これまでに「地球に残った弟の視点では、兄の時間がゆっくり流れた」と書きました。地球に残った弟の視点では、10光年離れた場所に到達した兄の姿を弟が観測するには、光が飛んでくるまでさらに10年待たないといけません。弟が地球で20歳トシをとったときに、1歳だけトシをとった兄の姿を見て「兄ちゃんの時間はゆっくり流れた」と感じるのです。いっぽう地球から10光年離れたロケットの中で、兄は「地球を出発して1年たった」と感じます。その場所から地球にいる弟の姿を見ると・・・弟は1歳どころか、半月くらいしかトシをとってません。地球から飛ぶ光は、ロケットよりもチョット速いだけですからね。それ故、兄は「弟の時間はゆっくり流れた」と感じます。
お互いが同じ様に「相手の時間がゆっくり流れた」と感じます。これが「相対性」です。
地球から10光年離れた地点で兄のロケットが急速反転して、行きと同じ速度で10年かけて地球に戻ったらどうなるでしょう。「10年かけて」というのは、地球の弟にとっては10年ですが、それを兄は1年と感じます。行きも帰りも「1年だ」と感じる理由は、後から詳しく説明します。ここでは兄の視点では「また1年かけて10光年移動した。疲れた」と感じるのだと思ってください。このとき弟は、兄の出発時から20年を経験してそれだけフケているので、兄からすれば「こっちが帰路で1歳だけトシとるうちに、弟は20歳もトシとった。」ということになります。
いっぽう地球の弟が「兄のロケットが10光年の彼方で反転した」のを観測したと思ったら、半月くらいで「兄ちゃんが帰ってきた」ということになりました。なにしろロケットは光の速さに近いスピードが出せるので、自分が反転した様子を地球に伝える光よりもチョットだけ遅い速度で地球まで帰ってくるのです。弟が地球で再会した兄の姿は、半月前に観測した反転時にくらべて、1歳だけフケています。したがって「兄ちゃんは、半月で1年ぶんフケた」ということになります。
互いに接近するケースでは、お互いが同じ様に「相手の時間が早く流れた」と感じます。これも「相対性」です。
けれども双子が地球で再会したとき、兄が2歳、弟が20歳トシをとってるのですから、二人の関係は同等ではありません。「相対性はどこにいったのだ?」という、ダマされたような気持ちになります。
どうして二人の関係が同等でないのか?。【説明その1】
兄は行きと帰りで運動する方向が違います。つまり、慣性系を乗り換えているのです。特殊相対性理論の要請(論理を展開するにあたっての前提条件)は
・光速度が一定
・異なる慣性系にとって、物理法則が同じ形で表される
というものです。「地球」と「地球から離れるロケット」は「異なる慣性系」であり、両者が同じ様に「相手の時間がゆっくり流れた」と感じます。
「地球」と「地球に近づくロケット」も「異なる慣性系」であり、両者が同じ様に「相手の時間が早く流れた」と感じます。
ここでいう「慣性系」とは、簡単に言うと等速度運動する座標系のことです。弟は20年間を同じ慣性系ですごしましたが、兄は慣性系を乗り換えたので二人の関係は同等ではありません。
【説明その2】
二人の関係は同等では無いことはわかったが、慣性系を乗り換えるとどうなるというのか?。そもそも「乗り換える」とはどうゆう意味か。それに、実際問題として「瞬間的に乗り換える」ことはできないだろう。そんなことしたら、たいていの人は潰れて死んじゃいますからね。兄が反転するには、まず減速して、それから地球に向けて加速することになります。その間、地球と反対側にロケットを噴射し続けて「加速」します。加速度や重力がある条件を扱うには「一般相対性理論」が必要です。こうしたことから、特殊相対性理論の問題として有名な「双子のパラドックス」を深いレベルでキッチリ計算して説明するには「一般相対性理論」が必要ということがわかります。「サルでもわかる」レベルの解説では、さすがにそれは難しいです。ですのでたいていの解説書では、兄は慣性系を瞬間的に乗り換えたという想定で、行きと帰りの時間の流れを別々に計算してからくっつける・・・という説明をするわけです。
