レイモンド・チェンさんより:ご質問に対する回答 

講演会「ピア・サポートとリカバリー:オンタリオ州からの個人的な視点とシステム的な視点」(講師:レイモンド・チェンさん 2010年3月28日 於:大阪NPOプラザ 主催:大阪セルフヘルプ支援センター)では、講師のレイモンド・チェンさんに、参加者の方がたからたくさんの質問が寄せられました。しかしながら、当日、時間の都合でチェンさんにお伝えすることができなかった質問が多く残りました。

 いただいた質問のうち、講演当日にチェンさんからお答えいただいたもの以外は、すべて(質問用紙に書かれていたコメントも含めて)訳し、チェンさんにお伝えしました。そして、その後、チェンさんから、非常にていねいな回答をいただきましたので、紹介させていただきます。(訳:大阪セルフヘルプ支援センター 松田博幸)

 なお、回答しやすいように、いただいた質問をテーマ別に整理しました。一枚の質問紙に書かれていた複数の質問が別べつのカテゴリーに分類されている場合があります。また、〔 〕は訳者が補足した部分です。

 英語版はこちらです。→ English version

 

 



以下のお答えは、私の個人的な見解です。かならずしも、完全なものではありませんし、充分に調査されたものでもありません。いつでも緊急の対応が必要なときは、すぐに専門職者にみてもらってください。読んでいただき、ありがとうございます!



1.オンタリオ州の精神保健プログラム(当事者事業やCAMH[依存症・精神保健センター]を含む)についての質問

Q1−1
 糖尿病以外にも足が跛行になったり、首が上がったりして薬の副作用やストレス等で歩行困難になったりしている人もいると思う。(車イスを利用せざるを得ない当事者を見てきています)。
 そのような、ジストニアやジスキネシアの研究調査は行われていますか? そして、そのような副作用に対する車イス貸与などのサービスや制度はありますか?


 早い世代の薬は、あなたが言っているような、そういった副作用を引き起こします。一般的に、ある人が永続的な障害(この場合は精神保健の診断)によって生活保護(social assistance)を受けている場合、その人は、オンタリオ州で「補助具プログラム」(assistive devices program)あるいはADPと呼ばれている制度を利用する権利があります。その人、あるいは家族の収入によっては、行政が費用の一部あるいは全部を出してくれます。ただし、それが必要であるということを表した申請書に、医師のような保健ケアの専門職者がサインをする必要があります。


Q1−2
 オンタリオ州で多くのプログラムに資金提供されていますが、それはどういう考えに基づいているのでしょうか。


 まず、基本的な考えは、クライエント/当事者(コンシューマー)が適切な水準のケアを受けることができるようにし、しかも、それが、できるかぎり地域社会において可能になるようにするということです。病院や施設は、治療を受ける人が、家庭から切り離されて、遠くにいかないといけないということを意味します。(オンタリオ州、とくに大都市以外の部分はとても広く、病院にいくのに自動車で1時間あるいはそれ以上かかることもあります。)
 私たち使っている言葉で「ケアの連続」というのがあります。当事者に合った広い範囲のサービスが用意されるということです。状態がよくなれば、その人は、自分のニーズに合わせて自分が利用するサービスを変えていくことができるべきです。たとえば、病院に入院している、ある人は、救急ケアから、その人を見守るケース・マネージメントへと移り、そして、状態が安定すれば、外来のデイケア・プログラムを利用するようになり、やがて、ピア・サポート・サービスを使うようになります。また、その後、就労のためのサービスを利用したり、カウンセリングを受けながら学校にいくといったこともできるようになります。しかしながら、すべてのサービスがすべての地域で利用可能であるわけではありませんし、待機者がいる場合もあります。


Q1−3
 オンタリオ州のさまざまなプログラムでは、PSW(精神保健福祉士)は例えばどんなプログラムをしているのですか?


 ソーシャルワーカーは、地域社会と施設、両方で仕事をしています。ソーシャルワーカーは、ケース・マネージャーだったり、スーパーバイザーだったり、上級管理者だったり、あるいは、一対一でクライエントに援助を提供しています。自分が当事者であることを明かすというようなことがないかぎり、ソーシャルワーカーにはできないことがあります。それは、ピア・サポートを提供することです。なぜなら、その人は、精神保健の診断を受けるということがどういうことなのかということについて「実生活での体験」(lived experience)を持たないからです。


Q1−4
 専門家は必要以上に介入するとおっしゃられたが、そもそも適切充分なサポートを受けている場合に云えることであって、全ての当事者にアウトリーチできていなければ通用しないと思う。その意味で、当事者にアプローチする手法は具体的にどうしているのか?


 その点については、さまざまです。私の個人的な意見では、専門職者が敬意を持ってクライエント/当事者の相談に応じたり、話に耳を傾けている場合、あるいはもっとよいのは、ピア・サポート・ワーカーが治療チームの一員となっている場合、よい治療を受けることができます。ピア・サポートがうながされている場合(たとえば、当事者事業団体からのピア・サポーターが定期的に救急病棟あるいは入院ユニットを訪れて、初めて患者となった人に会うようになっているという場合)、それぞれの立場の人たちにとって有利な状況が生じます。専門職者は、よりよい理解をすることができますし、クライエントは、自分が何を体験しているのかをわかちあうことができますし、ピア職員は、自分の組織の新しいメンバーになるかもしれない人(その人は病院から出たあと、もっとリカバリーについて学ぶでしょう)を見つけることができます。


Q1−5
 オンタリオ州政府が当事者事業の団体に支払っている約300万ドル(2億7千万円)注)はどのような使われ方をされているのですか? 
 注) 1990年代前半の時点での額。



 地域社会の他の団体の場合とあまり変わりません。職員の給料を支払ったり、事務所を借りたり(賃借)、他の運営経費(事務用品、交通費、管理運営、など)にあてています。しかしながら、当事者事業というのは1990年代に「不景気対策プロジェクト」として始められたので、当事者事業団体は、けっして、活動を継続する精神保健団体としての適切な資金提供を受けなかったのです(また、それらの団体が専門職スタッフを使わなかったからだというのもあります)。当事者事業は、したがって、あまりお金を持っていません。職員は安い給料で働くか、パートタイムです。本に書いてある知識ではなく実際的な体験をもった人びとにより多くの給料を支払う、社会の主流(メインストリーム)の団体に転職することは、当事者職員にとって、魅力的になっています。


Q1−6
 州政府から当事者団体が補助金をもらっているが、自由は保障されているのか? ノルマはないのか?


