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「Meet Again! --- 紅き久遠 NOEL Version」

【紅き久遠スペシャル】
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「愛は寛容にして 慈悲あり、

愛は妬まず 愛は誇らず、

高ぶらず 非礼を行わず、

おのれの利を求めず、

憤らず 人の悪を思わず、

不義を喜ばずして、

まことの喜ぶところを喜び、

おおよそ こと忍び、

おおよそ こと信じ、

おおよそ こと望み、

おおよそ こと耐えうるなり、

愛は −−−

いつまでも 絶ゆることなし −−− 」



冬とは思えないほどの穏やかな陽射しが、ステンドグラスを通して、バージン
ロードの真紅を、見事なまでに輝かせている。教会には、聖書の一節を唱じる
牧師の荘厳とした声が、朗々と響き渡り、参列した者たちの感動を高めていた。


12月4日−−−。そう、アスカの誕生日の、その日。


ゼーレおよび最後の量産エヴァとの対決を終えてから間も無いため、負傷した
リツコやセイジは包帯がまだ取れず、他のみんなも疲れが未だ完全に回復した
とは言えない状況ではあったものの、シンジとミサトは宣言通り、この日を自
分たちの新たな門出として、挙式を敢行した。


「こんな時だからこそ、あなた達の晴れ姿は、みんなの心を和ませると思うの」


みんなを慮るミサトが最後に決断したのは、他ならぬリツコが賛成してくれた、
この言葉によってだった。

以前より既に、共に暮らしているシンジとミサトだったが、さすがに挙式近く
ともなると、お互い顔を合わすのが何となく照れくさく、ばつが悪くもあり、
一週間前にはミサトはリツコの家へと待避し、新鮮な気持ちで今日のこの時を
迎えたのであった。そのため、前日にシンジが取った、と或る行動については
知る由もない。


「汝、碇シンジ この者を妻として迎えることを誓うか」
「・・・はい」
「汝、葛城ミサト」
「ハイ」
「健やかなるときも、病めるときも、死が二人を別つ時まで、この者を夫とし、
尽くすことを誓うか」
「・・・いいえ・・・」


感動の内に滞りなく進行する筈の『誓約』が、一瞬止まった。普段、驚くこと
など無さそうに見える牧師が言葉を失う。


「・・・・! 今、何と仰せられた?」
「いいえ、です・・・牧師さま。・・・私、お言葉ですが、異議があります」
「ミ、ミサトさん?」
「ミサトったらっ!」


傍らに立つシンジは身を固くし、最前列で二人を見守っていたリツコは溜め息
を付きながら天蓋を仰ぐ。ネルフの面々も一様に唖然呆然としていた。


「異議とな・・・? よろしい、申してみなさい」
「ありがとうございます。あの・・・・死が二人を別つ時まで、ではありませ
ん。私たち二人は・・・彼と私は、死が二人を別っても、ずっと・・・、な
んです。死をも超えて、一緒にいたいんですっ・・・」
「ミサトさん・・・」


この時のミサトの表情は、これから新生活を迎えることを夢見る新婦のものと
は、とても言えず、「まるで、神に挑戦する作戦部長かの如く、凛とした視線
だった」とは後に語られる事になる介添人となっていたマコトの弁である。

そして、この闘いにミサトは勝ったのだった。


「・・・よろしい。貴方の気持ちは、天に居わす主に反するものでは無いと私
も思います。・・・では仕切り直し、といたしますかナ・・・?」
「ええ。感謝いたします」


ミサトの会心の笑顔は、ハラハラさせられた後だっただけに、みんなの心を捉
えて離さなかった。シンジも、改めてミサトの心に触れた想いで、感動してい
たのは言うまでもない。


「健やかなるときも、病めるときも−−−」
「・・・・」
「−−−死が二人を別っても、永久に−−−この者を夫とし、尽くすことを誓
うか」
「・・・はいっ」


「今、神の御名の元、この二人は愛を誓い、夫婦の誓約を為しました。しかし
ここで、この誓約が完全に成立するためには・・・私は此処に参列されてお
られる皆さんに問わねばなりません・・・。この誓約に、異議のあるものは
居られる哉・・・」


睥睨とした神の視線が、一同に順に、当てられていくかのような感じであった。
そう、神の前での「誓約」という行為は・・・日本のものであれ、西洋のもの
であれ、壮麗な中にあっても、本来は非常に厳格なものなのである。二人とも
神を信じている訳ではない。しかし、この誓いという行為が、互いの伴侶に対
してだけ為される個人的なものばかりではなく・・・、神−−−言い換えれば、
この宇宙という全存在−−−に対しての宣誓である、ことは理解していた。