次回から、時間の伸び縮みを計算します。
なお、本来の「双子のパラドックス」のストーリーはウィキペディアに紹介されています。
特殊相対性理論の要請(論理を展開するにあたっての前提条件)は
・光速度が一定
・異なる慣性系にとって、物理法則が同じ形で表される
というものです。たったこれだけの要請から出発して、兄と弟の時間の伸び縮みを計算しましょう。
以下の文のところどころに「?」を付けてありますが、そこを後から訂正します。
【訂正する前の文】
兄の乗ったロケットが0.5c(光速の半分=秒速1億5千万メートル)の速度で零時零分0秒に地球を出発しました。地球に残った弟は、兄が出発した1秒後に、手元の時計の映像を送信します。兄は出発して2秒?後に、地球から1光秒(3億メートル)離れた地点でその映像を受信します。受信した時計の映像は零時零分1秒を指していますが、兄自身の手元にある時計は零時零分2秒?を指しています。すると、兄の視点では、弟の時間はゆっくりと半分の早さで流れています。
兄は弟からの映像を受信すると同時に、手元の「零時零分2秒?を指している時計」の映像を地球の弟に向けて発信します。その地点は地球から1光秒離れているので、兄が発信した映像が弟に届くのは1秒後です。弟は地球で零時零分3秒に、兄の「零時零分2秒?を指している時計」の映像を受信します。
すると、弟の視点では、兄の時間はゆっくりと2/3の早さで流れています。
結果をまとめると・・・
・兄の視点では、弟の時間はゆっくりと半分の早さで流れている。
・弟の視点では、兄の時間はゆっくりと2/3の早さで流れている。
これはいけません。二人の関係が同等ではありません。彼らは双子の兄弟だというのに、どうして同等にならないのか?。
いったいどこを間違えたのか?。
ロケットで2秒飛んで地球から1光秒離れた兄が「自分は2秒過ごした」と感じているかというと、そうではありません。もっと短い時間を感じています。先の列車やロケットの例も同じです。ロケットの中で兄の時間はゆっくり流れます。
いったい「ロケットで2秒飛んで」というのは、誰にとっての2秒なのでしょうか。実は弟にとって2秒ではありますが、兄でも弟でもない第三者として問題を考える我々は、無意識のうちに光の速さを超越した神のような視点になるので、かえって混乱します。
「兄はロケットで2秒飛んで地球から1光秒離れた」と書くのはやめて、「弟から見て0.5cの速度で、地球から1光秒離れた地点まで兄はロケットで飛んだ」と書けば、混乱しないですみます。弟は零時零分1秒に発信して、その2秒後に折り返し受信したのですから「兄ちゃんは地球から1光秒離れたところで返信したな。そこまで2秒かけて飛んだな。」と認識します。
時計の映像を返信した時点で・・・いやいや、そうではなく・・・返信した「地点」で、兄は「何秒経過した」と感じるでしょう。つまり、兄の時計は零時零分何秒を指しているでしょう。
先の文で「2秒?」としたところを、すべて「√3秒」に訂正します。
√3秒は約1.73秒で、2秒よりも少し短い時間です。
【訂正した文】
兄の乗ったロケットが0.5cの速度で零時零分0秒に地球を出発しました。地球に残った弟は、兄が出発した1秒後に、手元の時計の映像を送信します。兄は出発して(自分の時計で)√3秒後に、地球から1光秒離れた地点でその映像を受信します。受信した時計の映像は零時零分1秒を指していますが、兄自身の手元にある時計は零時零分√3秒を指しています。すると、兄の視点では、弟の時間はゆっくりと1/√3の早さで流れています。
兄は弟からの映像を受信すると同時に、手元の「零時零分√3秒を指している時計」の映像を地球の弟に向けて発信します。その地点は地球から1光秒離れているので、兄が発信した映像が弟に届くのは1秒後です。弟は地球で零時零分3秒に、兄の「零時零分√3秒を指している時計」の映像を受信します。
すると、弟の視点では、兄の時間はゆっくりと1/√3の早さで流れています。
結論はこのように変わります。
