blueball.gif (1613 バイト) 封神演義特集  blueball.gif (1613 バイト)


『封神演義』の訳本・ガイドブック・コミックの解説です。
私が未読の物については、各項目の下にタイトルと著者・出版社のみを挙げておきました。


訳本

封神演義
安能務 訳・講談社文庫・全三巻

封神』ブームの火付け役であり、今では『封神演義』のスタンダードな訳本ということになっている。しかし元のストーリーや設定にかなりの脚色を施しており、原書の純粋な翻訳ではない。(申公豹の設定がその分かりやすい例である。彼は原書では根性の曲がった悪役として描かれているが、「安能設定」では、雷公鞭という強力な武器を持つ陰のヒーローということになっている。)古典の翻訳というよりも、むしろ安能氏が『封神演義』のストーリーと設定を現代人に受けるようにアレンジして作り上げた作品と見る方が適切であろう。そういうわけで、単純に物語としては他の訳本に比べてダントツに面白く読めるようになっている。
しかしこの脚色部分、すなわち「安能設定」こそが本来の『封神演義』の設定であると読者に誤解させるという弊害を生み出した。また主役級のキャラクターであるna.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)を「なたく」、楊sen.gif (125 バイト)を「ようぜん」と読ませるなど、ルビの打ち間違いも多い。(本当はそれぞれ「なた」、「ようせん」と読む。)

完訳 封神演義           
矢野真弓、川合章子 訳・コーエー・全三巻

講談社版とは違い、こちらは原書に忠実な翻訳である。しかし本書を読んで、講談社版を読んだ事が無いという人は少ないのではないだろうか?講談社版の読者が原書との違いを確かめるために読む本と言えるだろう。単価が高いのと、「完訳」というわりには物語の合間に挟まれている詩が省略されているのが難である。

封神演義
八木原一恵 編訳・集英社文庫

コーエー版と同様、原書に忠実な翻訳であるが、こちらは抄訳となっている。しかし物語の見所はきちんと押さえており、文章も読みやすく、良質の訳と言える。巻末に『封神』についてのまともな解説が付いており、お薦めである。

封神演義
渡辺仙州 編訳・偕成社・全三巻

こちらは児童書としての翻訳である。子供向けとあって文章は他のどの訳書よりも読みやすい。また挿絵も豊富で、物語の雰囲気やキャラクターのいでたちがわかりやすいようになっている。下巻についているイラスト付き人物事典も便利である。ただ、いくつかのエピソードが省かれてしまっているのが残念。

※この他にも講光社や講談社+α文庫から抄訳が、コーエーから文庫版で翻訳(全七巻)が出版されている。


ガイドブック

爆笑封神演義
シブサワコウ 編・コーエー・1〜3巻

このシリーズのミソは、イラストが豊富かつ良質であることである。皇なつきさんを始めとする人気イラストレーターを惜しげも無く起用しており、物語の雰囲気もつかみやすいのではないかと思われる。内容の方は、コーエー版の訳本(『完訳 封神演義』)にほぼ完全準拠。しかし2巻でna.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)に関する民間伝承に触れているほかは、訳本を読めば分かる範囲のストーリー・キャラクターの紹介に終止している。まあ、それでも他社のガイドブックに比べればまだましな出来ではあるが。姉妹編に『爆笑封神演義人物事典』がある。

封神演義完全手帳
『封神演義』研究スタッフ・講談社

遂に講談社から『封神』のガイドブックが発売、しかも安能務氏監修!と人の期待を煽ったものの、肝心の中身は腰砕けもいいところである。まずこれは『封神演義』のガイドブックなのではなく、「安能設定」の『封神演義』のガイドブックであることに注意。安能務氏のQ&Aコーナーなんかももちろん「安能設定」に基づいたものになっており、原書の理解にはあまり役に立たない。あと、宝貝(仙人の持つ宝物)と現代兵器の比較が写真付きで載っていたり、やたらと楊sen.gif (125 バイト)と竜吉公主が一夜の契りを交わしたことを強調していたり、(原書にそんな場面は無い。これも「安能設定」である。)イラストがヘボかったり、やっぱり原作を読めば分かることしか書いていなかったりと、いろんな意味でとほほな出来である。

封神演義大全
実吉達郎・ 講談社ソフィアブックス

内容は物語のダイジェストとキャラクター等の事典類がそれぞれ半々を占めている。まず200ページを占めるダイジェストには、もっと短くまとめられなかったかと突っ込みたくなる。200ページのダイジェストを読める人は原作そのものも難なく読めるだろうと思うのだが。事典の方も、霊獣の解説に妙に詳しく動物学的な考察を加えていたりと、少々視点がずれている感がある。(これは著者自身が動物学の専門家というせいもあるが・・・)分厚いわりに内容は薄い。