ケンスケやマナたちも神妙な面持ちで、「荘厳」という言葉の意味を初めて理
解し、少しだけ−−畏怖−−という気持ちを感じながらも、湧き上る感動を抑
えることが出来ずにいる。


「誓いに・・・異議無き場合は、沈黙を持って応えよ・・・」


異議を唱える者はいない。静謐とした中、誓約は成ったのだった。


「では・・・誓いのキスを・・・・」


二人は向かい合い、シンジが新婦のヴェールを上げる。薄く紗がかかっていた
ミサトの視界が、まるで日の出が世界を明るくしていくかのように、だんだん
と開けていく。

そして、遮るもの無く、シンジの優し気な瞳と自分の視線とを直に結び合い、
改めて彼の顔を、瞳を、見つめる。

この時ばかりは、ミサトも凛としてはいられなかった。頬が勝手に紅く染め上
がり、鼓動もこれ以上は無いという位、高鳴ってしまっている。



そして、キス。一瞬のきらめき。



ミサトの頬に涙が一縷の輝きを光らせた。リツコも耐え切れずに涙を溢れさせ、
そのリツコの涙をマヤが自分のハンカチで拭う。感銘の波が、参列した他の女
性陣にも、瞬く間に伝染する中、挙式は無事に終了した。



* * * * * * * *



「それにしても、あんたってコは、最後までハラハラさせてっ」
「・・・ん、だってさ・・・」
「ま、いいわ。いいものだったし、ね。・・・・おめでとう、ミサト」
「ありがと」


祝福や冷やかしの叫びとライス・シャワーを浴びながら、リツコやマヤ、トウ
ジたちと言葉を一頻り交わした後、シンジがミサトに囁いた。


「ミサトさん・・・、実はここに居るみんなとは別に、駆けつけてくれた参列
者が、まだいるんだ・・・・」
「え・・・? でも、知ってる人にはみんな招待状出して・・・、都合のつか
なかった人はいなかった筈じゃ・・・?」


周りを見回して、冬月を始めとし、近所で仲の良い酒屋の主人まで、およそ知
る顔が全て揃っているのを確認して、シンジに尋ねる。


「うん・・・。彼は、ちょっと歳で、前ほどあまりキビキビ動けなくなっちゃ
ったんだけど・・・。あ、でも心配すること無いよ。元気なことは、とって
も元気だから・・・」
「だからぁ、一体、誰なの? で、何処に居るの?」


シンジはいたずらっぽく微笑むと、黙って、ある方向を指差した。二人を取り
巻いていたみんなも、その輪を開き、一様に微笑みながら、シンジの差した方
向へ人垣の道を作って、ミサトを促す。

その先には −−−−。ヒカリに抱かれた「彼」が居た。


「・・・・!」


ブーケを投げることも忘れて、気がついた時にはミサトは走り出していた。陽
光に縁取られた白き風が、みんなの笑顔を一層輝かせる。ウェディング・ドレ
スは、かくも美しく、なびくことが出来るのだ。まさに天使の羽根の如くに。


そして−−−。


微笑むヒカリの許へ向かって、涙ながらに、彼女は両手を一杯に差し伸べた。




「ペンペンっっっっ!」





ミサトにとっては、シンジよりも付き合いの長い家族との再会。その家族の一
員とまた、再会を果たすことの出来たミサトが、ペンペンをきつく抱きしめて
いる。

その光景を少し離れた所から眺めていたシンジと、リツコは顔を見合わせて微
笑み合った。


「リツコさん、傷に障りませんか?」
「ありがと、シンジくん。でも気遣いは、いらないわよ。こんな光景見られる
んなら、どんな重体だって来るわよ・・・。逆に、予定より早く治ってしま
いそう、っていうもんだわ」
「補完計画が発動して、みんなが地上から消えていた22年間。人類以外の生
命体はそのまま逞しく、生を営み続けていた・・・んでしたよね?」
「そう。前にミサトには説明したけど、シンジくんとアスカ以外の人は個体と
して存在しなかったわ。でも他の種族は地球と共に22年という時間を生き
続けた・・・。それはペンペンも、例外では無いのよ」
「でも驚きましたよ。昨日になって、ペンペンの生存を確認できた時には」
「私だって。寿命を考えると既にこの世に無いものと思ってしまって、今迄、
探そうともしなかったけど・・・、それも仕方ないでしょう? でも、ここ
にMAGIが打ち出したデータがあるのよ」


<<ペンギン>>

6属約17種。尾羽12〜20枚、くちばしは3〜5片の
角質板から成る。雄が求愛のため小石を雌に与え、求
愛を受諾すると雌はその小石を敷いて高くして巣を作
る。こうした、まるで人間のプロポーズに近い行動を
取る種もいる。通常2個の卵を産
み、平均35日で孵化。寿命は普通7〜8年。但し、22
年生きたという最長記録がある −−−