 スライドを使った講演のなかで、州政府が、今では、それぞれの団体への資金提供の直接的な責任は持っていないということにふれました。全州を構成する14の「地域健康統合ネットワーク」(LHINs)が、それぞれの管轄地域内の当事者事業に対して責任を持っています。唯一のルールは、事業計画(“効果的で効率的であること;他の団体とともに活動し、人間を中心とした最高のケアを提供すること”、私の短い言葉で言うと、“うわぁ、赤字を出しちゃだめだよ”)に従うことです。


Q1−7
 専門家を抱え込まないと、資金がおりてくることは難しいのですか?


 最近の経済状況のもとでは、(どんな種類のものであっても)新しい団体を立ち上げることは難しくなっています。私の個人的な意見を言いますと、重要な鍵は、資金を得るのが、専門職者なのか、当事者なのか、家族なのかということではなく、保健ケアを提供する新しい方法のための事業計画を出せるかどうかということです。現実を見ると、最近では、専門職者、当事者、家族によるパートナーシップが「政治的に正しい」(*)politically correct)ものとされ、声に耳を傾けられる、ちょうどよいチャンスが生じています。「壁をなくす」という表現が用いられますが、人びとは、自分たちだけで固まるのではなく、ともに学ばないといけないという意味です。保健ケアにおけるチームワークは、リカバリーに根ざしたアプローチにもっともよく合うものです。

(*) 訳注:建前上は正しい、という揶揄を含む表現。


Q1−8
 ピア・カウンセリングには資金提供がなされていますか?


 当事者事業、ピア・サポート団体、病院にある患者協議会(*)が資金提供を受けています。家族のセルフヘルプ団体も行政から資金提供を受けています。自発的に活動する人たちによって始められたセルフヘルプ・グループが、財団から1回きりの資金を受けたり、行政の他のお金をもらったり、自分たちでお金を出し合って無料あるいは低額の公共の場所で集まっている、ということもあるでしょう。

 (*) 訳注:患者の権利擁護をおこなう組織。


Q1−9
 ベーシックインカムをご存知ですか? もし知っておられたら、ベーシックインカムと当事者活動について何か話を聞かせてください。


 インターネットでグーグルを使って「ODSP」を調べてられることをお勧めします。これは、「オンタリオ障害サポート・プログラム」(Ontario Disability Support Program)(障害のために働くことができないとされる当事者のためのベーシック・インカム)のことです。
 また、「所得保障権利擁護クリニック」(Income Security Advocacy Clinic)も調べてみられることをお勧めします(〔英語の〕名前をそのまま使ってグーグルで検索してみてください)。略してISACと呼ばれています。この団体は、草の根的な活動団体として、精神保健当事者や、他の働いていない障害者が使えるお金が、本当に、どれだけ不充分なのかということを明確に表しています。


Q1−10
 チェンさんは、CAMHの理事で大規模病院の方にも関係されているそうですが、その病院の規模と性格(構造)、閉鎖病棟や開放病棟、入院期間や精神障害者が受けられるサービス、の状況と、そこへのピアサポートの関与の有効性の有無について教えて下さい。


 それらの答えについては、グーグルで「CAMH」あるいは「依存症・精神保健センター」(Centre for Addiction and Mental Health)を検索してみられることをお勧めします。私がわかる唯一の答えで、ホームページに載っていないかもしれないのは、ピア・サポートに関するものです。CAMHでは、ピア・サポート・ワーカーを導入しているユニット(気分障害や統合失調症の診断を受けた人びと、また、クライシス[危機]の状態に陥り、状態がよくなるまでの間、病院のベッドが必要な人びとのための短期入院病棟)もあります。
 また、長期入院の人びとのための病棟にも、ピア・ワーカーがいます。


Q1−11
 裁判サポートサービスって何?


 ある人が犯罪を犯して警察に逮捕された場合、ときに、その人が「健全な精神」の人かどうかが問われる場合があります。疑わしい場合には、裁判官がその人を、精神保健アセスメント(*)のために、一定期間、精神科病院に送る申し立てをすることができます。このアセスメントを監督する精神科医は、自分の意見を証言するように求められます。クライエントが精神的に充分な能力を持っていることがわかった場合、その人は、精神科病院を去って、犯罪司法システムにいきます。クライエントが精神的に充分な能力を持っていないことがわかった場合、裁判官はその人が治療を受けるのを許可することができます。
 クライエントが法的な代理人(弁護士)を持つとき、決定に対して抗告をするかどうかを決めることができます。ある人が審理される、あるいは、司法病院に入る前に、数多くの手続きがとられることがあります。

(*) 訳注:情報を集めて判定すること。


Q1−12
 地域別司法サービスって何?


 司法精神医学は、特殊な種類のケアです。というのは、それが拘束の要素を含むからです。概して、一般病院は、人びとを拘禁し続けるための安全な環境ではありません。地域司法病院は、より安全な環境と専門チーム(医師から、ソーシャルワーカーなどまで)を持っています。CAMH(「依存症・精神保健センター」)は、たまたま、トロント地域司法サービス病院となっています。
 長期かつ非常に困難なケースということで、「ペネタングィシェン精神保健センター」(Penetanguishene Mental Health Centre)(州のセンター)で長い期間を過ごす人たちもいます。


Q1−13
 どんな人たちがお金を出してくれているの?(*) 国? ボランティア?

