封神演義
2 「風雲児の誕生」
さて、その頃仙人の太乙真人(たいいつしんじん)は、自分の師匠であり、更に仙界を二分する闡教(せんきょう)の教祖である元始天尊(げんしてんそん)から、周の先鋒となるべき霊珠を下界に送れと命令が下った。
ところで陳塘関(ちんとうかん)の司令官・李靖の妻である殷氏は、三人目の子供を身ごもってから三年六ヶ月になるが、未だに子供が生まれていなかった。太乙真人はその殷氏の胎内に、自らの宝物とともに霊珠を埋め込ませたのである。それからしばらくして殷氏は産気づき、なんと丸々とした肉の塊を産んだ。李靖は、さては化け物かと肉の塊に斬りつけた。すると中からかわいい男の子が出て来たではないか。乾坤圏(けんこんけん)という腕輪と、混天綾(こんてんりょう)という赤い布の、二つの宝物を手にしている。祝いに駆けつけた太乙真人は、この赤子を(なた)と名づけ、自分の弟子にした。
それから七年がたち、は元気な少年に育った。そんなある日、父親が留守の間に
は陳塘関の外へ家来を連れて遊びに出ることにした。しかし川で水浴びをしていた時に東海龍王の敖光(ごうこう)の家来の李良、次いで息子の敖丙といさかいを起こし、それぞれ二人を殺してしまう。これを知って激怒した敖光は李靖に、このことを天帝に訴えてやるといきまくが、太乙真人に策を授けられた
は、敖光を痛めつけて訴えを取り下げさせたのだった。
その後、は陳塘関の乾坤弓で遊んでいたところ、偶然その矢が石機娘娘(せっきニャンニャン)という仙女の弟子に刺さって死んでしまった。石機娘娘はこれに怒って李靖を問い詰めた。
はまたもや太乙真人に助けを求めた。石機娘娘は太乙真人の説得を受け入れず、実力勝負となった。そこで太乙真人は九竜神火罩(きゅうりゅうしんかとう)という宝物を用いて石機娘娘を殺した。
その直後、敖光が三人の弟を引き連れて李靖に談判にやって来た。は、自分は元来霊珠の化身であるから、肉体を父母に返すことによって親子の縁が切れる。だからそれによって父母を許してやってほしいと言い、自分の体をバラバラに斬りきざみ、死んでしまった。
さて、魂だけになったは、太乙真人の指導によって殷氏の夢に現れ、自分を祭るお堂を建ててほしいと訴えた。そこで三年間祭祀を受ければ、再び人間になれるのである。しかしそのお堂は李靖に見つかって破壊されてしまう。
太乙真人はやむを得ず、蓮の花と葉を使ってを甦らせた。新たに火尖槍(かせんそう)・風火輪といった宝物を与えられた
は李靖を懲らしめに出かけるが、普賢真人(ふげんしんじん)に弟子入りしていた次兄の木
(もくた)や、長兄・金
の師である文殊広法天尊に阻まれてうまくいかない。太乙真人からもたしなめられたが、懲りずに機を見て李靖を殺そうとする。そこに燃燈道人(ねんとうどうじん)が現れ、玲瓏塔(れいろうとう)を使って
を懲らしめ、そしてその玲瓏塔を李靖に与えた。
はようやく観念し、父親と仲直りした。
その後は太乙真人のもとで修業を続け、李靖は司令官を辞職して、燃燈道人の弟子となった。