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●新着情報
欠陥住宅を正す会の窓

昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている

         欠陥住宅を正す会では、

このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。

 

―正す会の窓・・・その101―

あんなに元気だった蝉もいつのまにか鳴りをひそめ、どんどん日が短くなって
“秋の日は釣瓶落とし”――――のことわざが浮かんできますが、
近頃は釣瓶も井戸も見たことのない人の方が多くなって、
釣瓶というとあの釣瓶(落語家)を連想する人の方が多いようで・・・・
さて、いつまでこのことわざが通じることやら・・・・・やれやれ

(平 23・10・20)

☆今回は業者側が一方的に非公開にしている
認定図書付プレハブ住宅の判決のご紹介です。

欠陥住宅被害者に夢と希望を与えてくれる

=当会会員が獲得した新判例のご紹介・・・その5=

ユニットプレハブで
取り壊し建て替え相当賠償判決出る

1、ユニット型プレハブはプレハブ会社工場内部で建物の建築の殆どの工程を終了し完成して、ただ現場ではその工場完成建物を「据付けるだけだから、手抜きはなく欠陥がない」と宣伝されており、多くの消費者もそのように理解している向きが多いようです。

2、今回プレハブ業界の最大手であるセキスイハイムが施工販売した同社のプレハブ住宅に欠陥があり、取り壊し建て替え相当損害支払の判決が出されました。

3、最もプレハブ建物それ自体のほかに、基礎や地盤補強の欠陥があったことも取り壊し建て替えの必要の認定の要素にはなっていますが、このことから消費者が工場で造られるユニット型プレハブでも欠陥がありうるということ、それは工場で造られるプレハブ部分のほかに地盤補強や基礎構造の選択については通常建物と変わらない現場の実情に合わせての考慮が必要で、取り壊し建て替えざるを得ない欠陥が発生する場合もありうるとの、警鐘を与えてくれるものです。

4、「工場生産のユニット型プレハブの欠陥」についても、取り壊し建て替え代金相当損の判決が出るのは珍しく、その意味でも皆様方の参考に供したいと思います。

5、参考までに、このプレハブ会社は自他ともに日本一を誇る大プレハブ会社で、「大きいから大丈夫だ」など、「大きいことは良いことだ」との我々の思い込みが単なる幻影にすぎないことをも示しています。 「ユニットプレハブだから絶対に欠陥がない」との信仰を捨てるべきでしょう。

6、特に地盤補強や基礎構造に関しては、プレハブ住宅でも通常住宅もその調査選択には慎重ならざるを得ない点も我々消費者に警鐘を与えるものです

平成23年9月9日

欠陥住宅を正す会

以下判決の主要点をご紹介します。
なお、判決全文は近く「判例時報」誌において掲載予定です。

平成23年1月18日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第1046号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日  平成22年10月6日

判   決

兵庫県三田市―――――

原  告         Y・M    
同訟代理人弁護士     澤 田 和 也
同            中 井 洋 恵

大阪市北区西天満2丁目―――――

被  告      積水化学工業株式会社
同代表者代表取締役    大久保 尚 武

大阪市北区西天満2丁目―――――

被  告   セキスイハイム近畿株式会社
(旧商号・セキスイハイム大阪株式会社)
同代表者代表取締役     原 田 義 人
上記両名訴訟代理人弁護士  岩 城   裕

主   文

1 被告らは、原告に対し、連帯して2802万円及びこれに対する平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、これを7分し、その6を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告らは、原告に対し、連帯して3226万3000円及びこれに対する平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、原告が、被告積水化学工業株式会社(以下「被告積水化学」という。)との間において、別紙物件目録1記載の建物の土地(以下「本件土地」という。)の上に、同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築する旨の建築請負契約を締結し、完成した本件建物の引き渡しを受けたところ、本件建物には、基礎の欠陥及び使用上の欠陥が存しているため、建替えが必要であるとして、被告積水化学及び同社の神戸ハイム営業所の事業を継承した被告セキスイハイム近畿株式会社(以下「被告セキスイハイム」という。)に対し、瑕疵担保責任又は不法行為による損害賠償請求権(両社は選択的併合である。)に基づいて、建替費用相当額等合計3226万3000円及びこれに対する本件建物引渡しの日である平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

