「紅き久遠−−−新世紀」

パート1

                               想音斗

 

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「冬月先生、私こんど六分儀くんと結婚することに・・・なりました・・・」
「・・・え?」


まだセカンド・インパクトより以前、1990年代のとある日の事である。碇ユイ
は大学の東側に在る教授棟の控え室で、言葉少なに報告していた。


「以前ハイキングに行ったときに、あの男と付き合っていると聞いたが、まさ
か結婚とはな・・・」


冬月は平静を装いながら、ユイには聞こえないように口の中だけで呟く。

碇ユイは学生時代から優秀だった。大学院に残り、私の専攻である形而生物学
の研究に没頭し、その才能は更に磨かれ、開花していった。いや、開花したの
は才能だけではない。魅力もまた日増しに花開いていった・・・。

冬月は、幾分まぶしそうに彼女を見る。


「先生・・・。私、ずっと先生が言ってくださるのを・・・待っていたんです
よ・・・。ずっと・・・・」
「ユイくん・・・それは・・・」
「でも、それより先にゲンド・・六分儀くんと、私は出会ってしまった・・・」
「・・・・」
「そして・・・、先生。先生は、私に好意を寄せて下さってますけど・・・、
それは私ではなく・・・私の中に別の誰かを見ておいでなのが、判ったから。
・・・だから、私は六分儀くんとの結婚を決めたんです」
「・・・・ユイくん、君は・・・」
「・・・でも、ずーっとお待ちしていたっていうのは、ホントなんです・・・」


そう言うとユイは部屋を飛び出していったのだった・・・。あれは異常気象が
騒がれ始めてはいたが、まだ立派に四季があった頃。春が間近に迫った2月も
終わる頃だったか。あの時は堪えたもんだった。指摘されて、自分でも初めて
気がついた有り様だったのだから。ユイくんの中に別の人を見ていた、か・・。
それにしても、あの頃の記憶を、ここまで生々しく思い起こしたのは・・・久
しぶりだ・・・。



* * * * * * * * * * * * * *



突然、冬月は頬を優しく摩られ、肩を揺り動かされているのに、気がついた。
妙な回想の光景は消え去り、耳から、ひっきり無しの銃声と共に、自分を呼ぶ
声が聞こえてくる。必死な中にも優しい気遣いを感じる声だ。視界が光を取り
戻す。真摯な、そして優しい・・・健気で大きな黒い瞳が、自分を覗き込むよ
うに見つめていた。少し涙ぐみながらも、とっても、まっすぐに。


「あ、指令! 気が付かれましたかっ。大丈夫です。弾はそれてるし、傷も酷い
ものじゃありませんから。だから・・・だから、しっかりして下さい!」
「マリ・・・!」
「いやだ、マヤですよ。指令、お願い・・・しっかりなさって」
「・・・・ん、あ、あぁ。伊吹くん・・・。すまない、一体、私は?」
「ちょっと足を撃たれただけです。唾でも付けとけば直っちゃいます!」


世界中に散らばっているゼーレの拠点は、時を同じくして、ネルフ支部、政府
諜報機関および各国軍関係の所轄部隊の急襲を受けていた。ゲンドウが知り得
ていたディスクから明らかになったデータを元に、ミサトがMAGIオリジナ
ルを通じて協力を要請したのである。

まず、陰ながらのゼーレ支配を嫌っていた各国諜報機関が動いた。そしてオー
バー・ザ・レインボウを擁す国連太平洋艦隊を筆頭として、米国海軍他の軍関
係。その時点で、謎の機関ゼーレ消滅という趨勢は決したのである。

リツコ救出のため、マヤたちも、同じ頃に、一ノ関の或る企業研究所に突入し
た。ゼーレが間接的に出資した形の研究施設であり、当然のように企業名には
ゼーレの名を冠してはおらず、今迄、気付かれることはなかった。

また、平泉のような観光地に近いこともあり、見慣れない外国人が、さも当然
のように街を往来しても不審に思われないため、従来のゼーレにとっては格好
の偽装になっていたようだ。しかし、今回に限ってはそれがゼーレにとって逆
手に作用した。冬月らにとって、研究所の近くまで何事も無く順調に接近でき
たのは、この観光地に近いという僥倖が大きく作用したのだ。



