ り、自分が生き延びることがすなわち成功に繋がっているので、致し方がないのだろう。この作品を最後に金庸は事実上絶筆してしまったとのことだが、こんなのを書いてしまったらもうこれ以上書 けないというのもよくわかる。

本作では康熙帝をはじめとして実在の人物が多く登場し、金庸作品の中では歴史小説としての色合いが最も濃い。順治帝が死んだと偽って、実は隠遁して出家していたという話についても元となる伝承が存在するようである。だからと言って李自成生存説まできっちり取り入れてしうまのは、正直いかがなものだろうか(^^;) ここらへん、「話が盛り上がれば何でもいいんだ!」という金庸の節操の無さが垣間見られるような気がする。

おすすめ度→☆☆☆☆


redball.gif (1607 バイト)  ガイドブック

武侠小説の巨人 金庸の世界
岡崎由美 監修・全1巻

金庸の全作品を解説したガイドブック。香港などで映画化されたものの紹介や、金庸作品キャラクター名鑑なども付いている。金庸だけでなく、古龍梁羽生といった他の武侠小説家の作品についても触れられており、武侠小説全体の解説書としてもよく出来ていると思う。

きわめつき武侠小説指南
岡崎由美 監修・全1巻

『秘曲笑傲江湖』の一巻と同時に発売されたガイドブック。『笑傲江湖』及び、これから刊行予定の三部作『射G英雄伝』・『神G侠侶』・『倚天屠龍記』の先取り解説がメイン。翻訳者と金庸氏とのインタビューなども付いており、前回同様読みごたえはバッチリ。


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