1 前提事実

2 争点

(1)本件建物に瑕疵が損するか否か
(2)本件建物の瑕疵の補修方法及び損害額

3 争点についての当事者の主張

(1)争点 (1)(本件建物の瑕疵の有無)について
【原告の主張】

 本件建物の敷地には。盛土によって形成された軟弱な地盤があり、特に南西角では地盤面下2メートルの深さまで極めて軟弱な自沈層であるから、本件建物の基礎はかかる軟弱地盤に対して安全性を確保する対策をとることを要する。しかし、本件建物の基礎は0.85メートルの深さまでしかなく、敷地の軟弱地盤にたいして対応できていないため、本件建物1階リビングの南北方向に1000分の4.83の割合で沈下が生じるなど。本件建物全体に不同沈下が発生しており、建築基準法施行令38条で要求される安全性を確保できていないという構造耐力上の瑕疵が存在する。

 本件建物には、建物の基礎が軟弱地盤に対応していない瑕疵のほか、基礎下部に捨てコンクリートが施工されていないこと、浴槽下の基礎が施工されていないこと、2階トイレの給水管が凍結すること、2階和室外壁に漏水があること、床下断熱材の施工が十分でないこと、耐火構造仕様が注文時のカタログと異なることという瑕疵が存する。
これら瑕疵に関する原告の主張は、別紙「欠陥に関する主張対比表」の「欠陥」欄及び「原告の主張」欄記載のとおりである。

【被告らの主張】

 本件建物の敷地地盤に軟弱な部分があり、本件建物の基礎がこれに対する安全性を十分に確保できていないこと、本件建物1階リビングの南北方向に1000分の4.83の割合で傾斜・沈下が生じていることは認める。本件建物敷地の南西角の地盤については、地盤沈下1.75メートルの深さまでが軟弱な自沈層である。

 (ア) 本件建物につき、浴槽下の基礎が施工されていないこと、2回和室外壁に漏水があること、床下断熱材の施工が十分でないことの瑕疵が存することは認める。
(イ) 本件建物につき、2階トイレの給水管が凍結すること、耐火構造仕様が注文時のカタログと異なることの瑕疵が存在することは争う。
これらの瑕疵の存否に関する被告らの主張は、別紙「欠陥に関する主張対比表」の「2階トイレの給水管による損害」欄及び「ハイムアバンテFSと異なる仕様」欄に対応する「被告の反論」欄記載のとおりである。

(2)争点 (2)(本件建物の瑕疵の補修方法及び損害額)について
【原告の主張】

ア 補修方法について
 (ア) 本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていないために不同沈下が生じた結果、本件建物南側外周部と建物内部中央部の基礎立ち上がり部分に、0.2ないし0.6ミリメートル幅の亀裂が多数発生しており、特に、基礎と上部構造とを接合するアンカーボルト位置での亀裂が多いため、これを修復するためには、現状の基礎を解体撤去して、構造耐力上の安全性が確認された基礎を造り直す必要がある。

(イ) 被告は、本件建物の基礎を造り直すことなく、基礎の下に支持杭を圧入するアンダーピニング工法を施工することによって、補修することができる旨主張するが、被告が提示するアンダーピニング工法による補修計画(乙15の1ないし15の6。以下「本件補修計画」という。)には、別紙「本件補修計画の問題点主張対比表」の「問題点」欄及び「原告の主張」欄記載のとおりの問題点が存するのであり、同計画のとおりに本件建物を補修することはできない。

