雛子ちゃんSS『七五三参り』

 

日本には、七五三と言う行事がある

男子は3歳と5歳、女子は3歳と7歳の歳の11月15日に、氏神に子供の無事な成長に感謝し健康を祈る通過儀礼である

僕の愛妹、雛子も今年8月15日で7回目の誕生日を迎えた

暦は霜月、雛子にとって2回目の七五三参りの月がやってきた

 

「やぁ、ヒナ、ピヨちゃんのお着物がいいの〜」

扉の向こうから、雛子の声が聞こえる

これから着替えると言うので、部屋の外で待っているのだけれど、一向に出てくる気配は無い

…それどころか、何かもめているみたいだけど…?

「でも、せっかく、おばあちゃんが雛子ちゃんの為に用意してくれたんだから…」

「おばあたま…でも、ヒナ…ピヨちゃん…」

どうやら、雛子ちゃんは祖母が用意してくれたお着物(七五三の着物は、母方の実家が贈るのが習わしになってる)より、

自分のお気に入りのピヨちゃんお着物が着たいらしい

確かにあのピヨちゃんお着物はとっても可愛いけど、でも七五三に着て行くようなお着物じゃないしな…

コン、コン…

「雛子、入るよ」

ノックをしてから部屋に入る

雛子が僕を見るなり、とてとてと駆けてくる。服は普段着のままだ

「おにいたま、ヒナね、ピヨちゃんお着物が良いゆうんだけどね、ママがめっってゆうの…」

ぐはっ…この舌足らずな声&上目づかいで懇願されると雛子の意見を推したくなるけれど、ここはぐっと耐えて…

「ねぇ、雛子、今日はこっちのお着物にしようよ、せっかくおばあちゃんが雛子の為に用意してくれたんだし、そうじゃないとおばあちゃん可愛そうだよ。それに、僕もそのお着物を着た雛子を見てみたいな…とぉーっても良く似合って可愛いだろうなぁ」

「本当、おにいたま?」

「うん、ほんとほんと、だから早く着替えよう。ねっ?」

「ん、分かった。ヒナおばあたまのお着物着るぅ」

「ありがとう、雛子は良い子だね」

そう言って雛子の頭を撫でてやる。サラサラの髪が心地よい

話がまとまったところで、僕は再び部屋の外に出て着替えが終わるまで待つことにする

 

うーん、待つっても、その間はすることがない

思わず、部屋の中に聞き耳を立ててしまふ

「ヒナ、1人でお着物できるから、ママは見ててね」

「………」

「ふぇ〜こんがらがっちゃったよ〜」

「………」

どうやら、まだ雛子ちゃんは1人でお着物は無理みたい

しばらくして、着替え終わった雛子ちゃんが出てくる

赤を基調とした地に、いくつかの花の刺繍のある着物だ

「おにいたま、ヒナのお着物、可愛い?」

「うん、とっても可愛いよ…思わず抱きしたくなっちゃうくらい☆」

と言って、本当に抱きしめる僕

「えへへ…おにいたま、だいちゅき」

 

そんなこんなで、僕達は地元の神社に向った

この神社はかなり大きく、何でもかなり由緒のある御剣を御神体として奉っているらしい

「わぁ、お店がいっぱーい」

雛子ちゃんの言うとおり、正門を抜けた参道両脇には出店が立ち並び、さながらお祭りのようだ

…まぁ、七五三もお祭りみたいなものだけど

周りには、他の七五三参りの参拝者も多い

「あっ、ひよこさんだー」

雛子ちゃんが指差す方向を見ると、なるほど、ヒヨコの風船のオモチャが売っている

風船の中におもり(つってもさほど重いものじゃないだろーけど)が入っていて、ちゃんと立つしくみになっているようだ

「ヒナ、あれ欲しい〜おにいたまぁ〜」

「よーし、雛子の欲しい物なら何でも買ってあげるよ」

本当はお参りを終えた後の方がいいとも思ったが、流石に2度目の「上目づかいで懇願」には耐えられなかった

「わーい、おにいたま、ありがとぉー」

 

数分後、僕達は神社の本宮に向って歩いていた

雛子は、左手でヒヨコ風船の糸を、右手で綿菓子を持ちながら歩いている

もちろん、両方とも僕が買ってあげたものだ

雛子の母親が僕にこっそり僕にお金を渡そうとしたが、僕はそれを断った

しばらくして、本宮についた

 

「あれ、おにいたま、あの女の人はなぁに?」

本宮の横では、千早を着た巫女さんが鈴で厄払をしているようだった

「ああ、あれは巫女さんがお払いをしているみたいだね、雛子もお払いしてもらうかい?」

「うん、ヒナお払いしてもらうー」

(初穂料は、おこころざし…か。そゆのってある意味1番困るんだよな…)

なんて事を考えている僕をよそに、雛子は巫女さんが振っている鈴の下できゃっきゃとはしゃいでいる

何とも、微笑ましい光景だな

 

「雛子、ヒヨコさんと綿菓子は僕が持っててあげるから、お母さんと参りしておいで」

「え、おにいたまは一緒にいかないの?」

もともと七五三は親子で参るものだ、いくら幼少の頃から雛子を知っているとはいえ、血縁者でない僕がこれ以上踏みこむのは躊躇われた

「…うん、僕はここで待ってるよ」

「えー、おにいたまも一緒じゃなきゃやだー」

雛子の母親も、「一緒に来て下さい」と視線で訴える

僕は思わず苦笑してみせた。そして心の底で微笑んだ

嬉しかった

幼い頃から実の妹のように慣れ親しんできた少女、そしてその家族

この人たちに出会えて良かった。僕は心からそう思った

「うん、分かったよ雛子、僕も一緒に行くよ…でもその前に綿菓子は食べちゃえよ」

「はーい。わーいわーい、おにいたまと一緒だぁ〜」

この無邪気な笑顔、身を削ってでも守りたいとさえ思う

「おにいたまにも綿菓子さんあげるね…はい、あーん」

 

こうして、3人で神様にお参りをする

手を合わせ、雛子の行く末を祈る

そして、ずっと雛子と一緒にいられますように…

 

Fin

 


ちうワケで、気まぐれで書いてみたヒナ七五三SS

いやーオレって相変わらず文才無いねー(笑)

 

ちなみに、七五三は数え年ちうのが昔から言われてるけど、別に満年齢でも良いらしい(ちうか、このSSはそうだし)

あと、11月15日は祝日じゃないんで前の日曜とかに宮参りするのが一般的みたいね