blueball.gif (1613 バイト)  中国史の全貌を知る  blueball.gif (1613 バイト)


学術寄りの概説書からビジュアル豊富な分野別の解説書まで、中国史を扱った本を集めてみました。


redball.gif (1607 バイト)     総合通史

中国史

宮崎市定・岩波全書・全2巻

東洋史学の泰斗・宮崎市定氏による中国史の概説書。この書の特徴は、上巻のかなりの部分を時代区分論古代・中世・近世・最近世(近代)の境目をどこに置くかという議論)に費やしている点である。中学や高校の歴史の教科書はあまり時代区分にこだわっていないので、読む人によってはその辺りを新鮮に感じるかもしれない。宮崎氏は師の内藤湖南の学説を受け継ぎ、文化史観と独自の景気変動史観により、古代は太古から後漢まで、中世は三国から五代十国まで、近世は北宋から清末のアヘン戦争の勃発まで、そしてそれ以降を最近世(近代)と位置づけている。(これに対して前田直典といった東大系の学者は唯物史観に沿って、唐までが古代であり、宋以後に中世の封建社会が始まると主張している。)

また、西洋史の諸様相を中国史にも見出そうとしているのも本書の大きな特徴である。例えば東周期の都市国家を古代ギリシアの都市国家と比較して類似点を見つけだそうとし、秦・漢帝国を古代ローマ帝国になぞらえ、西晋期の八王の乱をきっかけにした五胡の侵入を「中国のゲルマン民族大移動」と解釈し、隋煬帝唐太宗を、ゲルマン人の身でローマ皇帝となったカール大帝になぞらえ(確かに煬帝や太宗の祖先をたどると純粋の漢民族ではなく、鮮卑族の血が色濃く流れているようであるが。)、唐の韓愈柳宗元に端を発した古文復興運動を中国のルネサンスであると解釈するといった具合である。

その他にも随所に宮崎市のユニークな視点が盛り込まれているが、困ったことにユニークすぎて信用ならない部分も多い。特に古代史に関しては甲骨文金文(周代の青銅器に刻まれた銘文)といった考古史料を重視せず、「西周王朝は存在しなかった。」と主張するというような誤りを犯している。(現在は金文の解読により、西周諸王の実在は確認されている。)だから本書を読む際には、内容の真偽を見極める力も必要になってくる。しかしその点を割り引いても、本書は時折論文のネタになっていることもあり、読むべき価値は充分にあると思う。

中国の歴史
貝塚茂樹・岩波新書・全3巻

こちらは上で紹介した『中国史』と比べるとオーソドックスな概説書である。特に古代史の項は貝塚氏の専門ということもあって、甲骨文金文といった考古史料を用いて詳しく解説されている。中世以降についても大学の教養課程で学ぶような事項は概ねカバーされているし、中国通史の概説書としてはまずまず無難な出来と言えよう。唐代に太宗の使者としてインドに赴いた王玄策、夜な夜な宮廷で怪しげな儀式を行ったなどの奇行で有名な明の武宗といった、ややマイナーな人物やエピソードも多々紹介している。

しかしこの書も約30年前の著作ということで、大分内容が古くなっている。全24章中、近代史に関する解説がたったの2章で済まされているというバランスの悪さも、批判されるべきであろう。あともう一つ付け加えると、この書は大陸の学者の説を所々で取り入れていて、割と左寄りの内容となっている。これは上の『中国史』の記述と比較してみると面白い。

例えば太平天国の乱について、本書では地主制度を否定し、農民に平等に土地を分け与えることを目指した天朝田畝制度に見られるような革命的な思想を高く評価している。しかし『中国史』では、太平天国は旧来の中国の宗教結社と何ら変わるところはなく、近代性や革命性は見い出せない。逆にこれを討伐した清朝の軍隊の方が、西洋の軍事理論や技術を取り入れ、その近代性を高く評価出来ると主張している。個人的にも天王・洪秀全が教徒に禁欲主義を強いておきながら自らは酒池肉林に耽り、更に天朝田畝制度が現実には施行されなかったことを鑑みて、宮崎氏の主張の方が一理あるように思う。

ただ、これは特に上巻が文化大革命以前に著述されたという事情もあってやむを得ない面もある。文革の発生は日本の中国学者にも大きな衝撃を与え、多くの学者がこれを機に大陸の学説に対して距離を取るようになった。(本書下巻の「エピローグ」を参照のこと。)宮崎氏の『中国史』は文革が終結して以後の著作なのである。

小説十八史略
陳舜臣・講談社文庫・全6巻

上の二つとは違い、こちらは『十八史略』にならい、太古から南宋までの歴史におもしろおかしく脚色を加えた小説である。脚色というのは、例えば妲己は実は、周公旦紂王を堕落させるために差し向けた工作員だったというような事である。この脚色部分は、わりともっともらしいものが多いが、読者にはこれらをフィクションとして楽しむという態度が求められよう。中国の歴史を物語としてつかむのに適している。

中国史学入門
顧頡剛 口述・小倉芳彦、小島晋治 訳・研文出版

中国の代表的な歴史学者である顧頡剛(こけつごう)が口述した、中国史学の概論。顧頡剛というのは、ご存知の方もおられるだろうが、『尚書』・『詩経』等の文献の研究によって伝統的な古代史・神話伝説の解釈を打破しようとした疑古派の領収であり、『古史弁』・『禹貢半月刊』といった学術誌を編集して学説の発表の場とした。また、『史記』を初めとする『二十四史』の校点にも参画した。(彼の略歴や主な主張については、この書の「序言」にもある程度解説されている。)