(ウ) また、アンダーピニング工法によって、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない欠陥を補修して水平に修復するとしても、本件建物の上部構造の壁体パネルの現場修復が可能でなければならない。
 本件建物は、1000分の4.83の割合で傾斜しており、しかもその傾斜が1階と2階とで異なるように(甲6の1・16、17頁)、上部構造のゆがみやねじれによって変形して傾斜しているのであるから、本件建物を水平修復したとしても、上部構造のゆがみやねじれの変形を是正することはできず、上部構造の解体撤去が必要となる。

(エ) したがって、本件建物を取り壊して建て替える必要がある。

イ 損害額
 (ア)補修費用相当損害    2427万円
本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない欠陥を修復するためには、現状の基礎と上部構造を解体撤去して、基礎の施工から建て替える必要があるところ、建て替えに要する費用は、2427万円が相当である(なお、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない瑕疵以外の瑕疵の補修費用は、建て替えに要する費用に含まれる。)。

(イ)代替建物費用等     100万円
本件建物の建て替えによる補修には、6か月を要するところ、建て替え中は、原告が他に転居する必要があるから、代替建物を使用する費用合計60万円(月額10万円)及び礼金相当額40万円が、原告に生じる損害である。

(ウ)引越し費用       30万円
本件建物の建替による補修に当たっては、本件建物から代替建物へ、代替建物から新築建物へ2回の引っ越しを要するところ、本件建物に居住する原告の家族構成からなる家財道具の量からすると、引越し費用として合計30万円を要する。

(エ)慰藉料         100万円
本件建物に瑕疵が存することによる原告の精神的損害に対する慰藉料としては 100万円が相当である。

(オ)調査費用        105万円
原告は、本件訴訟を提起・追行するにあたって、建築の専門家による調査鑑定を依頼する必要があり、その調査費用として105万円を要した。

(カ)登記費用        20万円
本件建物を建て替えるためには、旧建物の滅失登記、新建物の表示保存登記をする必要があるから、登記に要する費用合計20万円が原告の損害となる。

(キ)弁護士費用       444万3000円

(ク)合計         3226万3000円

【被告らの主張】

ア 補修方法について
 (ア) 本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない欠陥については、既存基礎下部を掘削し、本件建物の重さ、本件建物固有の強さを利用し、短く切った鋼管杭をジャッキによって圧入して堅固な地盤まで杭を設置するアンダーピニング工法によって補修可能であり、本件建物を取り壊し建て替える必要はない。
以下省略

イ 損害額
 (ア)補修費用
本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない欠陥を本件補修計画に従って修復し、さらに、同欠陥によって生じた不具合や基礎のクラック、被告において瑕疵の存在を認めている浴槽下の基礎が施工されていないこと、2階和室外壁に漏水があること、床下断熱材の施工が十分でないことについての補修を行った場合、本件建物の補修に要する費用は、763万3899円である(乙23)。

(イ)その余の損害
争う。

ウ 遅延損害金の起算点
 原告は、損害賠償債務の遅延損害金の起算日を本件建物の引渡日としているが、その時点では、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない欠陥による沈下を補修する方法及びその額は明らかになっていなかったのであり、かかる状況において、遅延損害金の起算日を本件建物引渡日とするのは不合理である。不法行為による損害賠償請求についても、債務不履行による損害賠償請求とのバランスを考慮して、訴状送達時を遅延損害金の起算日とすべきである。

第3 当裁判所の判断

1 争点 (1)(本件建物の瑕疵の有無)について

(1)
(2)
(3)
(4)
(5) 以上のとおり、本件建物には、基礎が軟弱地盤に対応できていない構造上の瑕疵を含む重大な瑕疵が含まれているというべきであり、かかる瑕疵を含む本件建物を建築した被告積水化学には、建物建築を請け負った業者として負う瑕疵のない建物を建築する注意義務に違反した過失が損するものと認められるから、被告積水化学は、不法行為責任として、本件建物に瑕疵が存在することによって原告に生じた損害を賠償する義務を負うものと認められる。
そして、前記第2の1(1)の事実、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件建物に瑕疵が存することによる損害賠償債務については、本件契約を締結した被告積水化学神戸ハイム営業所の事業を承継した被告セキスイハイムも重畳的に債務を引き受けたものと認められ、連帯してその責任を負うものと認めるのが相当である。

