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昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている
欠陥住宅を正す会では、
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―正す会の窓・・・その31―
地盤補強や擁壁の手抜きによる「取り壊し建て替え損」を認め、
新築代金3,210万円を大きく上まわる5,900万円にのぼる
賠償請求を認容した勝訴判決のご紹介。
当会会員I氏は、去る10月27日 徳島地裁合議部で、請負代金約3,200万円のほぼ倍近い約5,800万円也の取り壊し建てかえ損害等の賠償を命じる判決を獲得されました。
退職を機に建てかえた新築住宅だったのですが、設計施工を引き受けた建築会社が、海岸近くの敷地に盛り土するのに相当な地盤調査を怠り、地盤補強や擁壁築造をおろそかにしたため、擁壁にひび割れが生じ、擁壁が崩壊し家屋が損壊するおそれが生じていることからこの判決が出されたのです。
≪判決のあらまし≫ @ 事件番号 徳島地方裁判所 平成17年(ワ)第7号 損害賠償請求事件
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徳島地方裁判所阿南支部 平成12年(ワ)第18号事件及び、同支部 平成15年(ワ)第22号事件を本庁が平成16年12月27日回付をうけた。 |
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A 判決言い渡し日 平成18年10月20日
B 原告 当会会員I氏
同訴訟代理人 澤田和也 中井洋恵
原告側鑑定書作成者 高塚哲治 ほか |
被告 Y建設(株)
同 Y建設(株)代表取締役Z
同 Z
同 W一級建築士
補助参加人 阿 南 市 |
C 請求金額 |
被告各人に対し 60,374,100円
及び平成9年6月2日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金。 |
D 認容金額 |
1 |
被告ら各人に対し 金58,840,000円也を支払え、 |
2 |
及び 被告Y建設(株)については平成9年6月2日から、
被告Z(Y建設(株)代表取締役)については平成15年5月1日から、
被告W建築士については平成9年6月2日から、
それぞれ年5分の割合による遅延損害金をも支払え。 |
3 |
上記についてはそれぞれ仮執行宣言をつける。 |
E 新築注文代金額 金32,196,350円也
F 認定補修工費額 金48,090,000円也
G 事案の概要
原告は被告Y建設鰍ノ対し、代金3,219万6,350円で居宅の新築設計及び施工の一括請負契約を締結したが、完成引渡された同居宅(木造瓦葺二階建、一階92、74平方米、二階86、12平方米)に敷地地盤の補強や擁壁に建築基準法令に定める構造の安全性能に欠ける欠陥があり、現に擁壁にひび割れやブロック塀に傾きが生じ、危険を生じさせているので、Y建設葛yび担当のW一級建築士に対し、瑕疵担保責任又は不法行為責任に基づき、Y建設(株)の代表取締役Zに対しては監督不行き届きとして商法429条(旧266条の3)に基づき、それぞれ損害賠償の請求をした。 代金全額は支払済みである。(なお、軸組み躯体にも法定基準を手抜きした構造欠陥があったが、地盤と擁壁の欠陥だけで取り壊し建てかえ損請求が可能であるので、主張立証の中心を地盤と擁壁の欠陥に絞った。)
尚、被告Y建設(株)が本件擁壁のひび割れが擁壁外側の阿南市による溝工事に起因するものとして、阿南市に訴訟告知したことにより、同市が補助参加人として参加した。判決は阿南市に対しては、水路改修工事が本件擁壁設置以前に終了していることなどを理由に責任がないものと認定した。
H 判示の概要
判決は本件敷地が海岸真横にあり、当然軟弱であることが予見されたのに、Y建設(株)が相当な敷地地盤調査を怠り、相当地盤補強もしくは基礎構造の設計施工をおこたった建築基準法施行令38条の職責違背を認め、同工事担当のW一級建築士に対しても同じ職責違背を認めると共に、被告ZにはY建設(株)の代表取締役としての監督責任を認めてDの賠償金支払いを各被告に命じた。
I 論 点
(ア) |
瑕疵判断の基準と標準的技術基準。 |
(イ) |
敷地地盤調査義務とその範囲又は内容。 |
(ウ) |
建築基準法施行令38条の標準的解釈基準の内容と位置付け。 |
(エ) |
地盤の支持力の算定方式。 |
(オ) |
「地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」という基礎に関する規定の意味内容。 |
(カ) |
建設省告示第1113号第2の解釈。 |
(キ) |