マヤ・冬月を含めた7名は、突入に際し、陽動を行う別メンバー5名の配置を
待ってから行動を開始した。研究所と名のつく建物は、一般的にも結構広い所
が多い。このゼーレの息のかかった研究施設も例外ではなく、かなり広大であ
った。迷うか、と思った冬月に対し、マヤは即断で地下を目指そうとした。さ
すがにそれは、と口を出したのだが、それに対するマヤの答えは簡潔であった。



「捕虜は地下室。これって昔っからの定理なんですよ」
「それはそうだが・・・いささか使い古されていないかね?」
「司令、使い古された手を馬鹿にしちゃいけません。何故なら、使い古される
ほど沢山の人たちが使った、もっとも効果ある方法ってことに他ならないん
ですから!」
「・・・フム、一理ある・・・」
「数多く使われた、って統計がそれを示しているんです。例えば、女性に花束
を贈ることだって、手段としてなら、中世の時代より前に溯れるほど、古い
手ですよね? でも、それは今だって、とても効果的に機能するんです。私
だって花束なんか贈られたら、文句なく嬉しいですもん」



走りながら、こんな会話を交わしつつ、彼らは地階を目指した。そして程なく、
ゼーレ側警備員との交戦になったのである。奇襲に近い形であったこともあり、
始めの内は、進むのに大した障害にはならなかったものの、それは紛れも無い
戦闘に他ならず、訓練などとは全く違う世界をマヤの前に提示したのであった。

リツコ発案のガス銃を、如何に効果的に使用したとしても、相手から飛んでく
るのは摸擬弾などではなく、殺傷力を持つ本物の銃弾に他ならない。まさしく
戦場なのである。

戦闘になったその事が、取りも直さず、リツコの居場所がこの階であることを
示しているのだが、迷路のような構造は如何ともしがたく、マヤは次第に焦り
だしていた。そして、視認を怠って通路の交差場所に飛び込んだ時、敵の銃弾
を浴びせられることになったのだ。



駄目か、と目をつぶった時、マヤは身体に衝撃を受け、反対側の通路へ倒れ込
んでいた。目を開けてみれば、その衝撃は撃たれたものではなく、冬月の機敏
なタックルに因るものだった。マヤを覆うように安全な場所に飛び込んだ形で
ある。

が、冬月は右足に2発の銃弾を受けていた。流れ出す血を見たマヤは叫び声を
上げかけたのだが、反対側に追いついてきたメンバーが応戦を開始するのを確
認して、声を飲み込み、応急処置を始めた。泣きそうな表情ではあったが、泣
いてはいない。この成長したマヤの姿は、この後、同行したメンバーの口から、
ネルフ保安部において語られ、伝説になっていくことになる。



「・・・唾をつければ、か・・・。フム、そんなモノか・・・」
「・・・バカですよ、司令ったら。・・私なんかを庇って、そんな・・・」
「・・・君には、助けに行かなければならない、大切な人が・・・赤木くんが
待っているのだろう? ・・・私なんぞは、どうなったって構わんさ」
「そんな事、言わないで下さい。そんな風に言われてしまうと・・・私・・」
「・・・気にしないでくれ給え。老人の戯れ言に過ぎんよ・・・。とにかく君
が無事ならば、それで良い。私は、もう二度と自分の目の前で・・・好きな
人を失くすことだけは、絶対に許したくない。ただ、それだけだ・・・」
「司令・・・」



* * * * * * * * * * * * * *



ゼーレ・エヴァの戦闘力は凄まじかった。火器も盾も持たないものの、ATフ
ィールドを多用した攻撃が戦闘車両の接近を許さない。まっすぐにネルフ本部
を目指して移動している。知らずの内に、ミサトは爪を噛んでいた。エヴァと
は敵になると、ここまで圧倒されてしまう相手なのかと、初めてエヴァの脅威
を実感する。



「まずいわね・・・。戦力が違い過ぎる・・・か。日向くん、こちらの被害状
況は?」
「破砕車両多数、撃墜された航空機体も20は超えます! ただし、負傷者は
多いものの、死者は未だ出ていません」
「不幸中の幸いって所かしらね・・・。有人機および車両を安全位置まで撤退
させてっ。自動制御可能な機体もしくは遠隔操作可能な車両のみを第三防衛
ラインに配備っ!」
「了解」
「そして進行方向に当る住民に、特別非常事態宣言を発令。強制的に避難を始
めさせて。いい、一人残らずよっっ!」
「はいっ!」