本件は、原告が、被告積水化学工業株式会社(以下「被告積水化学」という。)との間において、別紙物件目録1記載の建物の土地(以下「本件土地」という。)の上に、同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築する旨の建築請負契約を締結し、完成した本件建物の引き渡しを受けたところ、本件建物には、基礎の欠陥及び使用上の欠陥が存しているため、建替えが必要であるとして、被告積水化学及び同社の神戸ハイム営業所の事業を継承した被告セキスイハイム近畿株式会社(以下「被告セキスイハイム」という。)に対し、瑕疵担保責任又は不法行為による損害賠償請求権(両社は選択的併合である。)に基づいて、建替費用相当額等合計3226万3000円及びこれに対する本件建物引渡しの日である平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

2 争点 (2)(本件建物の瑕疵の補修方法及び損害額)について
(1)瑕疵の補修方法

 本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない瑕疵の補修方法につき、原告は建替を要すると主張するのに対し、被告は本件補修計画による水平修復・沈下防止の補修をすれば足り、建替えまでは必要ない旨主張するので、まず、本件建物の基礎の瑕疵の補修方法について検討する。

 証拠(乙15の1ないし15の6)によれば、本件補修計画の内容は、以下のとおりであると認められる。

(ア) 本件他の支持地盤をN値25以上の砂礫層とし、その上層にある軟弱な盛土層の最深を設計GL−4.85メートルと設定した上で、本件建物の荷重を反力として、基礎の下部の12箇所に、順次、鋼管をねじ継手で延長しながら支持地盤まで圧入する。基礎の下部に圧入された鋼管によって将来の本件建物の沈下を防止する一方、圧入した鋼管を反力として本件建物をジャッキアップして既に不同沈下している本件建物を水平に修復する。

(イ) 鋼管を圧入する箇所の基礎底盤から約1.85メートル付近の深さまでは、人力掘削によって盛土層の軟弱地盤を撤去する。

(ウ) ねじ加工済みの短鋼管を建て込み、本件建物の荷重及び剛性を利用して油圧ジャッキによって鋼管を圧入する。ある程度鋼管を圧入した時点で、鋼管のねじ接続を行い、隅肉溶接を施して鋼管を延長する。加圧完了時点で、圧力計によって圧力を測定し、各圧入箇所所定の最大圧入力が得られているかを確認する。45分間放置して、圧力が減少していないか若しくは沈下が鋼管径の10分の1程度にとどまっていれば、鋼管の圧入を完了する。

(エ) 鋼管圧入後、油圧ジャッキ(一部ねじ式ジャッキ)を使用して、本件建物のジャッキアップを行い、本件建物を水平にする。水平修復の基準は、建物内の床の表面における3メートル以上の2点間の勾配が1000分の3未満となるか否かである。

(オ) ジャッキアップ完了後、ジャッキの撤去・仮受管及び本管の設置を行い、コンクリートの打設及び埋戻土(掘削残土にセメント系固化剤を添付する。)の投入を行う。ジャッキアップによって生じた基礎底の空隙にはセメントミルクを注入する。


(ア) 本件補修計画の当否について検討するに、鑑定結果(鑑定人福嶋孝之作成に係る平成22年3月31日付鑑定報告書〔以下「鑑定書」という。〕29ないし31、33頁、鑑定人福嶋孝之作成に係る平成22年7月31付補充鑑定報告書15頁)によれば、本件補修計画に従った水平修復・沈下防止の補修方法を行うには、以下のとおりの問題点の存することが認められる。

