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佐々木のエッセイ"英語の泣き笑い"1
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英語にもある「おかげさま」

交渉は相手の利点考えて


海外ビジネス、日米経済の今後の展望(1)
 ご愛読いただいている本欄の執筆も、今回を含めてあと三回です。連載中にいただいた質問、依頼に答え、以下三回にわたり所見を述べさせていただきます。連載では対外交渉に役立つ英語と銘打ってありましたので、読者の中で、あるいは交渉時の「英語の殺し文句」を期待された方々もいらっしゃったかと思いますので、交渉成功の秘訣から始めます。

<交渉成功の秘訣は利害の一致>
 交渉成功の秘訣は英語にあるのではなく、双方の利害の一致がどれだけあるかです。軍事力による恫喝(どうかつ)、詐欺のような不正・犯罪行為を除けば、交渉の秘訣はやはりどこまでいっても相手にどれだけのメリットがあるかにかかっています。さらに言えば、相手にもたらされる利点を元に、どれだけ自らの利益を確保できるかにかかっています。
 このため、重要なのは相手の立場で考えることです。これは、国内の事業についてみなさんが進めてこられたことと変わらないはずです。第21回の事例で取り上げた宇田氏のように、その実務に携わっている専門知識のある人が交渉の携われば、結論を早く引き出せ、説得力があって有利な結果が引き出せるはずです。もちろん、戦略眼がなければなりませんが.......。
 この点、米国企業は大概の国際間ビジネス交渉において、特に日本人とは英語で進めるため、交渉状況を現業部門が同時並行的に理解でき、屋上屋を重ねることもなく、関係部署との社内調整も少なくて済み、迅速かつ少人数で処理できる有利な立場にあります。これは、どの言語を使い、どちらの商習慣を前提にビジネスを進めているかに伴って生まれる相違です。「日米企業の違いに基ずく」ことではなく、日米の相違を言っても無意味です。

<正しい相互理解は可能か>
 正しくお互いを理解することが、「最善の結果をもたらす」ことは一見当然のようですが、なかなか出来ることではありません。本当に、世の中に「正しい理解」といったことがあるのかと疑問に思う事態もしばしばです。考えて見ると「最善の結果をもたらす」ことをもって、「正しい理解」と言っているに過ぎないことが実状です。
 ですから客観的、中立的な評論が困難な場合、私のこれまでの経験で言えば、「相手に飲まれるよりも相手を飲んでかかる」方が賢明であると、日本の関係者には助言しています。相手の過大評価も過小評価も間違いですが、日本人は一般論で言えば、欧米については若干過大評価が過ぎ、いまだに交渉上、損をしている事例が多すぎると思うからです。自己の力を過大評価しすぎるのはばかですが、過小評価は能力を殺してしまいます。ただし、「口先の強がりは弱気の虫、劣等感の裏返し」ですから気をつけて下さい。

<有利な交渉術>
 有利な交渉を進めるには、相手にどれだけの利点があるのかをつかむことです。自分たちの利点のみを考えていると、相手の思惑に振り回されます。相手にとっての利点をつかむことは相手側の立場を理解し、保証することになり、長期的信頼関係の維持につながります。
 このように考えると、日本の昔から代々続く商家の言い伝え、遺言に、実に類似した結論になります。すなわち「商いの利益は、自らの利益を追い求めることのよって生まれるのでない。激しい努力、競争を通じた社会貢献によって生まれる。"真の貢献"にはその貢献を継続的に必要とする人々が"対価"を支払ってくれる。その社会に対する感謝の気持ちを忘れるな」が旧家の教訓だと思います。

<おかげさま....... I owe you.>
 もっとも日本人は、「おかげさま」という表現や、気持ちをもった人に出会うことが少なくなったと、ある古老が嘆いていておられました。ところが英語では今でもこの表現をよく目にします。「 I owe you. 」です。
 この表現は借金の証文にも使われ、「 I owe him 100 dollars.」は「私が彼に100ドルの借金をしている」と言う意味です。この発音から生まれた「IOU」は、名詞で「借用証書」を意味します。シカゴ時代によく聞かされた表現に「Green backs are simply IOUs of the U.S.」があり「米国ドル紙幣は単なる米国政府の借金の証文に過ぎない」と言う意味です。
 この表現の後に「Then,why should we bother our trade deficits?」と付くと、まさに「米国紙幣は米国政府の借用証書に過ぎないのに、何で貿易収支の赤字をいちいち気にしなければならないの?」と言う意味になります。
 最後に、米国ドルは基軸通貨であり、ほとんどの取引がドル建てでなされているため、米国がいくらドル建て債務を増やしても、ドル紙幣を増刷してドルの貨幣価値を下げれば、米国の借金は帳消しになることは自明に理ですから、今後、この点に日本はいっそう留意すべきであるこことを付記いたします。