ヘンリーズ・フォーク.リバー

 「モンタナ」「イエローストーン」「ヘンリーズ・フォーク・リバー」「マジソン・リバー」憧れの地であり、口にするだけで胸が踊ります。
成田よりポートランド、ソルトレイクと2回の乗り換えをし、イエローストーン国立公園の玄関であるボーズマンに着き、そこから車で2時間30分のドライブでヘンリーズ・フォークの流れに着きます。
約20時間の旅。
ボーズマン空港では、フライロッドを抱えた老若男女が行き来しています。フライフィッシングの聖地といった感じがして、いやがおうでも気分が盛り上がってきます。
空はぬける様な、スカッとした、キリリッとした、やけに高い空が広がります。この地は“ビッグスカイ”と言われているのですが、ピッタリ、ビッグスカイなのです。この地にいる間になんど「ビッグスカ〜イ」とさけんだことでしょうか。ちなみにモンタナ州のヘンリーズ・フォーク・リバーと単純に思っていたのですが、ヘンリーズフォークはアイダホ州でした。イエローストーン国立公園はモンタナ、アイダホ、ワイオミングといった州にまたがる、広大な世界で最初の国立公園なのです。
ボーズマン空港でフォード・トーラスのキーをレンタカー会社の美人受け付け嬢よりもらい、いざヘンエイーズフォークの流れに向かいます。イエローストーンの旅の始まりです。
まずはロッジによります。名前は「ラスト・チャンス・ロッジ」です。このラスト・チャンスという地名は、かつてイエローストーンを目指す開拓者たちの“最後の物資補給基地”からきたそうです。すごいひびきの名前です。ですが釣り人にピッタリではありませんか、この名も何度か「ラスト・チャ〜ンス」と叫んでしまいました。見るものすべてがアメリカってな感じがします。テレビや映画でみているアメリカそのものが目の前に広がります。なんでもかんでもやけにまぶしく見えてしまいます。ロッジにいた犬でさえやけにかっこよく見えます。ピックアップ・トラック、バイク、カヌー、なにからなにまでカッコよく見えます。
日本ではなんともおもってなかったアメリカが大きな存在となってせまってきます。もうコンプレックスまるだし状態で小さくなってしまいます。
そして翌日、ヘンリーズ・フォーク・リバーの名人マイク・ローソンがやっている、ヘンリーズフォーク・アングラーズによってライセンスを買い川に向かいます。
ベストのフライボックスには、本や、ビデオを見て巻いたフライがたっぷりに入っていて出番を待ちます。
川底には水草が揺れ、美しい流れが広がります。そこかしこにライズリングが見え釣り人を誘惑します。
「これこれこれだよ〜」と口にします。そしてCDCを使ったフライを選びライズリングのめがけキャストします。日本でも何度もしたことです。しかし、空しく何ごともなく通過してしまいます。
「どうしたの」と軽くいいます。
この「どうしたの」はほんの序章で、この後「ウッソー」「ナンデ」「そんなバカな」の合唱が何百何千回と繰り広げられるのでした。
大きなレインボートラウトが口をあけ、ペール・モーニング・ダンを食べます。雑誌などでPMDと紹介されているあれです。背中をだし、そして尾ヒレをヒラヒラさせながら没していきます。
もうたまらない光景です。フライフィッシャーにとって美しいシーンです。
けれど空しくフライが通過してしまいます。フライフィッシャー残酷物語です。
生まれて始めて市販のフライを何十と購入してしまいました。どれもヘンリーズ・フォークの為に作られた美しいフライ達です。使い方のタイミングも分からないこともあって、どれも戦力になりません。もう私にどうしろというのでしょうか。
藻があって、少々よれてはいる流れなのですが、けっして難しい流れではありません、魚にも数メートルのところまで接近できます。
リーチ、メンディング、フィッリピング、いろいろなことをしてフライをナチュラルに魚の口まで運びますが、いっこうに返事がありません。たまに返事があるといったら子供です。子供といっても25センチほどで、日本ではいいサイズなのですが、ここでは話しになりません。いい子でオウチに帰りなさいといった感じなのです。
私の求めているのは、青い目のグラマラスなナイスなボデイーのレインボーさんなのです。
もう嫌われ続け、無視され続けました。いくら人生長く生き、少々のことでは傷つかなくなった私とはいえ、
そうまで嫌わなくてもと、涙ながらにいいたくなります。
「釣りってなんだろう」「人生ってなんだろう」釣り自体とは違った回路が動きだしてしまいました。
困った川です。単純に釣りを楽しむ川ではないようです。
ヘンリーズ・フォークの流れに、なぜ幾多のフィッシャーマンの心が囚われたのかが、わかるような気もします。
悲しくキッズレインボーと遊んでいた私なのですが、ヘンリーズ・フォーク4日目になってやっとナイスなレインボーさんにタッチすることができました。ネットに入った瞬間、震えがきました。本で見て憧れていたレインボートラウトそのものでした。ヘンリーズ・フォークに少しだけ触れたような気持ちになりました。
 フライをとっかえひっかえした結果です。それまで見向きもしなかった魚が、ノーハックル・サイド・ワインダーに換えた瞬間、ゆっくり口を開けました。
ノーハックル・サイド・ワインダーはイエローストーンの川で生まれたフライです。
ヘンリーズ・フォークと共に、マッチ・ザ・ハッチに触れた気になりました。 
イエローストーンに流れる幾つかの川はフライフィッシング・オンリーでキャッチ&リリースが守られています。そしてそこでは魚が美しく大きく育っていました。そして河原にごみ一つ落ちてはいませんでした。
日本の川が可愛そうになりました。川は、コンクリートで固められ、河原にはごみが捨てられ、誰にも相手にされない流れが増えています。国の違い、文化の違いでは、すまされない大きな問題を改めて感じてしまいました。いろんな流れをみることで、釣りを含め、自分や文化といったことをあらためて見直すことができました。
そういった意味でもヘンリーズ・フォークは素晴しい川でした。ただできることならもうすこし簡単に釣れることができたなら、もっともっと素晴しいと思えたのに・・・・。

アメリカの釣りの写真