@ 本件建物建築前に作成された宅地造成等規制法14条3項に基づく本件土地の造成に関する届出書には、本件建物の敷地の南西部分の法面の角度は30度以下となるように整地する旨記載されている(甲6の2・資料3)ところ、現況では本件建物の敷地南西角に設置されている石垣擁壁付近において、法面の勾配が安定角度を超えて、本件建物敷地の地盤に小規模な斜面崩壊が生じており、上記石垣擁壁が本件建物の敷地の外側に押し出されている。
本件補修計画においては、上部構造を残したまま、基礎の下部を地盤面下2.5メートルの深さまで掘削し、鋼管杭を圧入することとされているところ、建築、修繕、模様替え又は除却のための工事において深さ1.5メートル以上の根切り工事を行う場合においては、地盤が崩壊するおそれがないとき、及び周辺の状況により危険防止上支障がないときを除き、山留を設けなければならないのであって(建築基準法施行令136条の3第4項)、上記のとおりの本件建物敷地南西角の石垣擁壁の現況からすると、本件補修計画に基づく本件建物の補修工事を行うには、石垣擁壁の崩壊を防ぐために、あらかじめ、十分な根入れ深さを確保した山留工事を行う必要がある。

A 本件建物の敷地地盤面下2.5メートルの深さまで掘削し、鋼管杭を圧入することとされているところ、本件建物直下を掘削した場合の掘削法面の安定勾配を保つために、本件建物1階の床面を支持する束石が支持力を失うこととなるため、あらかじめ1階の床面を撤去する必要がある。

(イ) 以上のとおり、本件補修計画に従ったアンダーピニング工法による本件建物の水平修復・沈下防止工事については、掘削時の本件建物の敷地地盤の安全性に欠けるところがあると認められ、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていない瑕疵の補修方法及びこれに要する費用としては、本件補修計画及びこれに要する費用(591万0380円[消費税]別。乙23)が相当であると認めることはできない。
そして、鑑定結果(鑑定書34、35頁)によれば、軟弱地盤に対応できていないために不等沈下が生じている本件建物の基礎をアンダーピニング工法によって補修するには、本件建物周辺の土留め工事を施工し、本件建物の1階床面を撤去した上で、掘削法面の安定勾配を確保しながら本件補修計画と同様の鋼管杭圧入工事を行う必要があり、これに要する費用は2140万円(消費税別)であると認めるのが相当である。


(ア) これに対し、原告は、本件建物の敷地の地盤面下4メートルの深さまでに設計支持地盤であるN値25を超える地耐力を要する地盤があり、本件補修計画のとおりに4メートルの鋼管杭を圧入することはできない旨主張する。
しかしながら、本件補修計画における鋼管杭圧入工事は、設計支持地盤であるN値25の砂礫層に達するまで、鋼管杭をねじ継手及び溶接継手によって継ぎながら圧入するものであり、杭長4メートル以内で設計支持層を超える地耐力を有する地盤に到達した場合には、最大圧入圧力を限界として圧入を行うものであるから(乙15の2・13ないし17頁、325頁、乙27)、すべての圧入箇所に一律4メートルの鋼管杭を圧入することを前提とする原告の上記主張は失当であり、採用の限りではない。
以下略

(イ) また、原告は、本件補修計画において、鋼管杭の圧入圧力を算定するに当たり、本件建物の基礎底盤上の外側の土の荷重を含めて計算することは、基礎底盤上の土が崩落しないように残すことは不可能若しくは著しく困難であるので不当である旨主張するが、被告は、本件補修計画を実施する際に崩落防止のため掘削部にコンパネ土留めを設置するとしているところ、上記コンパネ土留めが設置できないなど、基礎底盤上の土が崩落する可能性が高いことを窺わせる証拠はないし、本件建物の基礎底盤は底盤上の土の積載荷重に対して十分な強度を有していると認められるのであって、基礎底盤上の土の荷重を鋼管杭の最大圧入圧力の算定に利用することに問題はないというべきである(鑑定結果〔鑑定書19頁〕)。

(ウ) 原告は、本件補修計画における鋼管杭の最大圧入圧力から計算した支持力はN値25の地盤の許容支持力を下回るので、設計支持地盤であるN値25の地盤まで鋼管杭を圧入することができない旨主張するが、前記(ア)に判示したとおり、鑑定結果によれば、圧入した鋼管杭を利用して本件建物を水平に修復し、地盤改良を施した上で掘削土を埋め戻す限りにおいては、本件建物の基礎の欠陥を補修することが可能であると認めるのが相当であり、原告の上記主張は採用の限りではない。