(*) 訳注:何に対してかということが書かれてなかったので、当事者事業に対して、ということだと理解して質問しました。


 オンタリオ、そして、カナダのすべての州において、保健ケア・サービスはオタワ(カナダ政府:国)によって、まとめて資金提供されます。それぞれの州は、保健に関してどのようにお金を使いたいのかを決めます。オンタリオ州では、ピア・サポート団体は資金をLHINs(「地域健康統合ネットワーク」)から得ることができます。LHINsは、LHINsからお金を得ている団体を後援し、独立した団体ではないグループにお金を提供し、病院から予算を受け取りそれを患者協議会にまわします。
 当事者ビジネスは、多くのお金を行政から受け取っています(それは、仕事を持つことで当事者が入院せずにいられるようにする、保健ケア・プログラムだと考えられています)。しかし、一方で、営業による収益も得ています(「エイ・ウェイ・エクスプレス」は書類配達サービスで、「フレッシュ・スタート」はオフィスの清掃をおこなうことで、収益を得ています)。
 私的なスポンサーや公的なスポンサー(市)を持つこともありますし、自分たちでお金を集めることもありますし、プログラムやプロジェクトを始めるということで申請書を書いて財団から助成金(通常、1回きりのものであったり、一時的なものです)を得ることもあります。


2.当事者と専門職者との関係について

Q2−1
 チェンさんが、患者から理事になられたとのことですが、病院(専門職)に対して、どのような主張が必要でしたか?


 実は質問がよくわからないのですが、当事者と専門職者という点に関しては、次の答えでよく理解していただけるのではないかと思います。


Q2−2
 当事者と専門家の協働が成功する要因は何がありますか。


 「他の人の靴を履いてみる」(*)というのが、よい態度だと思います。耳を傾けること、お互いを大切にしあうことが、この上なく大切です。同時に、誠実でなければなりませんし、実際に自分がしていることと自分が言っていることや信じていることとが違うというようなことがないようにしないといけません。ときに、本当のことを伝えることが、人を傷つけたり、不快にさせたりすることがありますので、メッセージがやわらかくなるように、ユーモアのセンスをみがくことも、とても役に立ちます。

(*) 訳注:他の人の立場に立ってみるということ。


Q2−3
 p4(No.15(*)について。専門職は、元患者と呼ぶ人を本当の意味で対等な関係づくりができていますか?(例えば社会保障とか賃金面とか・・・)

(*) 訳注:当日使用した、オンタリオ州で提供されているさまざまなサービスを示したスライド


 できていません! 専門職者は、9時―5時の仕事が終われば、家庭に戻り快適な生活をおくります。一方、当事者は、家庭(がある場合は、ということですが)に戻りますが、貧困が続き、よいものは食べておらず、孤独で、仕事を持つことを願っています。障害年金(ODSP)に基づく、当事者に対するベイシック・インカム(最低限所得の保障)は、「貧困線」をはるかに下回っています。


Q2−4
 I am student and study social work in university. Please tell me, Mr. Raymond think role of social worker.(*)

(*) 訳注:私は学生で、大学でソーシャルワークを学んでいます。レイモンドさんがソーシャルワーカーの役割をどのように考えておられるのか、教えてください。


 ソーシャルワーカーは、当事者あるいはクライエントの望みに耳を傾けることによってリカバリーの過程をうながします。理想を言えば、システムの知識を充分に持っており、どのサービスやサポートが適切なのかを充分に知っているということです。このこと〔=どのサービスやサポートが適切なのか〕は、当事者についてのアセスメントをおこない続けるなかで、変わってきます。それゆえに、治療やプログラムの種類の変更は、〔当事者あるいはクライエントとの〕共同の決定を通しておこなわれるべきです。よいソーシャルワーカーというのは、共感的で、そして、当事者を、患者にし続けたいと思うのではなく、自立させることで動機づけられています。私は、講演のなかで、リカバリーにおける「リスク・マネジメント」という考えにふれました。当事者とソーシャルワーカーは(そして、承諾が得られれば、おそらく家族も)、チームとして一緒に目標について戦略的に考えなければなりませんし、次のステップに進むことでどのようなプラスのこと、マイナスのことが起こるのかを考えないといけません。たとえるなら、銀行のファイナンシャル・コンサルタントに似ています。ファイナンシャル・コンサルタントは、ある人が、家を買うべきかどうか、いくらお金を借りればよいのかといったことを決めるのにかかわります。一緒になって、現在の給料について考えたり、将来に給料が上がるのかどうかを考えたり、仕事がなくなるようなことがないかどうか考えたり、他の家族が助けてくれるかどうか考えたり、といったことなどをします。〔ソーシャルワーカーは、〕精神保健の領域で同じような分析をおこなって、リカバリーの計画を立てるのです。


Q2−5
 I dont understand CURA. Whats culture of community mental health? (*)

(*) 訳注:“CURA”というのがよくわかりません。コミュニティ精神保健の文化って何ですか?


 CURAは、カナダの連邦政府によって提供された、大学での調査研究資金の一つです。「コミュニティ・大学調査研究連携」(Community University Research Alliance)のことで、地域の団体(普段は調査研究を業務としてはおこなっていない)が、研究者(人びとに対して援助をおこなう時間があまりない)とパートナーシップを築くのを推進します。
 コミュニティ精神保健における文化を探究する調査研究のパートナーシップは、私にとって、重要なプロジェクトでした。オンタリオ州には多くの文化がありますが(移民だけでなく、先住民の人たちもいます)、英語による医学モデル・システムは、すべての人びとに適切であるわけではありません。そこで、この調査研究は、次のようなことを明らかにすることに狙いを定めました。精神保健に対する新しい見方が可能なのではないか。また、人びとがシステムのなかを進んでいく(つまり、サービスを利用する)のを助ける新しい方法が可能なのではないか。そして、それらの特別な人たちへの適切なサービスについてコミュニケーションをおこなったり、サービスを提供したり、計画を作る際に、不充分な点があるのだということを、すべての関係者に知らせる方法が可能なのではないか。
 日本では、もっと単一的なアイデンティティが持たれているので(一つの共通する文化、言葉)、みなさんには、以上のようなことが奇妙に映るかもしれません。しかしながら、完全に馴染んでおり、でも「違う」ように見える、一人のカナダ人として、私は、みなさんに次のように言うことができます。こういった私でさえ、私が「違う」と思われているがために、一定のサービスを充分には受けることができずにきました。あるいは、人びとは私に耳を傾けようとする時間を持ちません。そういったこともまた真実なのです。なぜなら、私に身体的な障害があるからです。


3.ツールキットについて

Q3−1
 リカバリーのツールの中に、家族の立場、きょうだいの立場のサポートも必要か? 不必要か?


