電源配線の強化

更新日 更新内容
1999年12月03日 1.電源配線
1999年12月03日 2.失敗
1999年12月03日 3.電源から電源分岐端子台までの配線強化!
1999年12月23日 4.更なる配線強化、コンデンサ追加




1. 電源配線 1999/12/03

 電源線(いわゆるパワーライン)で注意する事は、電線の許容電流を超えない事、電圧降下を考慮した太さの電線を用いる事です。マシンの合計消費電力以上に供給できる電源が必要な事は当然ですが、マザーや機器に安定した電源供給が出来ない様ではだめです。ここ最近、省電力化の言葉とは逆に、消費電力の増加が目立っています。特にビデオカードは大幅に増加傾向です。その他CPU高速化、HDD回転数高速化など、個々の省電力化以上のスペックアップによる消費電力は増加する一方です。その結果、電源線の容量に関してはより厳しい状態になってきています。今回、自作ATX電源の配線見直し、対策を行い、より安定した電源を供給できる様にします。尚、このコンテンツでは電線と限定せず、レギュレーション改善目的のコンデンサ追加等、各機器へ供給する電源をトータル的に安定化する目的で取り組む予定です。

 また、最終的には市販ATX電源の電源線(マザー接続用ATXコネクタ、周辺機器用4Pコネクタ)の電線及びコネクタ電流容量に関する規格の調査、考察、そしてどの程度の電圧降下が発生しているかの測定、対策、今後のATX電源に求める要望事項等まで踏み込んだ内容に仕上げたいと考えています。

 本コンテンツは、後述の「Turbo Controller」不具合の際、「廃人の庵」のヒロ坊さんにいただいたアドバイス、ヒントを基に作成しました。ありがとうございます。




2. 失敗 1999/12/03

 ヒロ坊さん設計の「Turbo Controller」を導入して、「グリグリ」遊んでいるときに液晶表示器のバックライトが「ちらちら」する事を確認。むむ!接触不良か?半田付け不良か? バックライトの端子に直接電源を供給(本来はコネクタ接続です)しても解決しません。調査の結果、電源系統が怪しそうです。電源容量不足、電源のレギュレーションが悪い、電源故障が一般的に考えられますが、調査中にとんでもない事に気付いてしまいました。私は市販ATX電源ではなく、スイッチング電源の組み合わせでATX電源を構成していますが、このスイッチング電源とケース内に設置した電源分岐端子台間を公称断面積2平方ミリメートルの電線で接続しているのですが、電線の抵抗による電圧降下が原因の様です。

 本来ならば、デジタルオシロ等で電圧変動のピークを探りたい所ですが、急を要した為測定しておりません。とりあえず簡易的にデジタルテスタで測定した所、5V電源配線で最大80mVの電圧降下が測定されました。デジタル回路ですので、瞬間的にはかなりの電圧降下が発生していると考えられます。特に、最近のマザーボードは5V電源より3.3V電源やCPUコア電源を作っているので、5V電源の消費電力が多く、導体抵抗が無視できない状態となっているようです。

 私の場合、ATX電源を自作してケース外に設置している都合上、電源の出力端子台からマザーやHDD等の機器までの配線長が、市販ATX電源を用いた場合よりかなり長くなります。配線が長くなる分、電圧降下を考えて配線材料を選定しなくてはいけないのですが、単純に電線の許容電流だけで選定した私のミスです。(^_^;)

電線の比較
電線名称 サイズ 仕上り外径 PC内での用途 許容電流
(A)
導体抵抗
(オーム/km)
CSA TR-64/UL1007
耐熱ビニル電線
18AWG 2.2mm 市販ATX電源の2次側配線に使われています 13 21.6
KIV (JIS C 3316)
機器用ビニル電線
2平方ミリメートル 3.4mm 自作電源
電源から端子台までの配線に使用
27 9.50

 18AWGサイズの電線は比較用として記載しました。配線長を0.5m、20Aの電流を流した場合と仮定すると、公称断面積2平方ミリメートルの電線では約0.1Vもの電圧降下が発生します。僅か0.1Vと言われる方もいるとは思いますが、5V電源の許容変動範囲が+-5%、つまり+-0.25Vである事を考えれば、無視できる値ではない事を理解いただけると思います。