(エ) 原告は、本件補修計画における杭の圧入圧力の算定に関し、本件建物の自重のほか、布基礎梁部分の剛性は小さく曲げ抵抗力を加えて杭の圧入圧力の算定を行うことはできないとか、基礎梁の曲げ耐力を利用して鋼管を圧入する本件補修計画の鋼管杭圧入工事は基礎梁に余分な負担をかけるもので相当でない旨主張する。しかし、証拠(乙15の2、15の5、鑑定結果〔鑑定書24ないし27頁〕)によれば構造計算上、本件補修計画における鋼管杭圧入工事に際して鋼管杭の最大圧入圧力による反力によって基礎梁に生じる応力、たわみともに許容できる範囲内にあり、本件建物の現状の基礎梁は鋼管杭の圧入圧力に対して十分な剛性・耐力を有しているものと認められるから、原告の上記主張には理由がない。

(オ) 原告は、本件補修計画における鋼管杭の継手の低減率が相当出ない旨主張するが、建設省住宅局建築指導課通達(昭和59年11月住指発392号)によれば、杭円周溶接継手部については継手1箇所あたり5パーセントを低減することとされ(乙20)、また、平成13年国土交通省告示1113号によれば、杭体に継手を設ける場合でも、溶接継手又はこれと同等以上の耐力、剛性、靱性を有する継手を用いる場合には許容応力度を低減する必要はないとされているのであるから(乙21)、ねじ継手と隅肉溶接継手による本件補修計画における鋼管杭の継手についての支持力の算出において、継手1箇所当たり5パーセントの低減を行っている計算が相当でないということはできない(鑑定〔鑑定書28ページ〕)。

(カ) 原告は,盛土全体の地盤改良を行わないために、将来さらに本件建物の敷地が沈下すれば摩擦抵抗が低減して地震時の安全性が確保されないとか、本件補修計画のアンダーピニング工法による修復では、杭と本件建物の基礎が緊結されないので、鋼管杭に地震力を負担させることはできない旨主張する。
しかしながら、本件補修計画における鋼管杭圧入工事によって本件建物の基礎を修復するに当たっては、地震時の水平荷重は基礎底盤の摩擦抵抗で処理するとされている(乙15の2・29頁)ところ、鋼管杭圧入工事後にセメンと系固化材を添付した改良土を使用して埋戻しを行うこととされているからであるから、かかる地盤改良の施工監理が適切に行われうる限りは、地震が発生した際の安全性は確保されるものと考えられ(鑑定結果〔鑑定書28頁〕)、原告の上記主張は採用することはできない。

(キ) 原告は、本件補修計画における鋼管杭圧入工事を施工するに際して、人力で掘削する手順が具体的でないなどと主張するが、証拠(乙17、鑑定結果〔鑑定書30頁〕)によれば、シャベルや軽量掘削機械によって人力で施工することは可能であると認められるところ、鑑定書で指摘された1階床の撤去、進入口の設置、掘削法面の安定勾配の確保等を考慮することにより安全面の確保もできると考えられるから、原告の上記主張は採用出来ない。

(ク) 原告は、本件補修計画における鋼管杭圧入工事の最大圧入圧力の算定に関して、建物自重に基礎及び基礎の上に載る土の荷重を加算する計算方法が妥当でない旨主張するが、本件補修計画における鋼管圧入時の最大圧力の算定は妥当なものであり、問題はないとする鑑定結果(鑑定結果〔鑑定書〕32頁)に照らし、採用の限りではない。

