「矛盾だらけの選曲」(私的ジャズ解説)
      


序 文
 今では、小さいながらジャズ喫茶らしき店を経営しているとはいえ、ほんの少し前までは初心者で
素人であったわけだから、「ジャズの名盤100選」とか、「ジャズ決定盤」などと題された解説本
を参考にしてCDを購入したりしていた。(いまでも時々参考にしてるけど)
 ただ、そういった解説本の内容と、自分の感覚とのギャップを感じることが多々あるので困ってし
まう。たとえば、ピアノの名盤として、オスカー・ピーターソンやキース・ジャレットの作品が紹介
されているが、はっきりいって私ゃ大嫌い、全然良くないと思うんです。(などど言うとファンの人
達から怒られそうですが、人各々、良いと感じる人は聴けばよろし。うちの店ではかかりません。)
 そんな理由で、ここでは"paradox"店内のみ有効な、ジャズ名盤解説をしよう。



   WALTZ FOR DEBBY / Bill Evans Trio

 私たちの店paradoxには30枚ほどのBLUENOTEレーベルのアルバムが飾ってあるが、入り口のドア
を開けた正面に掛けてあるのは、RIVERSIDEレーベルのWALTZ FOR DEBBY/BILL EVANS TRIO だ。
一枚だけ、BLUENOTEではないのには、勿論理由がある。このアルバムを何度も聴いたおかげで、ジ
ャズ喫茶などという儲からない商売を始めてしまったのだから。
 ジャズに少しでも興味があれば聴いたことがあるだろうし、たいていの名盤解説本に載っている。
「ピアノトリオの名盤、聴いていると優しい気持ちになる」と。確かに名盤である。そのことに異存
はない。しかし優しさは感じられない、私には恐ろしくさえ感じるのだ。
 1曲目の"My Foolish Heart"から始まるヴィレッジバンガードでのライブ録音であるが実際のライ
ブとは、曲順が変えてある。とりあえず聴いてみると、なるほどやさしげな演奏だ。ライブ録音なの
で、グラスの音や話声、拍手などが聞き取れて雰囲気もよい。だが、2度、3度と聞き込んでいくう
ちに気付くことがある。
観客は、演奏をたいして聴いていないのだ。
まるでカラオケスナックでのお義理の拍手みたいじゃないか。
それなのに演奏は、どんどん白熱してゆく。但し汗をふりまき熱くなっていくのではない、あくまで
も自己の内面に向かって、青白く冷たい炎の様に冷たく燃えていく感じだ。観客の反応など関係無い。
 まさに音楽が芸能から芸術に進化する瞬間の記録とはいえないだろうか。
そう思ったとき、私は恐ろしさを感じた。美しく、冷たく、恐ろしい、完璧な芸術を。汗をふりまき、
唸り声をあげ、聴衆を挑発する芸能としての音楽ではなく、その対局にある芸術としてのジャズの姿を。

 いま、手元にこのアルバムがあるのなら(LPでもCDでもかまいません)、まずはジャケットデザイ
ンをじっとみつめてほしい。ジャケットデザインだけでも芸術といえるほど美しい。
ジャズのレコードを買うときは、ジャケットデザインだけで判断してもよいといっても過言ではないだ
ろう。(この件に関してはまた改めて)

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