 私は、それらの人たちが、ツールキットを本当に必要としていると思いますし、それはとても大切な点だと思います。私が講演のなかでお話ししたように、「話すことはお金になりません」。あなたは自分の頭のなかにある知識を書き出さないといけません。そして、そうすることで、他の家族の方がたとそれをわかちあったり、他の家族の方がたにそれを教えたりできるのです。


Q3−2
 ピア・スペシャリスト(*)とは、有資格か? 給料はどのくらいあるのか? どのようにしたらなれるのか?
 トレーナーを、(上下の身分区分で)仕分けするのは不都合ではないか? 対等でなくなるのでは。

(*) 訳注:「ピア・スペシャリスト」というのは、OPDIが展開している「ピア・サポート・ツールキット・プロジェクト」の「コンサルタント」や「スーパー・トレーナー」(トレーナーのボス)のことだと思いましたので、そのように質問しました。


 オンタリオ州において、私たちが「ピア・サポート・ツールキット・プロジェクト」を始める前は、人びとは、みなさんが日本でしていたのと同じようなことをしていました。みなさんは、アメリカの資源を利用してきたと思います。たとえば、WRAPは、カナダでもおこなわれています。しかし、ある人がアメリカでのトレーニングを卒業しても、その資格が、学位や専門職としての資格と同じようなものであると正式に認められるかどうか、私にはわかりません。
 ちょうど今、当事者事業の諸団体は、自分たちのところにいる人たちを違った方法でトレーニングしています。それらの人びとは、自分たち自身の資源を使ったり、あるいは、アメリカのものを作り変えた資源を使っているようです。
 私たちの「OPDI ピア・サポート・ツールキット」について言えば、私たちは、「オンタリオ州でピア・サポートをおこなっているすべての当事者事業団体のグレイテスト・ヒッツ(*)」をまとめています。ですから、それは、豊かな資源であり、オンタリオ州で精神保健サービスを利用している人びとのニーズにぴったりと合っています。情緒的、身体的、そして、スピリチュアルなやり方で人びとが健康を維持できる統合的な方法に、ピア・サポートを採り入れる、といった特別な話題をやがて取り上げることができればいいなと思っています。
 当事者事業団体におけるピア・サポート・ワーカーは、問題のない給料をもらってはいますが、よい金額ではありません。当事者事業団体は、常勤でそれらの人びとを雇うことができないかもしれません(資金が充分ではありません)。病院は充分な給料を払いますが、充分な時間分は雇用しません。見ようによっては、ピア・サポートは、支払われている給料という点でいまだに認められていません。
 あなたは、私たちの「ピア・サポート・ツールキット・プロジェクト」でのトレーニングの上下関係について尋ねておられますが、私が考える短いお答えは以下の通りです。「スーパー・トレーナー」であるということはどういうことなのかを教えることのできる、最高のピア・サポーターを私たちは求めています。前に、私がふれたように、リカバリーしているすべての人は、異なった強みや弱みをもっています。他の人たちを活き活きとさせる、すばらしい伝達者(コミュニケーター)もいます。そういった人たちに、私たちはトレーナーになってもらいたいと思っています。

(*) 訳注:大ヒット、つまり、大成功例。


Q3−3
 私は当事者で精神保健福祉士を目指しています。現在大学で勉強していますが、当事者として専門家になるということはコンシューマーからプロシューマーになる訳ですが、サービスの質についてそれまで受け手であった者はよく理解していると自覚しています。
 今後そういう意味でコンシューマーからプロシューマーになる人達の間でリカバリー志向は広がっていくと思います。リカバリーのツールの有効性はまだ日本ではあまり知られておらず、ツールそのものが開発されていません。ツールについてもっとお聴かせ下さい。


 成功、おめでとうございます! あなたが、カムバックされ、そして、他の人びとを助けようとされていることを知り、わくわくします。
 ご質問に対する答えは、「あなた」が、リカバリーのためのツールだということです。あなたは気がつかないかもしれませんが、あなたがあなたであり、なされる必要のあることを実行することで(それについて単に口で言うだけでなく、ということです)、あなたも他の人に刺激を与える人になることができるのです。あなたに思い出してもらいたいのは、あなたの健康がとても重要であること、そして、あなたの人生においてストレスの多いこのような時期に、健康を大切にしてくださいということです。あなたはひとりぼっちではありません。あなたがあなたの勉強を続けて、そして仕事を始めれば、あなたは仲間(ピア)に出会うでしょう。あなた自身ができること、そして、グループとしてできることは、限られています。でも、少しずつ歩んでいくこと、そして、つねにあなた自身であることが、重要です。


4.大臣の諮問グループについて

Q4−1
 OPDIの代表は、どのようにして、大臣の諮問グループに参加できるようになったのですか?


 彼女は、以前から、行政の会議では高く評価されていました。そして、ここ2年間、彼女はこの種の仕事をすることに熟練したので、さらに認められるようになったのです。人びとは、かならずしも「肩書き」で選ばれるのではなく、考えたり、ともに作業をすることが得意かどうかで選ばれるのです。たとえ、異なったさまざまなバックグラウンドの出身であっても。


Q4−2

 OPDIの代表が大臣の諮問グループに入っている(p19)ですが、OPDI内で様々な意見の異なる人がいるのではないでしょうか?