撤退を開始する戦自を訝しく思う様子も見せず、エヴァは余裕綽々で侵攻を続
ける。それを苦々しく思いながらも、今のミサトには耐えるしかない。JA配
備は、もうすぐ完了する。しかし、ポジトロン・ライフルを撃つ前に察知され
れば、それは無駄に終わってしまうのだ。

相手に気づかれることなく、エヴァへの狙撃を完遂しなくてはならない。その
ために無人器機の集中配置を急ぐ必要があった。狙撃が成功しても、勝てる見
込みは少ない。何時間、いや数分間だけの延命措置に過ぎないのかもしれない。
しかし、諦めたり嘆いたりするのは、やるべきことを全てやってからでも遅く
はない。



「見てなさい、ゼーレ! あのアスカが、私たちの知るアスカでないにしても
・・・。私たちは・・・、私たちネルフは、アスカには誰一人、殺させやし
ない・・・! アスカを殺人者になんかして堪るもんですかっっ!」



そう、それがミサトの誓い。例え今は敵であっても、二度とアスカに人を殺め
させる訳にはいかない。曲がりなりにも家族を名乗った仲なのだ。手を汚すな
ら自分がやる・・・それがあの補完計画から回復したとき、自分に最初に課し
た誓い。

もう二度とチルドレンたちに、自分より若い世代に、戦場に向かわせるような
愚行は、ごめんだわ。あの悪夢を繰り返してはならないのよ、ミサト・・。そ
う、何があってもっっ。ミサトは自身を叱咤するように想いを迸らせていた。


シンジはそんなミサトを頼もしげに、また喜びを持って眺めていた。思いが同
じなのである。例え、敵であっても。例え、自分たちの知るアスカではないに
しても。ゼーレの思い通りになんか、させるものか。無為な行為ほど、無味な
ものはない。そんな道を歩ませてはならないんだ、誰も。もう二度と−−−。



* * * * * * * * * * * * * *



時田シロウは、おもむろに紫煙を燻らせていた。こちらに来てから、若干煙草
の本数が増えたかもしれない。彼は、現在、日本重化学工業団体より戦自に出
向中であった。

言わずと知れたJAプロジェクトの推進役としてである。以前、JA披露の際
の不祥事により解雇もしくは左遷を覚悟したが、不思議なことに彼自身は、何
のお咎め無しであったのだ。

その裏に、リツコとミサトの手回しがあったことを、ずっと後になって知った。
その時、彼は完全に「負け」を認めたのである。多少、陰謀めいた色合いを払
拭しきれないものの、ネルフのキーマンである女性二人の度量の大きさは、そ
の疑惑を上回るものであった。

時田は、機体としてのエヴァや、組織としてのネルフに負けたとは思っていな
い。ただリツコとミサトという人間に脱帽したのである。あの後、企業体にと
っては開発スケジュールが著しく長くなり過ぎたこともあり、思うように利益
が上がらなかったため、機会損失という事由から、戦自にJAプロジェクトが
移されることになったのだが、引継ぎを含め、彼が派遣されたのだった。

その時田の所に、ミサトの所から派遣された14歳の少年が現れた時、彼は少
々驚きはしたものの、苦笑しただけだった。なぜなら彼にとって、14歳の中
学生を受け入れるのが二度目であったからだ。



「なるほど、そうして君が、葛城さんから派遣されたって訳かい?」
「はい。相田ケンスケといいます。JAは起動実験が出来るところまで来てい
るのは知ってます。是非、芦ノ湖に近いここのポイントに配備して下さい」
「うん・・・、出来ないことは無いが・・・射手が難しいところだな」
「プログラムが出来ないってことですか?」
「まぁ、そうだね。ゼーレのエヴァを撃つんだろう? その時の状況次第で、
判断が幾つにも分かれる。即断して尚かつ最適なタイミングで撃つとなると
ね・・・」
「じゃぁ・・・」
「リモート・コントロール機能の活用。それしかないだろうな・・・」
「遠隔操作・・・マニュアルって事ですか・・・それが今の新型の改良点なん
ですね? でもそうすると操作する人が問題になりますね シンジを呼んだ
方がいいですか?」


