放映:CX 1980/06/13
監督:竹内啓雄
音楽:渡辺岳夫
原作:夏目漱石
製作:東京ムービー新社内容:おなじみの名作を、明るくサワヤカに描く秀作アニメ。西城秀樹の坊ちゃんは、イメージぴったり。脇を固める永井一郎(タヌキ校長)、八奈見乗児(赤シャツ教頭)、納谷悟郎(山嵐)、山田康雄夫(うらなり)、田の中勇(野だいこ)もハマりすぎています。
酔歌作詞:島崎藤村(若菜集より)
作曲:渡辺岳夫
歌:デューク・エイセス歌メロ前半は「瀬戸の花嫁」(作曲:平尾昌晃)を、マイナーコードをメジャーに差し替えて上手にリサイクルしている。これは無意味なマネっこではない。坊ちゃんは瀬戸内海を渡って四国の学校に赴任するのだから。超有名曲をズバッと引用するところがカッコいい。
歌メロ後半は「キャンディキャンディ/あしたがすき」の「IIm、V、I、VI(メジャー)」と同様な展開。正調ナベタケ節(?)に素直に感動です。
東西南北作詞:島崎藤村(若菜集より)
作曲:渡辺岳夫
歌:デューク・エイセスおおらかな男声合唱で、ゆったりした三拍子。こちらは明確な「坊ちゃん」のテーマであり、インストアレンジ曲が本編劇伴で重要な位置を占めている。ドラマのエンディングでデューク・エイセスの歌付で流れる。
未聴な方は、「めだかの兄弟」('83年、作詞:荒木とよひさ、作曲:三木たかし)に少しだけ似ている歌だと想像してください。
荒城の月作詞:土井晩翠
作曲:滝廉太郎
歌:西城秀樹「坊ちゃん」がイキナリ無伴奏で歌い始めるので、ドキっとする。途中から伴奏が加わるが、歌と伴奏の音程がズレている。「ヒデキは音痴」みたいには思いたくないので、何か録音上の都合だろうと推測しておく。あるいは、わざと高く歌っているのかもしれない。そういう歌い方をする歌手もいるようだが、気持ち悪いです。
原曲も無伴奏だったが、山田耕筰が編曲したとのこと。この作品の編曲は、渡辺岳夫によるものと思われる。
本編劇伴主に3つのテーマを軸に構成している。
酔歌テーマアレンジ
作品冒頭でしっかりメロディーを聴かせる。メインタイトルの主題歌は、その後に登場する。歌声をより劇的に聴かせる演出であろう。本編中でもさまざまなアレンジで、随所に展開する。東西南北テーマアレンジ
本編中でメロディーを何度も聴いてから、ドラマのエンディングでデューク・エイセスの歌が流れる。これも感動の演出だ。マドンナのテーマ
スキャットが色っぽくも美しい。マドンナはセリフがないので、音楽表現の比重が大きいのだ。
ブリッジ〜SE随所で拍子木が「ちょーん」と鳴る。短いブリッジにはSE的なものがあり、音楽にブリッジが重なることもある。何となく聞き覚えの曲もある。この作品のオリジナルではないものも混じっているかもしれない。
最上の一本多くの名作を生んだ「日生ファミリースペシャル」枠の1本です。演出は竹内啓雄名義で、演出監修・出崎統となっているが、出崎の手がかなり入っており、タイトル前の導入部などは、完全に出崎演出。主演の西条秀樹はアテレコ初挑戦ですが、「ルパン」のフィルムで練習したとかで、なかなかの熱演。特筆すべきは、脇役陣の豪華さで、山嵐の納谷悟朗、うらなりの山田康雄、校長の永井一郎、ナレーターに久米明などベテランをそろえてます。小林七郎の美術、杉野昭夫の作画もすばらしく、ファミリースペシャル枠の作品の中でも最上の一本です。
主題歌作曲にあたってプロデューサーは「寮歌風のものを」と指定したそうですが、できあがってきたのは「日本抒情のうた」。前半は「瀬戸の花嫁」に似てますが、意図してイタダいたものではなく おそらく作曲するうちに似てしまって、渡辺先生「瀬戸の花嫁みたいだが、オレの曲の方が絶対いい曲だから、このまま使おう」とそのまま使ってしまったに違いありません。 デュークエイセスの歌唱がすばらしく、放送当時からレコードがないか探していて、音盤化されていないと知ったときはがっくりしました。ぜひCD化してほしい曲です。
なお、島崎藤村の作品は、すでに著作権の保護期間が切れてますので、自由に使用・掲載することができます。以下に、歌詞に使われた全文を紹介します。
「酔歌」 旅と旅との君や我 君と我とのなかなれば 酔ふて袂の歌草を 醒めての君に見せばやな (*) 心の春の燭火(ともしび)に 若き命を照らし見よ さくまを待たで花散らば 哀しからずや君が身は (*くり返し) 「東西南北」 男ごころをたとふれば つよくもくさをふくかぜか もとよりかぜのみにしあれば きのふは東けふは西
関心のある人は、新潮文庫「藤村詩集」で全文を読んでみてください。
腹巻猫さん 1998/03/23
この作品については不明な点が多く、腹巻猫さんに特にお願いをして御寄稿をいただきました。どうもありがとうございます。なお「酔歌」はメロディーのリズム要素やコードの流れから判断して、意図的なイタダキと考えています。しかし「オレの曲の方が絶対いい曲だから」とは、ありそうな話しに思えますし、曲の成り立ちには大いに興味をかきたてられるものがあります。
DVD PIBA-3024「坊ちゃん」