封神演義の世界 中国の戦う神々
二階堂善弘・大修館書店あじあブックス

『封神』のガイドブックには数少ない、原作だけ読んでいても分からないことをたっぷりと詰め込んだ一冊。唯一買って損は無いと言いきれる解説本である。著者は道教関連の学者なのだが、文章は読みやすいし、実は本自体もわりと薄めである。内容の方も『武王伐紂平話』など『封神』のネタ元になった本の解説、na.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)や楊sen.gif (125 バイト)など、道教の神々としてのキャラクター紹介、『封神』と史実との比較、文学としての『封神』の評価といったように、マニアの心をくすぐる知識が詰まっている。イラストも元の版本の挿絵から拾ってきているので、あなたの『封神』イメージを良くも悪くも打ち砕いてくれるだろう。『封神』ファン必読の書。

道教の神々
窪徳忠・講談社学術文庫

実は本書は『封神』のガイドブックではない。題名の通り、道教の歴史と神々について解説した本である。その中で神としてのna.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)・楊sen.gif (125 バイト)・姜子牙(太公望)・趙公明達を彼らのエピソードとともに紹介している。またさりげない所で『封神』の異伝について触れているのにも注目。内容は少し難しめだが、なまなかなガイドブックよりはずっと価値のある本。

※その他にも、コーエーから『封神演義大図鑑』(DaGama編集部編)・『封神演義解体新書』(歴史ファンワールド編集部編)、新紀元社から『封神演義  英雄・仙人・妖怪たちのプロフィール 』(遙遠志 著)、アスペクトから『攻略封神演義  英雄・仙人・宝貝のすべて』(殷朝政府特別調査室)等が発売されているが、私自身は未読のため、感想についてはノーコメントとする。


コミック

封神演義
藤崎竜・集英社ジャンプコミックス・1〜14巻(1999年5月現在)

一応講談社文庫版の訳本を原作としているが、舞台設定やキャラクターはSF風にアレンジされている。また太公望と聞仲が若い、黄飛虎と聞仲が親友という設定はプレステのゲームなんかにも流用され、それが定着しつつある。元来はかわいらしい少年であるna.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)が、感情を持たない機械人間みたいになっているのはなんだかなあという感じだが。ストーリーも当初は原作から出来るだけ逸脱しないようにと注意を払っていたふしが見られたが、趙公明が登場したあたりから暴走が始まり、それ以来美人のはずの三仙姑がものすごいナリで出て来るわ、楊sen.gif (125 バイト)は通天教主の息子ということにされてしまうわ、玉鼎真人が封神されるわと、完全に原作とは別物になった。『封神演義』のコミック化と見ると原作ファンにとっては腹ただしいだけの作品であるが、これを『封神』の現代風パロディーとみれば、結構楽しめてしまうのである。今後の展開に目が離せない作品である。

殷周伝説
横山光輝・月刊コミックトムプラス連載中

とうとう『封神演義』が中国歴史マンガの大家・横山光輝氏によってマンガ化!『三国志』・『項羽と劉邦』のように原作そのままの『封神』マンガを見せてくれるに違いない!とファンの期待を煽ったが、氏は原作の荒唐無稽な所と残酷描写が気に入らないようで、その結果、宝貝も霊獣も登場せず、残酷描写を含むエピソードは最初から無かったことにされてしまう(例えば、殷兄弟が師に殺される場面が描きたくなかったのか、彼らが攻めてくるエピソードはまるごと削除されてしまっている。)『封神』マンガが出来あがった。仙人や道士はどうなるかって?彼らは忍者のような体術で、何だかよくわからない武器を使って戦うのだ!妖術なんかも大体は手品まがいの幻覚術ということになっているぞ!

ああ、荒唐無稽でない『封神』のどこが面白いのか?最近はさすがに『殷周伝説』を読むのが苦痛になりつつある。唯一評価出来る点は、na.gif (129 バイト)ta.gif (116 バイト)が原作通り元気で明るい少年として描かれていることぐらいか・・・あ、あと、太公望と聞仲はちゃんと老人として描かれています。(これはフジリュー版のファンとかにはマイナスポイントか?)ちなみにコミックスは連載終了後に順次発行されるとのこと。


※99年4月に、『封神』の世界観をうまくアレンジして取りこんだSF小説『セレス』(南條竹則・講談社)が発売された。これの感想はこちらにあります。


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