ケンスケの呟きを聞いた時、時田は、してやったりと、ほくそ笑んだ。


「いや・・・幸いなことに、ここにも優秀な射手がいるんだ。シンクロ具合が
今まででは最高なんだ。君も知っている筈だよ。保証は出来ないが、上手く
いくかもしれない」
「え、誰ですか? 戦自の関係者に知り合いは・・・いないけど・・・」
「何だ、教えられてないのかい? 赤木博士も、なかなか食えない人みたいだ
ね・・・」
「・・・?」
「霧島くんっ! ちょっと来てくれ。君のお仲間が、協力を要請してるんだ」



ケンスケは驚愕した。其処に現れたのが霧島マナだったのだから。戦自絡みの
事件で、命の安全を確保すべく、戸籍を抹消し別人として生活するために、シ
ンジたちの前から去った筈のマナ。そのマナが、今、目の前に居る。しかも、
別人としてではなく、紛れも無い霧島マナ本人として。更には、逃げる原因と
なった筈の、戦自の施設の中での再会なのだから、驚くのも無理は無い。



「霧島さん・・・・!」
「・・・お久しぶりね、相田くんっ」
「な、何故・・・どうして?」
「私が此処に居るのが、そんなに不思議?」
「そりゃそうだよ! それに、他のみんなは知ってるのかい?」
「・・・ううん。まだ誰にも話してないんだ・・・」
「どうして?」


少しイタズラっぽく微笑むマナの表情は、以前のままだった。


「大人になっちゃったシンジくんの前には、まだ出にくいしぃ・・・、加持さ
んとリツコさんとの約束もあって・・・」
「加持さん?」
「補完計画って言うんだったっけ? あれが発動するのが確定的になった時に、
前もって加持さんが手を尽くしてくれてて、その補完計画のドタバタに紛れ
込ませて、私を復帰させる算段を整えていてくれたの・・・。加持さんは亡
くなってしまわれたそうだけど・・・、リツコさんに、ちゃんと後を託して
くれてもいてね・・・」
「じゃあ、今は・・・」
「そっ。今はネルフ開発局の一員。JAプロジェクト、エヴァ計画、戦自の有
人機動兵器プロジェクト・・・そのどれにも少しずつ関与した、私がお手伝
いするのが適任だってリツコさんがね、派遣してたって訳。・・・判った?」



マナはこの3ケ月間、時田のチームに入り、遠隔操作のシュミレーションに協
力してきていた。戦自の秘密プロジェクト時には、体力的な面でパイロット失
格となったものの、操縦や射撃等での適性については他者に優るものがあった
のは周知の事実だった。

それがこのJAプロジェクトでは、効果的に作用している。機体に搭乗する必
要が無いため、体力的な問題が基本的にクリアされているのだ。現在までの所、
進捗状況は非常に順調であったのだ。



かくして、此処に、戦自オタクと戦自経験者の強力な14歳タッグが組まれる
ことになった。その二人を眺めながら、時田は自分を含め、エヴァという糸に
紡がれた不思議な絆に思いを馳せる。

この二人は、チルドレン−−エヴァ適格者では無いのかもしれない。しかし、
この二人はチルドレンに深く関わった、同じ14歳の子供たちだ。ここでチル
ドレンではない二人が、作戦の重責を担っている光景は・・・これからの時代
を象徴しているのかもしれないな、と一人ごちる。この出会いが、どうしても
単純な偶然だとは思えない時田であった。


「ま、人生が面白いのは、こういう事が起こるからだな・・・。出向中だから
残業代が付かないのが癪に障るが・・・、それもまた良し・・・か・・・」



* * * * * * * * * * * * * *



セカンド・チルドレン−−−ゼーレより与えられた名は無く、ただセカンドと
呼称されていた彼女−−−は、歓喜に近い感情に支配され、戦自およびネルフ
が配備した戦闘車両の粉砕を続けていた。

が、箱根が近づいてきた時、一瞬、言いようの無い感情が奥底に湧き上ってく
るのを感じる。私はここを知っている? 不思議な面持ちで風景を眺める。何
だろう? それは本当に一瞬の魂の揺らぎであった。すぐに、憎しみと破壊の
快感に翻弄されて、その想いは、意識の外へと飛び去っていった。