この書は彼の主張に基づいて、経学・清朝考証学・中国古代社会の概要、あるいは中国の文学史・哲学史・宗教史といったテーマを論じたものである。この書の存在を私は秋山陽一郎氏の「過立齋」で知ったのだが、実際読んでみると中国史学の概要を実に短く平易にまとめてあるのに感心し、ここで紹介することにした。『左伝』偽造説など、今となっては「あれ?」と思う部分もあるが、そういった点を考慮しても充分に読む価値はあると思う。特に古代史に興味を持つ人に読んでもらいたい。

 

※この他、中国史の総合通史としては、陳舜臣『中国の歴史』(講談社文庫・全7巻)、やはり同名の『中国の歴史』(講談社・全10巻)などがある。   陳氏のものは中国史の学術的な研究成果をまとめたもののようであるが、私自身は未読なのでノーコメント。『中国の歴史』は、各時代の歴史の流れや特徴を貝塚茂樹氏・西島定生氏といった各時代ごとの専門家が一冊ずつ書き下ろしたシリーズ本。その内容はかなり詳細であるが、現在のところ入手は困難のようだ。(私も運良く2・3・4巻を古本市で入手出来ただけである。)2巻『秦漢帝国』と3巻『隋唐帝国』・6巻『モンゴル帝国と明』は、講談社学術文庫で出ているとのこと。


redball.gif (1607 バイト)  分野別通史

故宮 −至宝が語る中華五千年−
陳舜臣、阿辻哲次、NHK取材版・NHK出版・全4巻

以前シリーズ放映された「NHKスペシャル・故宮」の出版化。北京・台北の故宮博物院に納められている文物の紹介を軸にして、中国史を解説していく。故宮文物のカラー写真ももちろん掲載されているが、単なるビジュアル本に終わっていないのがこの本のポイントである。最新の考古学発掘成果の紹介をはじめとして「隋の煬帝名君説」・「李自成の王朝が存続していたら近代革命が達成されていた論」・「乾隆帝と香妃伝説」など、中国史マニアならちょっと気になる話題を最新の学説に基づいて解説している。

中国武将列伝
田中芳樹・中央公論社or中公文庫・全2巻

一応中国史を「武将」に焦点を当てて振り返るという体になっているが、実際には『楊家将』・『隋唐演義』等の古典小説の紹介書ともなっており、内容的には随分と雑多である。口述筆記という手法を取ったため、勢い内容が雑多になってしまったのだろう。武将の事績なんかも読んでいて史実と小説の中のエピソードとがごっちゃになっているのじゃないだろうか?と不安になってくる。あんまり言ってる内容の裏付けも取ってなさそうなので、この本から何かを引用しようとする場合、自分でもう一回典拠を調査するぐらいの慎重さが求められる。(そもそも一般書に書いてあることを迂闊に引用しようとすること自体が問題なのだが……)

しかし蘭陵王(らんりょうおう)・楊大眼(ようたいがん)・狄青(てきせい)・韓世忠(かんせいちゅう)・伯顔(バヤン)といった、今まであまり知られていなかった武将を発掘した点は評価出来る。普通中国史の解説書はこまごまとした武将の名前や功績より、彼らが加担した戦争自体の歴史的な役割を解説する方向に向かうものなので、ここまで武将にこだわった本書の存在はある意味貴重と言える。脚注の人物解説も充実している。

多少内容に問題があっても、『三国志』マニアが中国史マニアに飛翔するための図書としては、まあまあ使えるのではないかと思う。ただその後、この本の信者になるか、ケチをつけられるようになるかが、マニアとして大成するかどうかの分かれ目になるのであるが……

中国傑物伝
陳舜臣・中公文庫

春秋時代から中華民国まで、各時代につき一人ずつ人物を選び、簡単な伝記をしるす。選考された人物が漢の宣帝馮道(ふうどう)・劉基順治帝など、ややマイナー系に属するのがミソ。分量も適当な長さであり、『三国志』から脱皮して他の時代も見てみたいという中国史初心者にお奨めの本。

破壊の女神
井波律子・新書館

呉王夫差(ごおうふさ)の寵姫・西施から西太后まで、実在・架空の女性たちを取り上げて中国史の流れを追っていく。この本のポイントは、普通の通史では無視されがちな女性たちの生き様を取り上げているというのももちろんあるが、更に肝心なのは、『楊家将』『紅楼夢』『鏡花縁』など女性が主人公となっている小説のあらすじを詳しく紹介しているという点である。特に日本語訳されていない『楊家将』のあらすじは必見である。

※この本に『楊家将』の紹介が載っているということを、私は宣和堂さまのホームページで知りました。宣和堂さまには、この場を借りて改めてお礼を申し上げますm(_ _)m

中国姓氏考
王泉根 著・林雅子 訳・第一書房

中国人の氏姓と命名の変化を時代ごとに書き記す。李・張・王・黄・馬など、中国人によく見られる名字の由来から、古代の名前や字(あざな)の付け方まで、とにかく名前や氏姓に関する知識を豊富に集めている。中国史好きなら読んで損は無いと思う。「朱元璋の本名は朱重八だった」というようなおもしろ話題もあり。

中国小説史略
魯迅 著・今村与志雄 訳・ちくま学芸文庫・全2巻

『山海経』(せんがいきょう)から唐宋伝奇、『三国志演義』・『紅楼夢』・『三侠五義』まで、中国史上に現れた小説の紹介とその歴史的変遷をまとめた書。『四遊記』『三宝太監西洋記』(さんぽうたいかんせいようき)といったマイナー系の小説も豊富に紹介されており、資料的価値は高い。ちなみに本書は平凡社東洋文庫から、中島長文氏による翻訳も別に出版されている。


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