 OPDIのスタッフ全員が一つの意見にまとまっているかというと、そうではありません。彼女は、公式には、当事者の視点を提供する一市民として参加しています。しかしながら、彼女の個人的な見解は、OPDIと密接につながっており(彼女は、オンタリオ州の当事者団体の傘となる組織の仕事をしているからです)、もしOPDIの政策的立場が、彼女が会議に持ち込む立場と重なるのであれば、それはみんなにとってよいことです。(ウィンク、ウィンク)


5.日本の精神保健について

Q5−1
 社会が、障害を受け入れている状況とは言い難い日本で、ピア・サポートをフォーマル・サービスとして充足させていく、社会でピア・サポートをあたり前にしていくには、どんなことが必要ですか。


 日本について知っているわずかなことから言いますと、ときに、違うということが、社会的に受け入れられていないと思います。また、日本では、家族という単位が個人よりも重視されています。ですから、個人が精神疾患の診断を受けた場合、家族は2つの選択肢を持ちます。それを隠す(みんなにとって大きなストレスになります)、あるいは、当事者にひとりで暮らすように求める(長い目で見れば健康的なことではありません)ということです。こういった文化の違いから、残念ながら、リカバリーがとくに困難になっているように思います。
 ピア・サポートをフォーマルで普遍的にしたいのであれば、精神疾患/精神保健の診断名からのリカバリーは可能であるという言葉をより多くの人たちが共有する必要があると、私は思います。人によって、よくなり方は違いますが、本当によくなるのです。人びとが、期待が低く差別的な文化を持っている場合は、このことは難しくなります。
 私の個人的な考えですが、うまくいった当事者は、このことを心で知っています。北米の人たちのように考え、行動する人びとがもっともうまくいくのではないかと思います。


Q5−2
 日本ではボランティア精神が少ないと思うので、どうしていけばいいのかいい案があれば教えてほしい。


 このことについてはよくわかりませんが、私の意見を述べます。
 日本では、もし何かがタダであれば、人びとはそれを怪しいと思います。援助がタダで提供されれば、それはよいはずがない。そうですね?
 そこで、私の提案は、ピア・サポートをビジネスのように考えることです。参加するのに(会員)、賛助するのに(家族)、団体が援助するのに(スポンサー)、会費が要るようにするのです。そのお金を「楽しいこと」に使います。パーティを開く、グループで出かける、みんなで食事をする(持ち寄りパーティ)、誰かに来てもらって話をしてもらう・・・など。こういったことをすることで、より多くの人が参加するようになり、より多くの人が会費を払うメンバーになり・・・そして、グループができます。ビジネスのようにできるということです。しっかりとした組織になれば、ビジネスが得意な人びとはわくわくして、参加したいと思います。そして、大きくなり、成功します。こうなるには、時間と計画が必要です。でも、可能です。


6.その他

Q6−1
 ピアサポートについて、「友達をケアする灯台である」とおっしゃられてましたが、具体的に教えてほしいです。


 灯台は光を発します。それは、通常、船に危険を知らせます。しかし、それは、また、船をその船が向かう方向に導きます。
 ピア・サポートも同じようにはたらきます。ある当事者がクライシス(危機)に近づいているとき、仲間(ピア)はその人に話しかけ、入院を避けることができるようにその人を導くでしょう。また、当事者は仲間を頼みにすることができるでしょう。その仲間はリカバリーの道案内をしてくれます(なぜなら、それらの仲間もまた「同じところにいた」ことがあるからです)。


Q6−2
 成長の4つのステップは誰にも共通するものですか。


 いいえ。リカバリーへの道はそれぞれの人によって違います。なぜなら、私たちは、みんな、違った目標を持っているからです。私のリカバリーは、仕事に関係していました。なぜなら、私は、自発的に行動することと、私が私自身であることを通して、望ましいスキルを自分が持っていることに気づいたからです。
 人びとが何にリカバリーを見出すのかは、さまざまです。心の友を見つけることかもしれませんし、学校にいくことかもしれませんし、体調をよくすることかもしれませんし、他のさまざまなことかもしれません。しかしながら、共通するテーマは、それぞれの人が、自分が何者であるのか、また、自分がどのようになりたいのかを発見すること、そして、「自分自身を好きになること」です。


Q6−3
 日本は「成長の4つのステップ」のどの位置にあると感じられますか?(*)

(*) 「日本は」というのは「日本の当事者は」ということだと理解して伝えました。


 興味深い質問ですね。人は、当事者たちが今どのようにしているのかを知りたがります。私の答えは、もちろん、次の通りです。それぞれの個人は、それぞれ独自にリカバリーの道を考えているでしょうし、また、そうあるべきです。人はそれぞれ異なっています。ですから、私は、一般化することができません。重要なのは、精神保健の診断名を持っている、あるいは、治療を受けている人びとが、リカバリーへの焦点を伴う言葉、考え、希望にふれることでき、そしてピア・サポートにつながることができるということです。
 違うこと(メンタル・ヘルスの状態のせい)、そしてさらに違うこと(よくなろうとすること)、社会からの期待に対して異議を申し立てること(できるかぎり活発に活動すること)には、ある種の不安がつきまといます。〔訳注:でも、そういったことを通して人は成長するのです。〕もし、成長しないことが精神保健において歓迎されるとみなさんが考えるのであれば、それは正しくないはずです。私たちが成功するためには、他の人とは異なる必要があるのであれば、そのことに何も問題はありません。


Q6−4
 自分の病気を受け入れられない拒絶する人にはどういったアプローチが考えられますか?


