○ セミナー当日のホワイトボードについて


 セミナー当日、レイモンド・チェンさんは質疑応答の際にホワイトボードを使って回答をされました。以下、ホワイトボードの写真です。
 なお、レイモンドさんより、「Q&Aについてのさらに広げられた回答(expanded answers)」が送られてきました。ホワイトボードの説明をさらに詳しく解説したものです。かならずしも当日ホワイトボードに書かれたこと(写真)と一致しない部分もありますが、非常に参考になると考えましたので、チェンさんの了承を得て、写真とともに以下でお示しします。

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1.私の診断名について

 

 私が入院した最初の週、私に与えられた診断名は、統合失調症の一種でした。
 2週間後、それは、そううつ病(双極性障害)でした。
 現在、私は、精神保健の診断をめぐって実生活上の体験を重ねるようになって25年目ですが、何だっていいのです。

 なぜ、ピアからピアへのサポートがそんなに重要なのか?
 医師が当事者に診断名を与えるとき、それは、「彼ら」があなたについて言っていることなのです。
 2人の人たちがつながり、ピア・サポートをわかちあうとき  ―  それは、2人がお互いについて知り合うことです。私は、これが、とても意味ある理解なのだということを言いたいと思います。


2.日本を変えるにはどうすればよいのか



a) 怒る! (みなさんが実現させたい変化について情熱を持つ)
b) でも、礼儀正しく! (怒鳴り散らしたり、怒っている人たちは、意思決定をする人たちにうるさがられ、無視されます。)
c) 話すことはお金になりません。書く! (言葉をインターネットで容易にわかちあうことができますし、長く残ります。)
d) 政治家のように考える。計画を持つ。コミュニケーション・スキルを使う(電話をする、文章を書く、顔をつき合わせて話をする、会議に出席する)。ともに活動をしている人びと(当事者や支援者)が特に何が得意なのかを見つけ出し、その人たちの能力を開発する。その人たちも自信を持ち、幸せになるでしょう。


3.家族と当事者の間の違い



 家族と当事者の両者が、精神保健システムがもっとよいものになりうることを知っています。オンタリオ州では、精神保健の政策や意思決定の領域における家族の声は、思われるほどには、大きくありません。当事者のほうが大きな役割を担っています。
 家族と当事者は、両者とも、同じ願いを共有しています。クライエント/患者/当事者(コンシューマー/サバイバー)のための最高の健康です。しかしながら、一般的に、家族はリスクを求めません。その人たちは、リカバリーの試行錯誤的(トライ・アンド・エラー)方法は、非常にストレスの大きいものだと思っています。一方で、精神保健当事者は、本能的に知っています。自分たちがリカバリーの道を歩もうとするときに、ものごとを違ったふうにおこなうための新しい方法を探究しなければならないことを。(一般的に、)家族と当事者とでは、ある人がリカバリーに挑戦するのを可能にする、変化の度合いについて、考えを異にするでしょう。たとえば、家族は、愛する人〔=当事者〕が再び仕事をおこなうことについて消極的でしょう。


4.パートナーシップのよい点と悪い点


よい点:パートナーシップにおけるすべてのグループがパワーを共有することができます(一般的に、それらのグループは対等だと考えられています)。
悪い点:実際には、ある一定のパートナーが支配的で、他のグループはそこまでいきません。
よい点:人びとや資源を効果的に使うことができます。
悪い点:ときに、小さいグループは、自分たちに割りあてられた仕事をこなすのがとても大変です。
よい点:「数の強み」
悪い点:「大勢のなかの一つ」
よい点:明確で強い「一つの声」
悪い点:すべての者が合意するためには妥協がなされなければなりません。
よい点:連合組織は単独のグループよりも強いので、行政は耳を傾けるでしょう。
悪い点:同じことを何度も言い続けるパートナーシップを、行政はやがて無視するようになるでしょう。(イソップの「狼少年」)
 もう一つの問題は、ある団体が複数のさまざまな連合組織に参加する場合に生じます。参加する連合組織は少なくして、自分たちの戦略的な価値から、参加先を選ぶべきです。連合組織に参加する際に、単にある団体と友好的だからというのは、よい理由ではありません。