3. 電源から電源分岐端子台までの配線強化 1999/12/03

 さあ!、原因が分かりましたので、電圧降下の原因となっている電線の導体抵抗の問題を解決しましょう。解決には下記方法が考えられます。

解決方法 優先
順位
採用
可否
採用可否の理由
電線を太い物(導体抵抗の低い物)
 に交換する。
1 NG 配線の引き回しが大変。(太くて硬いので曲がらない)
電源分岐端子台のサイズに入らない。
配線距離を短くする。
 
2 NG 電源をケース外に設置している都合上、無理。
 
複数本の電線で並列配線し
 導体抵抗を低くする。
3 OK 簡単に施工できる。
 

 注記1)やす坊マシンでの採用可否です。

 複数本の電線で並列配線する方法は、本当は正しい選択ではありません。今回は、バランスが崩れても電線の許容電流を越えない事、導体抵抗を下げる事が目的である事、施工が簡単に出来る事で採用しました。本来は電線を太くするのが原則です。


1.電源端子台部分
 +出力、-出力の配線に公称断面積2平方ミリメートルの電線を各3本並列で使用しました。+3.3V、+5V、+12V電源に対して実施しましたので、18本もあります。
写真では分かりにくいですが、電線の束となって、結構迫力があります。
  


2.ケース内、電源分岐端子台部分
 端子台容量は15Aです。電源からの配線、各機器への配線を集約、中継します。同電圧の端子台同士は専用のショートピースで接続してあります。
  


3.効果の検証、考察
 配線補強を終え、マシンを起動。液晶表示器のバックライトが「ちらちら」する不具合は見事解決しました。目視だけでは効果が不明確ですので、効果を数値で確認します。確認方法は、不具合状況確認と同方法のデジタルテスタでの測定とします。

  改善前 改善後 備考
 電圧降下測定値   最大80mV   最大24mV  5V電源端子台から分岐端子台までの配線抵抗による電圧降下  

 電線を3本並列配線した事により、導体抵抗を1/3に減らす事ができました。その結果、電圧降下を当初の1/3とする事が出来ました。複数本の電線を並列配線する方法で電圧降下を押さえる事が可能であると実証できました。

 パワーラインにおける、電線種類選定の重要さが身にしみた結果です。単に許容電流だけで選定するのではなく、配線距離を考慮し、導体抵抗による電圧降下を意識して選定する必要があります。今後、より高速なCPUやより高性能なビデオカード等を搭載する事を考えれば、今回の配線強化だけでは容量不足が想定されます。大容量コンデンサの追加や電源容量自体の見直し、電源の並列運転等を考える必要があるかもしれません。


4.最後に
 前にも書きましたが、複数本の電線で並列配線する方法は、本当は正しい選択ではありません。この記事をご覧の皆様で電源の自作、又は配線強化等を考えられている方は、電線を太い物と交換する事が基本だ!と覚えてください。私と同様の理由で複数本の並列配線を行う場合は、電線の長さを揃えてバランスを取る、電線1本に電流が集中しても不具合の発生しない太さの電線を使う等、注意してください。
 また、市販ATX電源の品質の悪さから自作電源に取り組みましたが、まだまだ未熟者でした。今後も皆様のご指導、よろしくお願い申し上げます。




4. 更なる配線強化、及びコンデンサ設置 1999/12/23

 さて、とりあえず問題は解決しましたが...。 「電線を太い物と交換する事が基本だ!」と言ってしまった以上、やるしかないでしょう!
今回は前回よりも1サイズ太い公称断面積3.5平方ミリメートルの電線を使用します。本来は公称断面積5.5又は8平方ミリメートルの電線を使いたい所ですが、後述するコンデンサとの接続や、圧着端子サイズと端子台サイズの問題から3.5平方ミリメートルを採用します。以下に市販ATX電源の電線、前回採用した電線、今回採用した電線の比較を示します。

電線の比較
電線名称 サイズ 仕上り外径 PC内での用途 許容電流
(A)
導体抵抗
(オーム/km)
CSA TR-64/UL1007
耐熱ビニル電線
18AWG 2.2mm 市販ATX電源の2次側配線に使われています 13 21.6
KIV (JIS C 3316)
機器用ビニル電線
2平方ミリメートル 3.4mm 自作電源
電源から端子台までの配線に使用
27 9.50
3.5平方ミリメートル 4.1mm 今回の配線強化に使用 37 5.09