 とても興味深い質問だと思います。というのは、私が非常に早い時期に精神保健の診断を受けた時に、私が同じような気持ちを持ったに違いないからです。私の個人的な意見ですが、それは、普通、人が、自分自身の目を通して自分自身を充分に見ることができるほどには、成熟していないからだと思います。人は、他の人たち(家族、友だち、同僚)の期待を聞き、それに従って振る舞おうとすることによって、自分自身が何者であるのかを否認します〔=目をつむります〕。人は、否認しているときは、自分の心に耳を傾けていません。こういった間違った意識は間違った方向に向かいます。なぜなら、人は、本当の自分ではない、偽の人格的アイデンティティを構築するからです。それはさらなるストレスを生み出し、慢性的なエピソード(*)に非常に似た状態になります。そして、最終的には、人は、自分がなりたくない人になってしまいます・・・ずっと具合が悪くリカバリーが非常に困難になっている人です。リカバリーを体験する人びとというのは、集中的な治療(入院、強い薬、電気けいれん療法、など)に費やす時間を限るようにした人びとです。

(*) 訳注:症状の出現。


Q6−5
 私のような不良ピア・スタッフが仲間になったら、どのように更生(考え直させる)のか?


 ハロー! 私たちが仲間(ピア)だからというだけで、毎年、仕事上の評価を与えられるというわけではありません。評価が満足のいくものでない場合は、他の人びとのように、解雇されることがあります。
 当事者事業団体は、ある程度までは、ときどき職員が仕事をできなくなって休みを必要とするということがあるということを認めます。しかし、その人は、長期にわたる健康については誠意を見せないといけません。もし、その人が健康上の問題のためによい仕事ができない場合、その人は仕事をすべきではありません。その人は自分自身を助けることができていませんし、さらに重要なのは、その人がよい仕事をしてくれると信頼している仲間を助けることができていないのです。


Q6−6
 ピアサポートについて何がいいのか悪いのかを学んでいくという所を具体的に教えてほしいです。(*)

(*) 訳注:講演のどの部分を指しておられるのかがよくわかりませんでしたが、おそらく、「リカバリーをめぐる考えをわかちあうということは、正しい答えも、間違った答えもなく、探究されるべき選択のみがあるのだということを認めることです」の部分のことを書いておられるのだと考え、訳しました。


 ピア・サポートは、理想的には、自分の健康状態を安定させ、友だちや家族によるサポート・システムを持っていて、人生と未来について前進する準備ができている人を目指しています。このことは、ピア・サポートに何ができるのかについて、人びとの間で、多くの可能性や声があるのだということを意味します。何がもっとも役立つのかということについて、注意深く聴き、考えることが当事者にとって大切です。
 ここで、再度、ファイナンシャル・コンサルタントと比べてみます。ある人が10万円を持っていると想像してください。コンサルタントは言うでしょう。株がありますよ、公債がありますよ、金(きん)がありますよ、預金口座がありますよ、宝くじ券がありますよ、そして他の選択肢もありますよ。あなたは、どれを組み合わせたいですか?
 ピア・サポートは、利用可能な精神保健サービスとサポートを組み合わせたものの一部です。ケース・マネージメントをもっと求める人もいるでしょう。医師を好む人もいるでしょう。ひきこもって静かに暮したい人もいるでしょう。
 私が言いたいのは、正しいやり方や間違ったやり方はないのだということです。人は、ピア・サポートを重要な部分として選ぶことができますし、あるいは、それを無視することもできます。私にとって重要なのは、人が、リカバリーについて考え、そして、社会において社会的役割を果たして満足を感じている市民となることです。


Q6−7
 コミュニティーとは何?


 オンタリオ州で「コミュニティ」というと、一般的な定義は、入院病棟のなかではおこなわれないケアのことだと、私は考えます。病院外の団体が、クライエントに対して、デイケアや定期的な面接をおこなうことを意味します。クライシス(危機)・プログラムのなかには短期滞在できるものもありますが、それは家庭のような場です。病院もまた、コミュニティに基盤を置いていると考えられる外来プログラムを運営していることがあります。
 施設プログラムとは、一般的に、クライエントが病院のベッドを使っていて、24時間、退院するまで、ケアが病院のなかでおこなわれるものです。
 ある人がコミュニティ・プログラムのなかにいると、精神科医療がおこなわれている病院にいるよりも、もっと多くのものを使うことができます。はるかにより多くの種類のものがあり、そしてより重要なのは、それらが家庭に近いということです。このことは、当事者にとっても(個人的な好みに合ったものを選べる)、行政にとっても(集中的でないケアを使うことで経費が安くすむ)、好ましいことです。


Q6−8
 「リカバリー」って何。「エンパワメント」って何? 「ストレングス」って何


◆ リカバリーについて
 リカバリーは人によってさまざまです。あなたが、グーグルで「精神保健 リカバリー」で検索して定義を読んでみられることをお勧めします。日本語の資料があると思います。
 私にとって、精神保健におけるリカバリーというのは、自分自身について学ぶこと、私は何者なのか、人生における私の目標は何なのかを知ること、そういったようなことです。
 私たちが若い時は、すべてのことが可能であるように見えますよね。精神保健の診断が人生の途中で転がり込んできたとき、私たちが夢見ていたすべてのことをできるわけではないのだということを私たちが理解するためには時間がかかる、というのは、本当です。でも、私にとって、それはありがたいことでした。そのことで、私は、私の強み(話すこと、書くこと、人を笑わせること、人びとと一緒にやっていくこと)を開発することに焦点をあてることができましたし、私の夢の一部(コンピューター・プログラマーとして働くこと、たくさんのお金を稼ぐこと、高校の同窓会で自慢すること)を手放すことができました。そういったことが明らかになると、私は、リカバリーへの私の道が、私が想像していたよりも、生活の質を高めることに気づきました。私は私の仕事を愛していますし、旅行をしますし、お金には満足しています。そして、仕事がもとで病気になった元コンピューター・プログラマーに、仕事を通して、関わっていました(実話)。

