日本経済新聞”食べる”掲載記事

シニョーラの歌声が聞こえる

大阪・北新地で創業23年を迎える「リストランテ・トリトーネ」(06・6346・1712)。関西イタリア料理界では草分け的な存在だからご存じの方も多いと思う。著名店なのに今回あえてご紹介するのは、オーナーシェフ安藤宗雄さんの手によるパスタの逸品が新たな評判を呼んでいるからだ。
何の変哲もない手打ち麺(めん)が皿に盛られて出てくる。色は普通の卵麺よりも少し茶色い。味付けもゆで上げてからパルメザンチーズとバターを絡めただけという至ってシンプルなもの。「パスタのうま味がストレートに伝わるのはこれですよ」と安藤さん。一口食べて仰天してしまった。何という鮮烈な小麦の香り。麺のコシもすばらしい。しなやかでいて反発力がある。噛(か)むごとに喜ぴが口中を騒け抜ける。イタリア産小麦粉の純手打ち生麺・バター・チーズあえは1700円。お好みのソースでオーダー可能。
イタリアでは今も麺打ちは主婦の仕事とされる。麺棒(ぼう)は大切な花嫁道具の一つだとか。安藤さんは、イタリアで料理修業中、ローマ近郊にある手打ちパスタの名店のシニョーラ(おばさん)達に教わった「お袋の味」を日本で再現するのが夢だった。
パスタそのものに甘みと香りを出すためには、必要以上の精製がされていない、やや粗めに挽(ひ)いたイタリア産の軟質小麦粉が必要だ。それがようやく食材輸入の親制緩和で昨年当たりから手に人るようになり、店の看板メニューとしてお目見えした。しかし粉を麺棒一本と卵の水分だけで打ち延ばす作業は、体力を大幅に消耗するため、1日20食以上は無理とか。そんなことも知らず2皿目を平らげる。私の味覚は確実にイタリアに着地していた。
午後五−午前二時、土曜のみ午後十一時半まで。日曜定休。(鈴木直哉)

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