(ケ) 原告は、本件補修計画における鋼管杭圧入工事で基礎をジャッキアップする際、すべての柱の下に鋼管を仮受けした上でコンピュータ制御によってジャッキアップすべきである旨主張するが、その主張の根拠とする石川育子一級建築士及び井戸田精一一級建築士の意見書(甲8、2頁)によっても、本件補修計画におけるジャッキアップ時のレベル微調整の方法(乙15の3・9頁)が不適切であるという根拠は明らかでなく、これが妥当な方法であるという鑑定結果(鑑定書32頁)に照らし、採用の限りではない。

(コ) さらに、原告は、本件建物の上部構造が修復不可能なほど変形しているためにアンダーピニング工法によって水平に修復したとしても、上部構造の変形を是正することはできず、上部構造の解体撤去が必要である旨主張するが、証拠(甲6の1・16、17頁)によれば、本件建物の1階部分と2階部分の傾斜度が異なることが認められるものの、これが修復不可能なものであるかは明らかではなく、本件建物の上部構造の解体撤去が必要であるとまでは認めるに足りない。

(2)本件建物の瑕疵の補修費用

 前記(1)に判示したところによれば、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応していない瑕疵については、同基礎の下部に鋼管杭を圧入して基礎をジャッキアップした上で掘削部の地盤改良を施すという補修方法によって補修可能であり、これに要する補修費用は2140万円(消費税別)であると認めるのが相当であり、また、証拠(乙23)によれば、本件建物の基礎に生じたクラック(このクラックの発生には、本件建物の基礎が軟弱地盤に対応できていないことによる不等沈下が寄与しているものと認められる〔甲14・別紙C〕。)及び不当沈下によって本件建物に生じた不具合を是正するために、それぞれ10万円、39万2000円(各消費者別)の補修費用を要することが認められる。
また、証拠(乙23)によれば、本件建物1階の浴室下部の底盤にコンクリートを敷設し、浴室周りを3列のコンクリートブロックで囲み、浴槽を取り囲む設計となっているのに、これが施工されていない瑕疵、2階和室西側の外壁ジョイント部において、外壁サイディングが浮きあがった部分があるために和室の内壁に漏水している瑕疵、本件建物1階床下に施工されている断熱材が垂れ下がって、室内の断熱性能が確保できていない瑕疵については、これを補修するために、それぞれ10万円、39万3000円、7万円(各消費税別)の補修費用を要することが認められる。
さらに、証拠(甲19)によれば、本件建物2階トイレの給水管の瑕疵、本件建物1階天井部分の耐火構造に関する瑕疵を補修するために、それぞれ314万円、124万円の補修費用を要することが認められる。
したがって、本件建物を建替えることなく本件建物に存在する瑕疵を補修するには、合計2683万5000円(消費税別)を要するものと認められる。

 他方、本件建物を建て替えることによっても本件建物に存在する瑕疵を補修するのと同じ目的を達することができると考えられるところ、証拠(甲6の1)によれば、本件建物の建て替えに要する費用は2427万円(消費税込み)と認められる。

 瑕疵の補修を行うのに複数の工事方法が考えられる場合には、最も安価な工事方法に要する費用相当額を持って相当因果関係ある損害と認めるのが相当であるから、結局、本件建物に損する瑕疵の補修費用として原告に生じた損害額としては、建て替え費用と同額の2427万円(消費税込)と認めるのが相当である。

(3)代替建物費用および引っ越し費用   略

(4)慰藉料   略

(5)調査委費用   略

(6)登記費用   略

(7)弁護士費用   略

(8)合  計              2802万円

(9)遅延損害金の起算点
 被告は、遅延損害金の起算点は訴状送達の日の翌日である旨主張するが、不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催促を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁、最高裁昭和55年(オ)第1113号同58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照)、被告の上記主張は採用することはできない。

3 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

神戸地方裁判所第4民事部

裁判長裁判官    角   隆 博
裁判官    大 森 直 哉
裁判官    谷 池 政 洋

別 紙

物件目録             省略

別 紙

欠陥に関する主張対比表      省略

別 紙

本件補修計画の問題点主張対比表  省略

これは正本である。

平成23年1月18日

神戸地方裁判所第4民事部
裁判所書記官    亀 谷 哲 正 [印]