◆ エンパワメントについて

 再度、私は、コンピューターで日本語や英語で検索してみることをお勧めします。「当事者 エンパワメント」(consumer empowerment)や「セルフヘルプ エンパワメント」(self help empowerment)で検索するのがよいのではと思います。
 個人的には、エンパワメントとは情熱や正直さを持つことだと思いますが、自分が自分であるという自信を築くことを伴います。このことは、人が私的な関係のなかで言ったり思ったりしていることが、公の場でオープンに伝えられるべきであるということを意味します。それは、自分の精神保健の診断名について、人びとに5分間自己開示するということではありません。そうではなく、人は、かならず、「私の個人的な体験に基づけば・・・」といったことを話すことができるということです。


◆ ストレングスについて
 個人的なストレングスというのは、あなたが得意とする何かのことです。すべての人が、何らかの個人的なストレングスを持っています。重要な鍵は、自分の心の声に充分に耳を傾けることができ、それ〔=自分のストレングス〕が何であるのかを認識できることです。ときに、あなたの身近にいる人びとが、あなたがしていることを賞賛することがあるでしょう。そのことを書き出す時間を持ちましょう。あるいは、もっとよいのは、〔その人たちに〕それがどういう意味なのかをていねいに尋ねてみましょう。そのうち、パターンが見えてくるでしょう。そうしたら、さらに進んで計画を作って、あなたのストレングスを、自分の心の健康を向上するための基礎にしましょう。つねに、このような気づきは進行中の過程なのです。


 

○ 以下、質問ではありませんが、質問用紙に書かれたコメントです。


コメント1

 日本では、当事者によるホームヘルプサービスが公的サービス提供事業が行われています。しかし、その内容は生活援助や身体介護を行っておりピアサポーターとしての活動は具体的ではありません。ピアサポーターとしてのツールキットをぜひ開発していただき、日本におけるサービス事業提供にピアサポートが具体的活動になりますことを強く期待しています。


 ありがとうございます。私の理解ですが、日本の人びとは、ビジネス・モデルを大切にしているのではないかと思っています。この点については先の質問でふれました。私が思うに、もし当事者が(とくに、マーケティングやマネージメントのスキルを持っていて成功している起業家やビジネスの人たちとパートナーシップを組んでいる場合で)、自分たち自身のサービス提供団体を立ち上げる方法を身につけることができるのであれば、それはピア・サポートの「日本製」(made-in Japan)アプローチを提供する、よいやり方だと思います。当事者が、共感してくれる支援者やボランティア(家族や同じ考えを持った人びと)を得ることができれば、可能だと思います。
 私が強く忠告したいのは、みなさんが確実に法的な、そして著作権上の保護を受けるようにしないといけないということです。また、このようなモデルを始めるには、当事者のみなさんが、たとえ国内のさまざまな地域に住んでおられるとしても、パートナーシップを組んで、ともに活動をしないといけません(インターネットや電話を使って)。
 なぜこういったやり方がよいと思うのかについては、私なりの理由づけがあります。日本の保健ケア・システムにはお金がかかりすぎて、余裕がないからです。当事者が運営するサービス団体は次の3つのことをするでしょう。当事者を健康にし続けます。当事者が仕事を持ち続けられるようにします(よい納税者が生まれます)。そして、病院とコストを競い合うことができます。さらに私は、クライエントのための効果は、〔病院と〕同じくらいか、あるいは、よりよいものになると思います(たとえば、ピア・サポート・プログラムを求めて、病院のプログラムを去っていくクライエントがいます)。私は、みなさんが、こういったことを試みるための新しい資金を求めて、国あるいは都道府県レベルで証拠を示すことができると思います。もし、みなさんが、みなさんの助けになる海外のコンサルタントを必要とする場合は、私に連絡をください。


コメント2
 当事者は、日常生活がスムーズに行えない状況があったり、つらい時期が、つまりは療養期間が障害を持っていない人より、長いと思います。その為、人とのコミュニケーションといったことを学ぶ機会、意欲が〔なく〕、人間関係を築くのが上手いとは私を含めて言えないと思います。しょうとつが起こりやすく、どうすれば良いのか分からない時があります。(当事者より)


 こんにちは。あなたの状況が理解できます。私に提案できることは、メンタル・ヘルスへのリカバリーのアプローチを次のように理解することです。

・ あなた自身を病気の人だと考えてはいけません。あなたは診断名を持つ人です。

・ できるかぎり多くの時間、できるかぎりよい状態でいることに、焦点をあてましょう。

・ 気分がよいときは、誰か他の人たちを探し、あなたのコミュニケーション・スキル(技術)を使ってみましょう(独りぼっちでいることからくる社会的孤立が、うつ状態を続けさせます。)

・ あなたはコミュニケーションをしたいと感じるでしょう。なぜならば、あなたは、リカバリーの進め方を計画するときに、他の人たちと一緒にいること、そしてその人たちから学ぶこと(ピア・サポート)が、人を強くするのだということを、理解するからです。

・ 他の当事者とつながりあうことはよいことです。(学ばなければならないことです。)

・ コミュニケーションや他の人と一緒にやっていくやり方を学ぶには実際にやってみることが必要です。(やればやるほど、手が届き、できるようになります。)

・ 衝突が起こります ― すべての人を好きになることは不可能であること、あるいは、すべての人があなたを好きになることは不可能であることを思い出しましょう。あなたは選ぶことができます ― あなたが一緒にいたいと思う人びとを選びましょう。平均的な人は3人しか親しい友だちを持っていないと言われています。好みにはうるさい人になりましょう!