「そうなの。既知の種であるペンギンですら22年生き抜いた個体がいたのは事
実なのよ。そして、ペンペンは、新種の温泉ペンギンだった・・・。寿命が
どの位なのかは、この世の誰にも判らないのよね。だから・・・今、此処に
生き永らえていても、実は、何の不思議も無いかも知れないわ・・・」
「そうですね」
「でも、なんだって鬼怒川温泉になんて居たのかしら?」
「しかも、この半年余りの間に河童伝説になってるんですからね・・・」


ヒカリが疎開していた場所に幾分近いとは言え、相当な距離があるのは確かで
ある。河童騒動が温泉で起きているのを耳にしたシンジが、何となく予感めい
たモノを感じ、MAGIを使い詳しい情報を集めた後、昨日になって、ヒカリ
とマナを伴い、数時間の捜索をして再会を果たしたのであった。


「・・・きっとミサトやシンジくんたちと、また会えることを信じていたんじ
ゃないかしら?」
「そうですね。ペンペンは、今日のことを昔っから <<知っていた>> のかもし
れませんね・・・」
「そして、多分。・・・アスカからの・・・、ミサトへのプレゼントなのよ」
「・・・ええ・・・きっとそうです」


そう言うとシンジは、空を見上げる。その蒼天と同じ色の瞳を持つ彼女を想い、
ミサトとの挙式の報告をすると共に、心を込めて呟く。



「・・・アスカ・・・誕生日、おめでとう・・・」



12月4日−−−。そう、アスカの誕生日の、その日。


シンジとミサトを祝福する、教会の鐘の音色に唱和して、少し甲高い鳴き声が
無上の歓びを奏でていた。



「クェェェッ・・・・!」





************** << 紅き久遠 スペシャル Meet Again! 了 >> *****************


【後書き】

いよいよ・・・12月。アスカの誕生日。ミサトさんのバースデー。そして拙作
のシリーズの中での、シンジとミサトの挙式日。祭りだ、まっつりっだっ、お
祭りだーぁ。と、いう訳で(^^)。

フライングですけど、NOEL Versionと称して、アスカ&ミサトさんへの誕生祝
いと、シン×ミサ成婚祝儀と、皆様への日頃の感謝の意を込めまして、まだ気
が早いのですが、 Christmas Present を兼ねて 「紅き久遠 番外編」をお届
けいたします。本作でミサトさんは、何と20代(!?)で嫁に行けましたーぁ(^^)。

今回ばかりは、罵られても何でも、私、聞く耳持ちませんから。私の我侭だろ
うと、独り善がりだろうと、もう良いんです(居直り!)。 挙式の模様だけは描
いといてあげなきゃ、って前から思っていたもので。其処にもう1エピソード
加えてね。だからゴメンナサイ。暴走の上、敢行しちゃいました(^^)。


さて。


冒頭の文言は、聖書の「コリント前書十三章」より。それ以外の式次第ですが、
実生活で何回も参列した経験はあるのに(T_T)、結構、覚えてないもので・・・、
適当に記憶を繋げてます。だから流儀とか、プロテスタントかカソリックか等
は、たぶん目茶苦茶です。牧師・神父・司祭の使い分けとか。牧師さまのセリ
フも創作してる所が・・・かなり(^^)。

ミサト「結局ぜんぶ半端じゃないのっ! 私の挙式を何だと思ってるのっ(怒)」

い、いや、だ、だから・・・雰囲気だけ味わって下さい。お願いします。m(_ _)m


文末に近い部分、ペンギンの説明文は、ホントの事です。22年生きた記録が残
っているそうです。奇しくも、私の「紅き久遠」でみんながこの世に戻ったの
が映画のラスト・シーンから22年後という設定でしたから、ペンギンの項目を
色々調べて、これを知った時、何やら因縁めいたものを感じたのは否めません
でした。

こんな事が、ちょっとした日常の奇跡なのかもしれませんね(^^)。だから、ち
ょっち嬉しい・・・。

このほぼ一年後に、本編の最終話の通り、アスカとレイが再び、この世に生を
受けることになる訳です。ですから、今回のお話は、あくまでも、オマケとし
て、番外編として楽しんでいただけたらナ、と思います。

何分にも身勝手な贈り物ですので、不具合等は平にご容赦下さい。あ、返品は
ご自由にどうぞ。でも、返送料だけは負担してねー(^^)。

これで・・・思い残すことは、もうありません。お付き合いいただけ方々、ホ
ントにありがとうございました。

そして、もし。もしも、この勝手な贈り物が、少しでも皆さんのお心に「何か」
を届けられたのなら・・・とても嬉しく想います。

では、みなさま、素敵な12月をお迎え下さい。


* * * 想音斗 * * *

 

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