徳島県が地耐力を50ニュートン(5t)以下を前提とする場合には、地盤調査報告書の確認申請書添付を免除していることと、令93条の地盤調査義務との関係。 |
(ク) |
令38条1項と令93条との関係。 |
(ケ) |
代表取締役の監督責任。 |
(コ) |
工事担当の設計及び工事監理者の責任。 |
(サ) |
損害の範囲と認定金額。
イ 補修費用 |
4,809万円
(代金額3219万6350円を大きくうわまわる) |
ロ 代替建物の賃料相当 |
130万円 |
ハ 引越し費用 |
30万円 |
ニ 慰 藉 料 |
200万円 |
ホ 調査鑑定費用 |
150万円 |
ヘ 登記費用及び税金 |
30万円 |
ト 弁護士費用 |
535万円 |
チ 合 計 |
5,884万円 |
上記各費用につき認容し、全体として原告の
金60,374,100円也
の損害賠償請求に対して、その請求額の97パーセントにあたる
金58,840,000円也
を認容している。
この点においても、画期的な判決である。 |
判決は単に認容賠償額が契約代金を大きく上回ったということだけではなく、建築基準法施行令38条の地盤に見合う「安全基礎」の具体的内容を明らかにしている点でも特徴的です。そして住宅の設計や施工を請負う業者には地盤調査義務があり、地盤調査結果をもとに地盤の地耐力と建物荷重との兼ね合いで相当な地盤補強をするか又は地盤が沈下や変形をしても安全な基礎構造をつくるべき義務があるとしている点や、同条の細則である地耐力算定のための告示などの技術基準の解釈適用についても具体的に示している点でも有意義です。
被害者はもとより大方の研究者、実務家にもご参考になるかと思います。
訴訟代理人は当会の弁護士澤田和也と同中井洋恵で、調査鑑定を担当したのも同じく当会の高塚哲治ほかの一級建築士です。
≪勝因の分析≫
1、 |
勝因の第一はなんと言っても的確な調査鑑定をされ、それにもとづいて技術訴訟に相応しい請求原因事実が構成されたたことによるものでしょう。そして数ある構造欠陥のうち、主張・立証の中心を地盤と擁壁の欠陥に絞ったことにもよるものでしょう。総花火的主張・立証はいたずらに争点を広げ事件を長びかせるだけです。これが認められれば取り壊し建てかえ損判決が獲得できるというポイントに主張・立証を絞り込むべきです。 |
2、 |
しかし、私たちが今までの研究をもとに裁判所を納得させる精緻な法律構成をすればするほど、業者サイドでも巧みな積極否認の主張や抗弁又はそれに見合う業者側意見書など提出するようになってきています。 |
3、 |
欠陥住宅訴訟は初期の事情訴訟から、10年ほど前から提唱されている技術訴訟へと脱皮し、その科学的法律構成によって取り壊し建てかえ損害賠償をふくむ数多くの消費者側勝訴判決を勝ち取ってきました。
今や欠陥住宅訴訟は第3の段階を迎えたと見るべきです。というのも最近業者側弁護士は積極否認や抗弁をして、我々の請求原因における欠陥判断が誤りだとの論陣を張ってきています。それは専門的用語や理論にカモフラージュされたもので、消費者側弁護士が手をこまねいていると裁判所はこの業者側反論を受け入れやすい傾向が見られるのです。 |
4、 |
この訴訟でも地盤調査義務や地耐力の判断などに関して業者側建築士(技術士)はもっともらしい意見書で我々の主張を押し潰そうとしてきました。それはきわめて巧妙なものでしたが、我々弁護士は建築士の先生方との共同討議の結果、相手方反論が前提事実をすり替えたり、法令や行政の扱う法令の標準的技術基準を捻じ曲げていることを判りやすく裁判所に説明する反論意見書や準備書面を出すとともに、業者側の証人である技術士にも反対尋問でそのすり替えと欺瞞の事実を明らかにし、今回の勝訴判決獲得の決め手としたのです。 |
5、 |
勝訴判決を得るためには、建築士の的確な調査鑑定書をもとにする訴状作成が出発点ですが、それを崩そうとする業者側のすり替えと欺瞞の積極否認や抗弁を打ち砕く反論書の作成が勝訴の決め手となってきています。
弁護士と建築士の協力関係は訴訟の終わりまで続けなければならないのです。又それを続けてくれる建築士を協力者として得ない限り完全な勝利はおぼつかないのです。鑑定書だけでおさらばとする建築士では消費者の力とはならないとつくづく感じた次第です。
幸い我々『欠陥住宅を正す会』には事件解決の最後まで協力してくれる建築士がいることで今回の成果を得られたのです。しかし当会会員以外の欠陥住宅被害者全体の問題として考えれば、このような協力建築士を育てていくことが緊急の課題でしょう。 |
この判決をご希望の方にはコピーをおわかちいたします。尚判決全文は82ページにのぼる大部なものですので、恐縮ですが印刷実費・送料500円相当の郵券を同封の上当会本部事務局までお申し越しください。 |
(18.11.25 澤田 和也 中井 洋恵)
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