コメント3
 難しくて良く分からなかった(当事者)。何かを訴えようとしている情熱は感じました。


 ありがとうございます。私の語りのスタイルは情熱的です。なぜならば、私は、私自身の物語をわかちあいたいと思っていますし、人びとに刺激(インスピレーション)を与えたいと思っています。書かれたもののほうが静かで、よく理解できるかもしれません。また、今回の講演を録音し、コンピューターで聴けるようにしたものもあります。


コメント4
 「自立支援法は憲法違反だ」という当事者の告発に地方裁判所は、つい最近、政府及び厚生労働省は和解をすることにしました。2,3の地方で。(2010年3月中旬)毎日新聞
 これも政権が、自由民主党から民主党に移ったことも大きく作用しているようです。厚生労働省も談話として、障害者の意見を聞いていくと発言してました。ただし、そのコメントをした、官僚の名や肩書きは新聞には載っていませんでした。

コメント5
 日本では5,6年前に厚生労働省が急に障害者(身体、知的、精神)の作業所などの作業を、作業所を利用するので、サービスの利用料を払え(応益負担)という自立支援法が成立しました。大阪府の精神障害者については、はじめ3ヶ月位は、私の場合、1万円位の利用料を払いましたが、その後は、毎月の利用料の上限は、1500円で済むようになりました。が昨年の国会議員(衆議院)選挙で自由民主党政権から民主党政権になり、自立支援法は廃止する方向に進んでいて、厚生労働省も障害者の政策について、障害者の意見を聞く方法(ママ)に進んでいます。

(*) コメント4と5は同じ方が書かれたのだと判断しましたので、並べてチェンさんに伝えました。また、コメント4に関する、毎日新聞ウェッブ版の英語サイトの記事へのリンクも、チェンさんに紹介しました。


 最近のニュース、ありがとうございます。私は思うのですが、サービスに対して利用料を課すということは、障害を持つ人びとが社会の重荷であると言われているということです。これは古い考えです。理想を言えば、行政は、保健ケア・システムをより効果的、より効率的、そして、より柔軟に運営する方法を理解する際に、障害者のコミュニティというのは、他に類がないほどもってこいであるということを考えるべきです。なぜなら、その人たちは利用者(ユーザー)なのです。真実を語る人として、誰が、より信頼できるのでしょうか ― お金を求めてくるサービス提供者でしょうか、あるいは、サービスを受けている人びとでしょうか? 障害者の声に耳を傾けることはよいスタートです。それらの人びとが計画作り、計画の実行、サービスの供給、自分たちの手でサービスを評価することに関わることが重要ですが、そういったさまざまな事柄というのは、すべての種類(精神、身体)の当事者がおこなえるべきなのです。


コメント6
 ピアサポートツール、リカバリーのコンセプトは、専門家的ではと、今日、この頃思います。


 私は、ある点ではあなたに同意します。しかし、ピア・サポート・ツールやリカバリーが、自分たちのサービスを売り込もうとして、より「感じがいい」印象を与えようとする専門職者ではなく、当事者によって自分たちの手で進められる場合、あなたは「本物」を手に入れるのです。
 みなさんは、よい買い手のように、市場にある商品を注意深く勉強しないといけません。誰が作っているのだろう? どこから来たのだろう? 商品の質はどうだろう? 出所は確かだろうか? 他の客はどう言っているのだろう?
 同じことが、先のような言葉を発する組織や人びとにも、あてはまります。みなさんは、そういった言葉が本当は何を意味しているのかを注意深く吟味する必要があります。ときに、それは混じり物のない商品ですが、ときに、それは嘘の広告です。


コメント7
 現在うつで大変苦しい思いをしているが頼りになるのは医師のみでサポートされる事は全くない。なおらなければ何をしても同じではないかと思う。


 こんにちは。しんどい時期を体験されているというのがわかります。あなたが書かれた質問の様子から、おそらく、ご自身が精神保健の診断に対してとっているアプローチは、あなたにとって、満足のいくものではないのだろうと思います。
 まず言えるのは、誰かがあなたにラベル(うつ病の人)を与えているほど、あなたは病気ではありません。私の個人的な考えでは、あなたがどれだけ自分のアイデンティティを診断名に結びつけているのかが、あなたがどのように感じるのかに、直接つながっているのです。
 自分自身に対して、「私は状態のよい人であり、私の主治医からみれば私は困難な時期を体験しているということになる、それだけのことなのだ」と言うようにしましょう。そうすると、今はうつ病が自分に生じているけど、時がたつにつれてよくなり、変化するのだ、と認識する過程があなたに始まります。
 医師は、薬や話であなたを助けますが、リカバリーに関しては専門家ではありません。精神保健をめぐる医師の考え方というのは、一般的に、「一度患者になったら、つねに患者であり、それゆえ、つねに収入源である」というものです。よくなってリカバリーへの道を達成する考え方というのは、人を医療モデルから離してくれる、他のサービスやサポートを使うというものです。
 あなたは、サポートがないと言っておられます。私が言いたいのは、あなたは社会的な孤立から抜け出して、外に出て、それ〔=サポート〕を手に入れようとしたほうがよいということです。こういった時期にやる気を出すというのは困難かもしれません。しかし、本当に、そうするのにとてもよい時期なのです。あなたは、たくさんの時間を持っており、自分が何をしたいのか、自分が誰と一緒にいたいのかについて考える能力を持っており、そして、もっと重要なのは、あなたはひとりぼっちなのですから、あなた自身の心と語るのにとてもよい時間です。この静かな時間のなかで自分自身を理解することは、本当にありがたいことです。なぜなら、あなたは自分自身のケアをすることに集中できるのです。
 これらのことをすることによって、あなたはリカバリーの計画を創り出します。何をするのか、誰と会うのか、いつ出かけるのか。こういったことを書き出すこと、また、気づきが得られるように日記を続けることが、役に立ちます。
 私の最後のアドバイスは次の通りです。リカバリーの考えを仕事として扱うことが役に立つかもしれません。そのために、週のうちの何時間かを自分自身に与えてあげてください。あなたがしたいことについて、おおざっぱに(あなたには調子のよい日も悪い日もあることを、思い出してください)、計画を立てます。
 うまくいけば、いずれかの時点で、あなたは、ソーシャルワーカーのサービスを利用したり、他の仲間(ピア)と出会うでしょう。そして、そこからやっていきましょう ― 「あなたはひとりぼっちではありません」。