第1回

平成19年4月2日放送(東海ラジオ 教えてドクターより)

Q 夜尿症ってどのくらいあるのですか?

A 赤ちゃんのときは膀胱におしっこが貯まるとすぐに出てしまいますが、2、3歳ころからおしっこを教えるようになります。
4歳になると、70%の子どもは夜あまりおねしょをしなくなります。
小学校入学時点ではその確立は90%になります。この時点で夜尿が続いている場合を夜尿症と呼びます。
中学生になると夜尿症の子どもは1~2%になります。
すなわち、ほとんどの子どもは自然に治っていくものです。


Q 原因は子育ての失敗でしょうか?

A それは子育ての失敗でも子どもの怠慢でもありません。
排尿機構の発達の遅れが原因と考えられています。
ですから決して親を責めたり、子どもをしかってはいけません。
周りの人が「おまえが甘やかせて育てるからだよ!」などと母親を責めますと、責任を感じ、つい子どもにもあたってしまいます。子どもは悪気があっておねしょをしているわけではありません。一番悩んでいるのですから、励ましてあげなければいけないのです。それがトラウマとなって残ることもあります。


Q 夜尿症は治るのでしょうか?

A 先ほど述べましたようにほとんどの方が自然に治っていきます。 しかし、その間の親子の悩みは決して小さくありません。少しでも早く治して素敵な人生を送ってほしいと思います。
この病気は医師の治療を受けても自然経過より何年かは短くなると思いますが、すぐ治るものではありません。
焦らず、怒らず、起こさずをモットーに長期戦でがんばって下さい。


第2回

平成19年4月9日放送(東海ラジオ 教えてドクターより)

Q 夜尿症は排尿機構の発達の遅れが原因ということですが、それはどのような仕組みになっていますか?

A 尿が作られ、排泄される仕組みはこのようになっています。
尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に貯められます。そして尿をしたいと思ったとき膀胱の出口が緩んでおしっこが出ます。
夜尿には夜作られる尿量と、夜、膀胱にどのくらいおしっこが貯められるかが問題となります。
まず、多尿型と呼ばれているものをご紹介します。
尿量は下垂体で作られるおしっこの量を減らすホルモン、すなわち抗利尿ホルモンが大きく関与しています。この抗利尿ホルモンは夜になると昼の2倍程度作られ、夜のおしっこの量を昼間の60%に抑えます。ですから大人の場合でも、大変疲れてしまい、夜12時間寝ても朝まで持ってしまいます。しかし、昼間ではそんな訳にはいきません。これは、この抗利尿ホルモンが多く分泌されたからです。
 しかし、このシステムは生まれつき出来ているものではなく、3,4歳で確立するものです。このリズムが出来上がらないと夜間尿量が多く夜尿の原因になってしまいます。(多尿型)
 次に膀胱型についてお話します。
膀胱の容量は夜間のほうが多くなります。夜寝ている間は膀胱壁が弛緩し、昼間の1.5倍ほど多く尿を貯められるようになります。それには交感神経と副交感神経が関与しています。
通常3~4歳でこの神経のバランスがとれ、夜には多くの尿を貯められるようになります。しかし、この2つの神経のバランスがなかなかとれないと夜間の膀胱容量が増えない為、夜尿の原因になります。(膀胱型)
その他、混合型というのがあります。
これは、夜間尿量も多いし、夜間膀胱容量も少ないものです。すなわち両者を併せ持ったタイプです。(混合型)
また、夜間尿量、夜間膀胱容量共に正常ですが、夜尿が続くタイプもあります。このタイプは治癒直前のことが多いようです。このようなものを正常型と呼んでいます。(正常型)
夜尿症の治療はこの4つのタイプのどれに属するかを診ながら進めて行きます。


第3回

平成19年4月16日放送(東海ラジオ 教えてドクターより)

Q 夜尿症には多尿型と膀胱型それを両方持ち合わせた混合型とその機構に異常が見られない正常型があるということですが、どうして見分けますか?


A それは基本的にはドクターの仕事になりますが、多尿型と膀胱型についてご家庭でも区別できる方法をご紹介します。

1 多尿型

睡眠時間を9~10時間としたとき、尿量は体重〔kg〕あたり5~9mlで平均7mlです。9mlを越しますと多尿と考えます。
例えば30kgの子どもですと、30kg×9 ml=270 ml、すなわち、夜間尿量が270ml以上であれば多尿と考えます。
夜尿のある子供の夜間尿量は、夜尿で濡れたオムツの重さを測定し、オムツの重さを引いてください。それに起床時の尿量を加えたものです。
また尿の比重や浸透圧も測定し薄い尿かどうかを調べることもします。