5.個人的(パーソナル)なリカバリーの責任を負う



 考えないといけない3つのこと
a) あなたの健康
b) あなたの家族
c) あなたのお金(あるいは仕事)
 これらのことがらの順序が非常に大切です。あなたが順番を変えているとき、あなたは具合が悪くなる危険を冒しています(あるいは、リカバリーから遠ざかっています)。
 たとえば、あなたはあなた自身に耳を傾けるのを止め、あなたの家族が求めるところのあなたになっています。その人たちは、あなた個人の強みや弱みを知りません。もし、あなたがリカバリーの道を歩んでいるのであれば、あなたは深い自己洞察をするでしょう。家族を敬うのは大切ですが、あなた自身の人生の責任を負うことのほうがもっと大切です。
 たとえば、あなたは、充分なお金を持っておらず、とても心配です。あるいは、あなたは、もっとお金をもらえる仕事を得ようとしていますが、その仕事は大きなストレスを生み出すものです。あなたは、また、具合が悪くなります。あなたは、仕事を失います。そして、具合が悪くなるとお金がかかりますので、以前よりも、持っているお金が少なくなります。
 おぼえておきましょう。あなたの健康(感情・情緒的、身体的)が第一です。すべて他のことは重要ではありません。


6.「実生活での体験」(lived experience)とは



a) それは、「体験をした」という意味です。精神保健の診断とともに生きたという体験です。
b) まず、個人が気づきます。そして、次に、ピア・サポートを通して他の人びとと知恵をわかちあいます。過去の間違いを繰り返さないように学びます。
c) 体験から得たことを、他の当事者や仲間(ピア)だけではなく、専門職者や家族にも分けてあげたり、伝えてあげたりしましょう。
 「実生活での体験」を、
当事者が持てば、ピア・サポーター/ピア・サポート・ワーカーになり、
政府が持てば、政策立案者になり、
科学者が持てば、地域に基盤を置く調査研究者になります。
これらはすべて「仕事」であり、本物のお金を提供してくれます。


7.どのようにして、専門職者は、当事者がリカバリーするのを可能にするのか



 語りに耳を傾けることです。注意深く。
「人びとは、耳を傾けずに、聞いている」 ― ポール・サイモン(サイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」)


8.大阪セルフヘルプ支援センターの電話番号



 06−6352−0430


9.ぼちぼちクラブの電話番号


 06−6973−1287(14:00〜17:00)


10.「文化」というのはどういう意味なのか



 トロントでは、140の言語が話されています。
 グレイター・トロント・エリア(*)では、中国語が2番目によく使われている言語です。
(*) 訳注:トロント市に周辺の地域を合わせたエリア。


11.日本について好きなところとそうでないところ



a) 日本人は礼儀正しいと思います。「でも、」礼儀正しすぎる社会というのは、変化しません。リカバリーは礼儀正しくありません。個人的(パーソナル)なリカバリーというのは社会の規範を変えることです。個人的なリカバリーは、ときに、乱雑なものです。
b) 日本人は敬意を払います。「でも、」敬意を払いすぎる社会というのは、なぜということを問うことなく服従してしまいます。だから、どんな文化でも、医師に敬意を払う文化は、当事者がリカバリーについての専門家になりうるのだと考えるのを難しくしてしまうのです。
c) 日本は非常に秩序だった国です。私は、とくに、列車が時刻通りに運行されていることには感謝しています。「でも、」そのために、その文化は、すべてのものごとを整然とさせるものになっています。先に話したように、リカバリーは乱雑なものになる可能性がありますし、「既成概念にとらわれない」考えを含む可能性があるのです。