blueball.gif (1613 バイト)  唐代伝奇  blueball.gif (1613 バイト)


1 補江総白猿伝


時は六朝の時代のこと。平南将軍藺欽(りんきん)が南方遠征に派遣された時に、別将の欧陽kotsu.gif (126 バイト)(おうようこつ)も同様に南方の長楽の地を占領し、異民族の居住地を次々に平定していった。ところで彼には美人の妻がおり、その妻も遠征に帯同していたのである。土地の者はそれを知って、「この地には美女をさらう神が居ります。くれぐれも注意なさって下さい。」と忠告した。欧陽kotsu.gif (126 バイト)は忠告に従って妻に対する警護を固めたが、ある明け方に一陣の怪風が吹いたかと思うと、その時には妻は既にさらわれていた。

欧陽kotsu.gif (126 バイト)は血眼になって方々へ妻を捜し回り、数ヶ月後にある山を捜索することにした。彼は兵士を引き連れてその山を登って行く。すると岩窟の入り口が見つかった。その岩窟の門の前で、女たちが歌い合ったり笑い合ったりしていた。女たちの話を聞くと、この岩窟は白猿神の住処であり、女たちはみな彼にさらわれて来たのだと言う。欧陽kotsu.gif (126 バイト)の妻もやはり同じように白猿神にさらわれたのであった。彼は岩窟に忍び込んで妻との再会を果たした。ただ白猿神は不思議な力を持っていて、正面から戦いを挑めば百人がかりでも倒せない。彼は妻や女たちと相談して策略を練る。そして十日後の再会を約して、白猿神が戻って来ないうちに引き上げた。

十日後、欧陽kotsu.gif (126 バイト)は女たちに言われていた通りに美酒と麻、そして犬を用意して再び岩窟の入り口へとやって来た。まず女たちは酒を花の下に置き、犬を辺りに放した。そして麻を寄り合わせて数本の太いひもを作った。白猿神は犬の肉と酒が大好きで、酔っぱらうと絹のひもで自分の体を寝台に縛り付けさせ、これを引きちぎって起き上がるという力自慢をするのだと言う。だから今回は白猿神の力で解けないぐらいの太さのひもで縛り付けてしまおうと考えたのである。そして女たちは欧陽kotsu.gif (126 バイト)に、、岩の陰に隠れるように指示をした。

すると白い衣をまとい、美しいあごひげを伸ばした男が、杖をついて女たち従えながらやって来た。これこそが白猿神の変化した姿である。彼は犬が走り回っているのを見つけると、立所に捕まえてその肉を引き裂き、ムシャムシャと食べ始めた。満腹になると今度は女たちに酒を勧められる。数斗飲んだ所でふらふらになると、やはり女たちが介添えをして岩窟へと去って行った。ひとしきり笑い声がしたかと思うと、女たちが岩窟から出て来て欧陽kotsu.gif (126 バイト)を手招きした。

そこで彼は部下と共に武器を手にとって入ってみると、正体を現した白猿神が寝台に手足を縛られ、ジタバタともがいていた。欧陽kotsu.gif (126 バイト)と部下がその体を剣で斬りつけても、鉄か岩を打っているように傷ひとつ付かない。しかしヘソの下を刺すと、血が一気に吹き出てきた。白猿神は、「わしはお前にではなく、天に殺されたのだ。それにお前の妻はわしの子を身籠もっておる。だがその子を殺すでないぞ。偉大な君主に出会って一族を繁栄させるであろうからな!」と捨てぜりふを残して絶命した。

岩窟の中には白猿神の残した珍奇な宝物であふれ返っていた。さらわれた女も三十人を数え、連れ去られてから十年たっている女もいた。だが容色の衰えた女はどこかに連れ去られ、二度と姿を現すことが無かったと言う。白猿神は平素、人間の姿形をして木簡を読んだり剣の修業に励んだりしていた。夜は女たちと酒を飲んで遊びにふけり、怖い者無しであった。しかしある時、溜息をついて「わしは山の神に訴えられた。いずれ死刑を宣告されるだろう。」と女たちにこぼした。更に一ヶ月前には「わしは千歳になるのに子供が無かったが、今になって子供が出来た。きっと死期が近付いたのだ。」と涙を流して悲しんだと言う。

欧陽kotsu.gif (126 バイト)白猿神の宝物を積み込み、女たちを引き連れて帰って行った。そして女たちをそれぞれ里に帰してやった。一年後に彼の妻は男の子を出産したが、その容貌はかの白猿神にそっくりであった。これが欧陽詢(おうようじゅん)である。その後欧陽kotsu.gif (126 バイト)武帝陳覇先)に誅殺された。欧陽詢は父の友人・江総に匿われて難を逃れた。彼は成人してから書道家・学者として有名となり、に仕えた。また友人の李淵王朝を立てると今度はに降り、高祖・太宗の二代に仕えた。


トップページへ    次へ