 電圧降下を押さえる目的として前回同様、複数本を並列配線する方法も併用します。電線の導体抵抗が低いので、前回より本数を減らす事が可能です。今回は3.3V、12Vに関しては2本並列、負荷の重い5Vは3本並列とします。前回と電圧降下を比較してみましょう。太い電線を使う効果が大きい事を理解いただけると思います。

電線名称 サイズ 並列接続本数 導体抵抗
(オーム/km)
 電圧降下 
(注記1)
備考
KIV (JIS C 3316)
機器用ビニル電線
2平方ミリメートル 1本 9.50 95.0mV 初期(問題発生時)
2平方ミリメートル 3本 3.17 33.2mV 前回の改造
 3.5平方ミリメートル  2本 2.55 25.5mV 今回 3.3V、12Vライン 
3本 1.70 17.0mV 今回 5Vライン

 注記1)電圧降下は、配線長L=0.5m、電流I=20Aと仮定した場合の値です。

 今回は、電線による配線強化だけではなく、電解コンデンサ追加によるレギュレーション改善も行う事にします。
何故電解コンデンサを追加すると良いのか?、簡単に説明します。一般的に、デジタル回路の場合はクロックに同期して瞬時的な負荷電流が流れます。これはMOS構造素子の特性ですが、出力が反転するタイミング(一般的にクロックに同期)にて一瞬、大電流が流れます。一瞬ではありますが、この大電流を電源から安定して供給する必要がある訳です。しかし、電源自体に瞬時的な負荷変動にも安定して電圧を供給する事を求めるには限界があります。では、どうするか。電源以外に一時的にエネルギーを供給する物があれば良いのです。これがコンデンサの役割です。コンデンサはダムの様な物で、通常時に電気をためておき、必要とされた時に供給する役目があります。

 当然の事ですが、ダムの機能を十分に活用する為には、耐圧、容量、等価直列抵抗(ESR)、許容リップル電流等を目的に合わせて選定する必要があります。
・耐圧:ある程度余裕を持ちたいのですが、はっきり言ってコストとの兼ね合いです。
・容量:色々な意見があるでしょうが、私の場合1A当たり2200MF程度と考えています。
・等価直列抵抗(ESR)、許容リップル電流 難しい世界の言葉です(爆!) 私もよく分かりません。(^_^;)


 今回使用したアルミ電解コンデンサです。
BHC Aerovox社製 3.3V、12Vラインに各1個、負荷の重い5Vラインには2個使用します。

  
項目 仕様
容量 47000MF 16V 許容差+-20%
使用温度範囲 -40〜+85℃
絶縁電圧 1000VDC
耐久試験 5000h (85℃、定格電圧、定格リップル電流)
漏れ電流 0.006CV 又は10mA
端子 M5ネジ
等価直列抵抗(ESR) 15ミリオーム (20℃)
インピーダンス 14ミリオーム (20℃、10kHz)
許容リップル電流 9.6Aat100Hz、10.4Aat10kHz (85℃)



1.電源端子台部分
 +出力、-出力の配線に公称断面積3.5平方ミリメートルの電線を3.3V、12Vラインには2本並列、5Vラインには3本並列で使用しました。
合計で14本もあります。(本数より、電線が太い為に扱いにくいです)
太い線が出力線です。黄色の電線はAC100V、黄緑はアース線。細い線はセンス信号線です。
  

 上が標準的なATX電源に使用されている電線です。下が今回使用する公称断面積3.5平方ミリメートルの電線です。太い!の一言ですね。
  


2.ケース内、コンデンサ、電源分岐端子台部分
 前回よりも、電線の本数としては減っているのですが、すごい事になっています。
5インチベイの取付穴とケースの通気穴を利用してステーを取付、電解コンデンサを固定します。電解コンデンサの端子がネジなので、配線に圧着端子を利用出来、比較的太い電線でも簡単に配線する事が出来ます。この様な配線の場合、端子サイズを大きくして複数本の電線をまとめて圧着処理する事により、綺麗に仕上げる事が出来ます。
  


3.効果の検証、考察
 電線を交換する事の意味、効果は前回報告済みですので今回は省略します。(当然の事ながら、前回よりも改善されています)
コンデンサ追加によるレギュレーション改善ですが、これを体感することは無理でしょう。検証する為にはシンクロ等で電圧変動幅(リップル、リップルノイズ)を測定する事で可能と思いますが、測定方法によっては無意味なデータとなる可能性があります。測定による効果の検証は今後の課題とします。