blueball.gif (1613 バイト)  古典小説・換骨奪胎  blueball.gif (1613 バイト)


文字通り、『三国志』・『封神演義』などの古典小説を完全に別の物語に作り変えた作品を、
小説・コミックを問わずに紹介していきます。


redball.gif (1607 バイト)  小説の部

新・平妖伝
鳥海尽三・徳間書店・全2巻

卵から生まれたという奇怪な出生をした青年僧・蛋子(たんし)は、驚天動地の法を求めて旅をしていた。そして雲夢山(うんぼうざん)で胡媚児(こびじ)という美少女と出会う…

古典小説『平妖伝』の翻案ということになっているが、完全にそれとは別物となっている。塩の密売商人・劉玄や、青年科学者・沈括(しんかつ=そう、北宋期の科学者、引いてはUFOの発見者としても有名な(^^; あの沈括である。)など、主要登場人物の半分ほどがオリジナルキャラクターである。

「驚天動地の法」のカギを握る女神・九天玄女が地球外の知識生命体ということになっていたり、塩賊や女真族(後に金王朝を建てる、中国東北部の半農半牧の民)が所せましと暴れまくったりと、『平妖伝』の設定を借りた伝奇娯楽大作に仕上がっている。(さすがにロボットまで出てくるのはどうかと思ったけど)ただ一つ、かなり雰囲気的に暗いストーリーになっており、原典の素朴な明るさが失われてしまっているのが恨み所か。

元々アニメ映画の脚本として書かれたそうで、その影響か、一気に読んでしまった方が楽しめるように思う。

セレス
南條竹則・講談社

21世紀末、台湾の電脳会社は仮想仙界「セレス」を開発した。主人公の商社マン・幸田亘(わたる)は「セレス」へ視察に訪れるが、そこでこの世に二人とない美女と出会う…

本の帯には「電脳長安の封神演義!」というコピーが書かれている。題名からは想像しづらいが、実はこれ、『封神演義』のアレンジ小説なのである。この「セレス」というのは、「ディアブロ」や「ウルティマオンライン」といったネットワークゲームを更に発展させたもので、プレーヤーはバーチャルリアリティー空間の仙人界で道士や仙人になりきって暮らしているわけである。

もちろん仙術なんかも使えるようになっていて、空間を移動したり相手を攻撃したり出来る。プレーヤーはそれぞれ「元始天尊」だの「趙公明」だの「通天教主」だのといったように『封神演義』に出てくる仙人の名を名乗っており、彼らがやっぱり『封神』のストーリー通りに元始天尊派と通天教主派に分かれて抗争を始めてしまうというストーリーになっている。

南條氏はわりとゲームには詳しいのだろうか?「セレス」の設定は非常によく練れている。これを読んだ読者、特に『封神』ファンは、「セレスで仙術合戦をしたい!」と思うことだろう。下手な未来予測小説だと、20年後を待たないでも「こんなもの流行るわけないよ」という娯楽を平気で持ち出してきて、小説全体のリアリティをぶち壊してしまうものである。しかしこの作品では「セレス」の設定の出来の良さが、作品全体の成功につながっている。

SF三国志
石川英輔・講談社文庫

現在より遥かな未来、人類はG星・W星・S星の3つの惑星に分かれて暮らしていた。そんな状況の中、曹操・孫権・劉備はそれぞれ一惑星ずつを治め、互いに覇権を競い合う!

力作が2つ続いたので、箸休め。『三国志演義』の物語をそのままSF的世界観に当てはめただけという、実に安直な作品である。ひねりも何も無く、全編にわたってどうでもいいような話が続く。同じく『三国志演義』をSF化した『銀河英雄伝説』には比べるべくも無く、ここまでしょぼいのも珍しい。私はこの作品を『三国志』系トンデモ本の筆頭として推す!ある意味、三国志マニア必読の書と言えよう。

ちなみに作者の石川英輔氏は、NHK教育の「やってみよう!なんでも実験」でおなじみの博士である。姉妹作に『SF西遊記』があるらしいが、こちらも文庫版で再販してほしいものである。


redball.gif (1607 バイト)  コミックの部

天地を喰らう
本宮ひろ志・集英社文庫・全4巻

少年・玄徳と孔明はそれぞれ龍王の娘と契りを交わし、孔明は天下第一の智を、玄徳は天下一の肝っ玉を手に入れる。そして玄徳は関羽・張飛と瓦礫の中で義兄弟の誓いを交わす…

あの本宮氏による、スケールの大きな三国志。最初読んだときは話がどんどんファンタジックな方向に進んで行くので「なんじゃこりゃあ!?」と思ったものだが、『封神演義』などの妖怪小説を読みなれた今では逆にそこんところが面白く感じてしまう。

男っぷりのいい玄徳も、当時は「劉備はこんな奴じゃない!」と違和感を感じていたが、『蒼天航路』や『秘本三国志』の劉備に慣れた今では「やっぱり玄徳はこうでなきゃな!」と思ってしまう。なんとこの作品は、当時の三国志物としては最先端を進んでいたのである!本宮先生、侮り難し!!

ただ、かなり中途半端なところで終っているのが残念。本宮先生、今からでも続きを描いてくれないもんでしょうか?

西遊妖猿伝
諸星大二郎・潮出版社希望コミックス・1〜9巻(99年5月現在)

天涯孤独の少年・孫悟空は、花果山で巨大な一つ目の猿の妖怪・無支奇(むしき)に出会う。悟空は無支奇から「斉天大聖」の称号と無敵の力を得るが…
現在刊行中の改訂版は、双葉社版では未収録だった「河西回廊篇」を収録の、全16巻発売予定。

諸星氏の作品は、わりと絵柄が読者を選んでしまいがちであるが、絵柄が趣味に合わないからと言って諸星作品を読まないのは人生の損失というものですぞ!

この『西遊妖猿伝』は、隋唐期の史実に『西遊記』のエピソードやキャラクターを織り交ぜた伝奇物語である。この2つの混ざり具合が実に絶妙、原典とはまた違った面白さを産み出している。『西遊記』好きならもちろん「ああ、これは第何回に出てた何某だな」という元ネタを捜すという楽しみ方が出来る。「西遊記なんか、子供の時に絵本で読んだっきりだよ」という人も、めくるめくストーリー展開にハマること請け合い!かつてのジャンプのマンガのように、とにかく続きが読みたくなるという魔力を持っている。私も以前双葉社版の最終巻を読み、いかにも続きがありますよと言わんばかりのラストを見て、絶望に陥ったものである。


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