2 膀胱型

膀胱の容量は、昼と夜とでは違います。
まず昼の容量として、目いっぱい我慢させたときの排尿量を調べます。
夜間の場合、もし夜尿がない場合、朝起きたときの排尿量を測定します。
夜尿の場合は1回の夜尿量を膀胱容量といたします。
膀胱容量は昼間目いっぱい我慢したときの容量と夜間の膀胱容量とが、ほぼ同じになります。
膀胱の貯めも体重(kg)あたり5 mlから9mlが目安になります。
平均が7ml程度で5ml以下が膀胱の貯めが少ないケースということになります。
体重が30kgの子どもでは30×5=150ml、すなわち150ml以下ですと膀胱容量が少ないと判定します。


第4回

平成19年4月23日放送(東海ラジオ 教えてドクターより)

Q 今回はその治療方法についてお聞かせください。

A その基本は生活指導です。
特に多尿タイプの子どもでは食事や水分摂取のコントロールが必要です。
摂取した余分な水分が尿になるまでに3時間程かかります。ですから夕食は寝る3時間前には済ませることが重要です。夕食後の3時間は水分を取らないようにして下さい。それには夕食前に水分は充分に摂取しておくとよいと思います。例えば昼間スポーツをした後などには、牛分制限などは考えず、むしろ積極的に水分を補給したほうが、夕食後の水分摂取を少なくするのに役立ちます。
また、塩分や糖分、蛋白質の取りすぎも多尿の原因になりますから、なるべく薄味のものを作ってください。牛乳のがぶ飲みは控えてください。
それには家族の方の協力も不可欠です。夕食後、みんなでジュースだビールだと飲んでいてはいけません。
 膀胱型のなかには昼間にもおしっこが少し出てしまうお子さんがおられます。こういう場合は、おしっこをするのを我慢する訓練が必要です。おしっこをしたくなったとき、「早くトイレへ行きなさい」ではなく、「もう少し我慢してみましょうね」と頑張らせてみてください。
そのときはお母さんも一緒に我慢してみるとよいと思います。
薬だけ飲んでも夜尿は一時的にはよくなりますが、食事管理がないと薬を中止した時点ですぐ崩れてしまいます。


Q 「夜中に起こしておしっこをさせるといいよ」いうことを聞いたことがありますが、あれは有効ですか?

A 例えば、子どもが9時に寝て、お母さんが12時に寝るとします。そこでお母さんが寝る前に子どもを起こしておしっこをさせるということは、毎晩、夜の12時に子どもにおしっこをさせる習慣を身につけていることになります。ですから、これは逆効果になりますね。旅行の間だけというならば分かりますが、毎晩することは止めてください。


第5回

平成19年4月30日放送(東海ラジオ 教えてドクターより)

Q 今回は夜尿症のお薬についてうかがいます。

A 薬の種類としては
1 抗利尿ホルモン、
2 副交感神経遮断剤、
3 三環系抗うつ剤があります。

1 抗利尿ホルモン(デスモプレシン)

 多尿型(混合型も含む)の場合、下垂体から抗利尿ホルモンが充分に分泌されないために夜間の尿量が減らず夜尿をしてしまいます。こういうタイプにはこの薬が第一選択となります。これは点鼻薬ですが、かなり有効です。これにより夜尿をしない習慣がつきますと、薬を中止しても尿意によって目が覚めるようになります。

2 副交感神経遮断剤(バップフォー、ポラギス)

 膀胱型の夜尿は夜の間も副交感神経が刺激されて膀胱容量が増えません。基本的にはおしっこを出来るだけ我慢させて膀胱容量を増やす訓練をすることが大切ですが、こんな子にこの薬を使いますと、夜間の膀胱容量が増え夜尿が改善します。


3 三環系抗うつ剤(トフラニール、アナフラニール、トリプタノール)

 比較的軽い夜尿に使います。副交感神経抑制、排尿時覚醒などの効果があると考えられています。

その他 ブザーを使った治療  パンツに小さなセンサーを取り付け、パンツが濡れるとブザーが鳴ります。
夜定時に起こすやり方とは基本的に違います。
定時に起こす場合は、一定の時間におしっこをするという習慣付けになってしまいますが、ブザーの場合は、おしっこが出た時のみ起こされます。出なければなりません。
 私は使用したことはありませんが、膀胱型では、かなり有効なケースもあるようです。
最後になりますが、夜尿で悩んでいる方はたくさん居られます。それはお母様の子育ての失敗でもありませんし、もちろんお子様の責任でもありません。治療のキーワードは「焦らず、怒らず、起こさず」です。必ず治るものと信じて、くよくよ悩まずに、是非小児科の医師に相談してみてください。