しかし、その一瞬の微妙なエヴァの動きに、モニターを凝視していた数多くの
人の中で、ただ一人アスカの「ゆらぎ」を感じ取った者がいた。碇シンジ。彼
はこの時、自分の為すべきことを知った。成否の関係が無い、無欲無償無私の
行為。ただシンジを赴かせる衝動だけが、彼の心に決断を促した。ミサトの後
ろ姿を司令席の高みから眺めた後、誰に告げること無く、彼は静かに指令室を
後にした。



ミサトはエヴァを画面の端に捉えながら、各方面と忙しく連絡を取り合ってい
る。一斉にゼーレ拠点への進攻を開始した各機関、戦自、住民の避難状況の確
認−−−。取り敢えず、各国の迅速な対応は功を奏し、事は巧く進行していた。
そんな中、ミサトにとってもマナの出現は驚きではあったが、嬉しい再会には
違いない。


「そうなの・・・。加持が、あなたを・・・」
「はい。ご挨拶にも行かずに済みませんでした」


加持が・・・。加持が自分たちを助けてくれてる。例え、あっち側へ逝ってし
まっても彼は、私たちを忘れていない・・・。ミサトは、それを確信した。マ
ナちゃんの事を思っての行為だけでは、ない筈だ。リツコが間に入ったにして
も・・・こんな適材を、こんなに必要とされる時に、配置させることなんか出
来っこない。

ミサトは加持が今、自分に差し伸べている手を、すぐ近くに感じた。それでも、
彼女の心の中の加持はシニカルな笑顔を浮かべるだけで、その思いを肯定する
ことはしなかった。まったく、死んでも変わらないのね、あんたは・・・。

好きだった。確かに彼が好きだった。身体を重ね合うのも素晴らしい時間であ
った。しかし、今、シンジに対する気持ちとは、全く違う。上手く言えないが、
加持には甘えが許され、ミサト自身を彼に依存し切ってしまうことが、心地良
かったのだ。気持ちの上で対等では無かった。精神的には、いつも加持が上位
に居た。

しかし、シンジは違う。シンジとは対等なのだ。シンジとは想いを余すこと無
く、ピッタリと重ね合うことが出来る・・・。依存ではなく、互いに支え合っ
ている実感が在る・・・。二人で充実した時間を創っているのだ。時に甘え、
時に支え・・・何よりも常に信じていられるのが、嬉しい・・・。

今、思えば・・・加持との間に在ったのは、肉体という壁をも超えた所に存在
する友情というヤツ。男女間での友情あるいは親友は在りうるか、という哲学
的命題は昔から問われ続けてきた。その度に、肯定派と否定派が現れ、結局は
肉体関係という「壁」に阻まれ、男女間の友情は在り得ないとされるのが、大
勢を占めてきたのが世の常である。

いや、正しく言えば、みんなその存在を信じたいが、手にすることが難しく、
結局、諦めて相手の許から去ってしまうというのが、本当の所だろう。家庭を
持つと尚のこと、異性の友人を手にするのは困難になる。そうなのよね・・・、
でも。加持となら、そういう間柄でいられた気がする。男と女であっても、私
たちは本当の友達だった・・・。そうでしょ、加持・・・くん?



「あの時のお礼も満足にしないまま・・・今日まで、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。あの時の私は、どちらかと言えばあなたの力には、なっ
て上げられなかったし・・・。それよりも、そっちのJAをお願いね」
「はいっ・・・これが終わったら、お会いしに行きます」
「うん。待ってるわよ。シンちゃんも、きっと喜ぶわ」



シンジを振り返った時、そこに彼の姿はなかった。それを、その時のミサトは
余り気に留めなかった。手洗いか缶コーヒーでも飲みにいっていると単純に思
ったのだ。シンジが何か行動を起こす時には、絶対に自分に一言、伝える筈だ
との思い込みがあったのは否めない。だとするなら、ミサトはシンジの想いの
深さを読み違えていたことになる。彼女が思っている以上に、シンジがミサト
のことを想っているからこそ、彼は独りエヴァの所へ・・・アスカの所へ赴い
たのだから。



(続く)
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