「今、セカンドインパクトが…」

1998/8/9

Nam-Nam

黄昏の世界 番外編


窓の外を雲が流れていた。
丁度、夜の領域に入りかけたところで、飛行は安定していた。
機内は時折エンジンの出力調整の音が唸るくらいで
二人の間にはもう長いこと沈黙だけが続いていた。

「ユイ」

耐え兼ねたかのようにゲンドウが言葉を発した。

「……」

「我々にも限界は有る… そんなに落ち込むな…」

「そんな事言ったって… これから起こる惨事を黙って見ていろと?!」

ユイは語気を荒めてゲンドウに詰め寄った。

「まだ、葛城博士だって考え直すかもしれないし…… そう絶望的になるな」

「それなら、まだ諦めずに南極に残って説得するべきだったのよ…」

ゲンドウはユイの肩を包み込むように抱き寄せた。

「我々は十分説得した。 それに生きていればまたチャンスはある。」

「いや、あなたは何時だって自分が正しいと思っている。 でも、今度は起
こってからでは遅いのよ!」

「フッ… そんなことは判っているさ、しかしそれさえもヒトにとっては運命
なのだよ… 我々に干渉することは不可能さ。」

ゲンドウは抱き寄せたユイの体をこれほど小さく感じたことは無かった。

「ごめんなさい… 自分で始めたことなのに、今になってあなたに当たるなん
て大人気無いわね… でも!やっぱり… 本当は 私、怖いの…」

「ああ… 君の苦悩はすべて私の苦悩だ…… やがては時間が答えを教えてく
れる…… そして我々はそれを待つしかないのさ。パンドラの蓋はすでに開け
られたのだ。」

突然、機体が大きく揺れた。乗客たちはみな悲鳴を上げ一瞬パニックを起こし
かけたが、すぐに機長のアナウンスが入り収まった。

「乗客の皆さん、こちらは機長のイシダです。非常におおきな気流の変化が起
こった為、振動がありました。機体のトラブルでは有りませんので飛行には一
切差し障りはございません。只、これより気流の流れに対処したコース変更を
行いますので、到着時刻などには少々影響が出るかもしれませんが、大事には
到りませんので今しばらくお待ち下さい。」

ベルト着用 のサインが出て、スチュワーデスが前で解説をしていた。

「…… いよいよだな…」

ゲンドウは自分に言い聞かせるかのように呟いた。

「あなた…」

「ユイ、安心しろ。 君は私が守る。」

ゲンドウの胸に抱かれたまま、ユイは子供のように涙を流していた。しかし、
それにも増して、ゲンドウの胸は温かかった。

「ずっと、このままでいて…」

「ああ…」

窓の外では藍色の空の下、雲が異様な速度で渦巻いていた。

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「お客様、シートベルトをおしめ下さい」

「ああ…」

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The End (^_^;)
                  


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