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佐々木のエッセイ"英語の泣き笑い"2
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とんだ"誤解"を招く

苦労する「R]と「L]の発音


お愛想も誤解の種

 時は1997年6月末。アメリカ・カリフォルニア州オレンジカウンティーアーバイン市能登ある日系企業事務所。ちょうど数日前、初めてのアメリカ勤務で出社し始めたばかりの私。事務所は操業3カ月あまり経過した工場に併設の本社事務所。
 明るいカルフォルニアの燦々(さんさん)と輝く太陽の下、若干残る時差ボケ(ジェットラグ)をものともせず、事務所に入るやいなや、”あー!アメリカに来ている”と思わず実感する。そして、一人事務所にはいると、すぐ向かいのコーナーで、アメリカ人女性が熱心にタイプをたたく光景。若々しいその働きぶりに感動した私は、「You are fresh」と話しかけました。新鮮な若々しさ、働きぶりに対する感想、賞賛を表したつもりでした。
 当然、わが輩は、その見た見目麗しきアメリカ人女性が微笑みを満面に浮かべ、「Thank you. How are you,Ken(注・筆者)?」と明るい返事が返ってくることを期待していました。しかし、さにあらず。どう見ても怒りに震えているではありませんか!
 小生はうろたえるゆとりもなく、ただ唖然と(あぜん)とするばかり。これが今思い出しても、思わず吹き出してしまう、私のアメリカでの失敗連続のコミュニケーションの始まりでした。

 このときの経験をニュージャージーのジョンソン・アンド・ジョンソンの職場で、またシカゴやノートルダム大学の教室で、あるいはパーティや酒場で、アメリカの友人に話す旅に爆笑の渦に包まれ、すっかり人気者になると言う余得を得ることになりました。
 お分かりいただけるであろうか、このときの私の驚きと、その女性の怒りを。しかし、この話を日本人の諸兄に英語ですると、若干の時間差をおいて笑みを浮かべる人がかなりいます。ある時、ある講演をする機会を得たおり、アメリカ人、日本人30人ずつの聴衆に対して話をしたことがありました。アメリカ人は全員腹を抱えて(まさしく腹をよじって笑い、涙を思わず流さんばかり。注・おもしろいことの表現にこのものずばりの表現が英語にある)笑い始めました。一方、大部分の日本人は若干の時間をおいて、周りを見ながら笑い始めました。小生の気のせいか、若干の優越感を込めて笑っている人、自信なげに笑っている人もいます。
 当然、アメリカ人は日本人が同じ理由で笑っているものと信じて疑わないであろうし、日本人で自信を持って笑っている人の多くもまた、アメリカ人が笑っているので、改めて自分の解釈に確信を持って笑い声を高めています。

 多くの日本人は「ユー アー フレッシュ」が、アメリカ人に「You are flesh」と聞こえたと確信して笑っているようです。まして、その場のアメリカ人が腹を抱えて笑っている様子を見ると、ますますその意を強くするようです。ところがアメリカ人には「You are fresh.」と理解するから、人前もはばからず笑い転げるのです。
 さらに、ここに二重にジョークとなるのは、彼らアメリカ人も、笑っている日本人が同じ理由で笑っていると当然思っていることにあります。日本人は、佐々木が朝っぱらからアメリカの女性に「あなたは肉感的です」言ってしまい、怒りを買った考えていることが多いのです。つまり日本人が苦労する"R"と"L"の発音の問題で、とんだ誤解を招いたと理解されるようです。
 問題は「You are fresh.」の意味そのものにあるのです。この表現を女性に使うと、日本語に直せば「悪女の深情け」あるいは「あれにあまり馴れ馴れしくするな」に近い意味になりのです。