NOVEL

可 菜 と 八 郎 の バ レ ン タ イ ン (前編)

 

ん〜、まぁ、『あるところに』とでもしておこう。三島可菜とゆ〜女の子と、西賀八郎とゆ〜男の子がいたんだな。
んで、二人の家は隣同士で、ずっと昔から『友達』だった。…つまり、幼なじみってやつですな。
更に御都合の良い事には、二人は同じ高校に通っててクラスも一緒。

「零郎ぉ、おめぇ、それはあまりにも陳腐な設定でないか?」
「え〜やないか、別に。」
「大体、ネーミングにセンスが無いぞ。『可菜』と『八郎』で『悲八』…って最近のPJ読者は悲しみの8KBなんて知らねぇだろ〜し。」
「う…。」

 零郎は返す言葉を失った。

「…そんで、やがて『友達』からそれ以上の関係に発展していく、ってんだろ?」
「…。」
「言っとくがな、俺と可菜に限ってそんな事は絶対にないからな。」
「何で?可菜ちゃんかわい〜やないか。」
「どこが?…そりゃ、おめぇの趣味には合ってるかも知れんが、俺はもっとおしとやかで、優しくて…」
「分かった。んぢゃ、そぉゆぅ女も用意しとこう。2年B組の東原さんだ。」
「分かりゃいいんだ。」
「でも、おまえは可菜ちゃんと…」
「しつこい!!」

 近頃、2年B組に、東原松恵をたずねてくる女生徒がいたりする。

「ま〜〜っちゃん。」
「あ、三島さん。」

 三島さん、つまりこの娘が三島可菜ちゃんだな。

「今日さ、バレンタインのチョコ買いに行くんだけど一緒に行かない?」
「…御免なさい、今日ピアノのレッスンがあるの。」
「ちっ、残念。まっちゃんと行きたかったのになぁ。」
「ごめんね。」
「ん、いいよいいよ。気にしないで。」

 ピアノのレッスン、なんていかにもお嬢様って感があるよな。…事実、東原松恵ん家は結構お金持ちだったりするけど、当人はそれを鼻にかけたりしない。
んで、『おしとやか』で『優しくて』…。

「あ、きたきた。おい、八郎!ちょっとつきあえ!!」
 八郎は、校門で待ち構えてた三島可菜に捕まりやがった。
「何だ可菜か。俺は今日は…」
「てめぇの都合なんざ知るか。こんな愛狂しい少女に呼ばれてるんだ、喜んで御供しろ!」
「愛狂しいってゆ〜より、むさくる…」

 言い終わらないうちに、可菜の膝蹴りが八郎の腹に入った。

「うぐっ。」
「つべこべ言うな。黙って来い!」

 こんな狂暴な女のどこがいいんだろう? アソコとか…(^^;。

 八郎は、零郎の趣味に疑問を感じ始めていた。
…んで、可菜ちゃんが八郎を引っ張ってったのは、とあるショッピングセンターの1階にある食料品売り場。
 時期が時期だけに、バレンタインチョコのコーナーなんかがあったりして、真っ赤な台に積まれた真っ赤な包装のチョコレート。赤だらけ。
 赤だらけのコーナーに群がる少女達の黄色い声。
…可菜と八郎は、そんな連中の脇を素通りし、お菓子コーナーへ足を運ぶ。

「何を買いにきたんだ?」
「チョコレート。」
「んじゃ、さっきのトコで買えばいぃじゃねぇか。」
「ふっ…、所詮は義理チョコ。駄菓子で充分。」
「…割り切ってるなぁ。」
「えぇと、零郎はMeltyKissがいいとか言ってたな。ボケの黒地にゃ、チロルで充分、と。森川迅はポッキーで、相川勇也にゃ…」
「リレー小説A,Bシリーズ、なんて覚えてる人いるかな?」
「何か言った?」
「いや…。」

「…こんなトコかな。はい、八郎持ってね。」

 と言って可菜ちゃんが手渡したのは2つの買物カゴにいっぱいのチョコレート。

「おい!何でこんなに…」
「なんかねぇ、あたしって頼まれると断れない性格なのよ。んでモテるしさ、周りがくれくれってうるさいの。」
「食い意地の張った連中だな。」
「じゃ、お願いね。あたしは別に買う物があるから待ってて。」

んでもって帰り道。ちっちゃなビニール袋を下げてすたすた歩く可菜ちゃんの後ろを、大きなビニール袋を2つ下げた八郎がついて歩く。

「可菜、おまえ最近B組の東原さんと仲いいんだな。」
「ん、まぁ、ね。」
「…俺が東原さんにチョコくれって言ったら、くれるかな?」
「ほぉう、八郎はまっちゃんの事スキなんだぁ。」
「本人に言うなよ。」
「…無理なんじゃない?。あの子は、あんたなんか相手にしないよ。」
「う…。んじゃさ、おまえから頼んでくれない?」

…可菜ちゃんの表情が少し険しくなった。

「やだよ。無駄な事はしない主義なんだ。」
「…おまえな、もう少し人の気持ちって物を考えて、物にも言い様って物が…」
「やなこった。」
「いや、真剣な話。…そういつまでも自分勝手に生きてると、それこそ嫁の貰い手も…」
「…貰い手が無いなら、こっちが貰えばいい。」
「?」
「どっか外国では、男同士、女同士でも結婚出来るそうじゃないか。」
「おまえ…、マジで言ってんの?」
「あたしは、それでもいいな。かぁいい女の子誘惑して、かけおち同然に高飛びして、そして…」

…だんだん、話がアブノーマルな方向に進んできたな。
 何とかしろ、八郎。

「ところで、何買ったんだ?」
「手作りチョコの材料。」
「へ?」
「…雑魚どもには、買ってきた駄菓子を。そして愛するあの人には、思いを込めた手作りの…」
「…ぷっ」

 パァン!!
 思わず吹き出した八郎の頬が、平手打ちの音とともに赤く染まった。

「いってぇ…」
「ふん。」

 その後も、二人は家につくまでなんかしゃべってたみたいだけど…
 ま、どぅでもいいか。(後編に続く。)

 

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