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きのこの世界

土地っ子スタイル

 きのこの観察をしながら山路を歩いていると、ハイキングの親子連れや森林浴を楽しんでいる高齢者、植物を観察しているグループなどいろいろな人に出会います。近年のアウトドアブームや自然志向に伴い、野山に出かける人が多くなったようです。そんな人達には私が土地っ子と思われるのでしょうか、よく道を尋ねられたり、何をしているのか訝しがられたりします。きっと、長袖の厚手の作業服の上下にゴム長靴が影響しているのでしょう。これで帽子が農協か森林組合のものでしたら完璧に土地っ子です。以下は土地っ子スタイルでのできごとです。

 もう20年も前のことで、私が野鳥観察に熱中していた頃のことです。我が家の近くにH公園という自然林が多く残るところがあり、カブトムシやクワガタムシもたくさんいました。この公園の野鳥を観察しようと出勤前の早朝や仕事を終えて帰宅してから、休日は朝、昼、夕など1年に100回以上観察にでかけたことがありました。

 観察を始めて半年程経った頃のこと、家族が、「H公園に変な人がいるから子供だけでは遊びにいかせるな。」という噂を聞いてきました。今までH公園で不審者を見かけたことはありませんでしたが、不審者がいるのなら様子を見てやろうと、気に止めながらその後何度も出かけたのですが、それらしい人物は見当たりませんでした。ということは………。

 公園やキャンプ場は散策路が整備されていて、きのこの写真の撮り易い所なので、ほとんどの写真はこのような所で写しています。休日には賑わう公園ですが、平日はひっそりします。まして、駐車場から少し離れた林の中の散策路はほとんど誰も通らないので、リュックを道の真ん中に置いても邪魔になりません。勤務の関係で平日が休みとなることが多く、この日も平日でした。また、天気のよい日で木漏れ日が降り注いでいました。陽の直射はコントラストが強すぎるので、写真には不向きです。そこで、木漏れ日を遮って写真を撮るのですが、これには傘を使用しています。自然林の残るK公園の散策路脇に生えたきのこを写していたときのことです。若い男女が手をつなぎながらこちらに向かって来ました。通るのに邪魔になりそうだったので、近づいてら避けようと思いながら写していると、20m程向こうで立ち止まり、しばらくこちらを見ていましたが、今来た道を戻っていきました。天気のよい日に雨傘とゴム長、何か勘違いをさせたようです。悪いことをしました。

 秋のきのこシーズンにはいろいろな木が実をつけます。山の幸を求めて里山に入る人は大勢います。といっても広い山の中、見える範囲に何人もいるわけではありません。これも観察しながら山路を歩いていたとキのことです。前方の道から少し入ったところで中年の女性が一人うろうろしています。何をしているのか分かりませんが、ここは動植物の採集が禁止されているところなので、ユリやランの仲間を採取しているのなら止めるようにお願いしようとの思いからしばらく立ち止まって見ていました。すると、女性は私に気付き道を先にゆっくり歩き出しました。やはりビニール袋を持っています。何を獲っていたのか知りたくて、私が歩き出すと突然、女性は走り出しました。その時持っていた袋からこぼれたのは山栗でした。採集禁止のお願いをするまでもなくもう当分来ないでしょう。

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