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きのこの世界

その距離10m

 10年程前のことですが、いつも行く観察地ではつまらなくなり、別の場所に行けば変わったきのこが見つかるかもと、初めて入った所での出来事です。

 初めて入った林道の退避場のような広くなったところに車を止め、林道に沿ってきのこを探していました。すると、獣道のような脇道があります。その道はきのこの発生する環境によさそうな林の方向に伸びていたので、迷うことなくその細い道に入りました。いろいろな種類のきのこがあり、楽しく観察をすることができたのですが、道があるのかないのかだんだん怪しくなってきました。ここで引き返せばよかったのですが、まだ帰るには時間は早いし、同じ道を戻るのも芸がないし、高圧線の様子から電力会社の人は通っているようだし、どこかに抜けられるだろうと先に進みました。ところが潅木がますます密集し、とても先に進めなくなりました。ここまでにして、帰ろうと戻り始めたのですが、もともと道のない所を進み易いほうへ歩いてきたので、帰る方向がはっきりしません。迷子状態となってしまいました。

 よくきのこ狩りの方に「行く時は欲と二人連れなのでどんどん奥に入っていって、帰りの方向が分からなくなったとたんに一人ぼっちで心細くなり、採集したきのこが籠からこぼれるのも拾わずに帰り道を探しまわっているなんてことのないように。」と講釈していたのに失態でした。

 夏の林は木々が生い茂り、1年中で一番暗く、しかもこの日は曇っていて、方角もさっぱりわかりません。仕方なく沢に降り、沢を下ることにしました。藪よりも沢の中の方潅木が少なくが歩き易いのですが、濡れた岩は滑りやすく何メートルかの落差があったするので危険です。できる限り沢にはいることは止めるべきですが、低山のこと何とか歩けるだろう、最終的には河川に出るとの判断をしました。危険な所は這って下ったり、迂回するため斜面を登りまた沢に戻りと比較的歩き易い所を選んで2時間近くも下ったでしょうか。山の日暮れは早くあたりは薄暗くなりかかりました。

 その時、前方に橋を見つけました。やっと帰る方向が分かった。これで帰れると、急いで沢から上がり、藪を突き抜け道を目指しました。その道は車の通る道で、舗装されていました。急ぎ足で戻りましたが、その道は沢に沿ってずっと続いています。沢からは10m位の距離です。道に気づかずにずいぶん余分に歩いたようです。安心すると同時に欲が戻ってきて、沢で見たきのこの写真を撮っておけばよかった、などと思います。この日は観察記録の他、体の何箇所かに棘と擦り傷を持ち帰ることになり、反省すべき日でした。

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