・兄の視点では、弟の時間はゆっくりと1/√3の早さで流れている。
・弟の視点では、兄の時間はゆっくりと1/√3の早さで流れている。
これなら二人の関係は同等です。地球から離れるロケットの速度が0.5cなら、お互いに「相手の時間がゆっくり1/√3の早さで流れた」と感じます。なお、1/√3は、約0.577です。
どのように計算して√3秒だとわかったか?という説明は後でやることにして、ここで重要なのは「√3秒ならば特殊相対性理論の要請を満足する」ということです。要請から出発して、時間の伸び縮みを決めることができました。
前回は「√3秒」などという、ややこしい数値が出てきました。ごめんなさい。今回はスッキリと「2秒」の例でやってみましょう。そのかわり、ロケットの速度が0.5cではなくなります。それではどれくらいの速度なのかというと、すぐにはわからないので「光の?%の速度」と書いておきます。
兄の乗ったロケットが「光の?%の速度」で零時零分0秒に地球を出発しました。地球に残った弟は、兄が出発した1秒後に、手元の時計の映像を送信します。兄は出発して(自分の時計で)2秒後に、その映像を受信します。受信した時計の映像は零時零分1秒を指していますが、兄自身の手元にある時計は零時零分2秒を指しています。
すると、兄の視点では、弟の時間はゆっくりと半分の早さで流れています。
兄は弟からの映像を受信すると同時に、手元の「零時零分2秒を指している時計」の映像を地球の弟に向けて発信します。弟は地球で零時零分4秒に、兄の「零時零分2秒を指している時計」の映像を受信します。
すると、弟の視点では、兄の時間はゆっくりと半分の早さで流れています。
結果をまとめると、こうなります。
・兄の視点では、弟の時間はゆっくりと半分の早さで流れる。
・弟の視点では、兄の時間はゆっくりと半分の早さで流れる。
これならスッキリした形で、特殊相対性理論の要請を満足します。弟は零時零分1秒に発信して、その3秒後の零時零分4秒に折り返しの返信映像を受信しました。往復通信に3秒かかったことから「兄ちゃんは地球から1.5光秒離れたところで返信したな。」と認識します。そして弟は「兄ちゃんが返信したのは、零時零分2.5秒だな。」と認識します。弟にとって、発信と受信の中間点は零時零分2.5秒だからです。
弟の視点では「兄ちゃんは地球から1.5光秒離れたところに2.5秒かけて到達したな。」ということになります。したがって弟の視点では、兄の乗ったロケットの速度は1.5光秒/2.5秒=0.6c=秒速1億8千万メートルです。
前回の結果と並べると、こうなります。
ロケットの速度が0.5cなら、相手の時間が1/√3になる。
ロケットの速度が0.6cなら、相手の時間が1/2になる。ここで公式を紹介します。
互いに「相手の時間が1/k倍の早さで流れた」と感じるとき、両者が離れる速度をvとすると
k=√((1+v/c)/(1−v/c))
となります。この公式に
v=0.5c を代入すれば k=√3
v=0.6c を代入すれば k=2
となることは、簡単に確かめられるでしょう。v=0 を代入すれば k=1
であり、それが我々の日常の世界です。次回はこの公式を導出します。「サルでもわかる時間の伸び縮みを計算する方法」ですね。
時間の伸び縮みを簡単に求める「k計算法」を簡単に紹介します。ものすごく簡単です。途中でわからなくなったら、前回の内容をおさらいしてください。兄の乗ったロケットが速度v(メートル/秒)で地球を出発しました。
弟は零時零分1秒に、自分の時計の映像を送信しました。その映像を、兄は(自分の感覚で)零時零分k秒に受信して、同時に自分の時計の映像を折り返し送信しました。
地球の弟は零時零分k×k秒に、兄からの折り返し信号を受信しました。
弟が発信してから受信するまでの時間は、k×k−1(秒)
兄が受信した地点は、地球から(k×k−1)c/2(メートル)
弟にとって、兄が受信した時刻は、零時零分(k×k−1)/2+1(秒)ロケットの速度 v=((k×k−1)c/2)/((k×k−1)/2+1)
この式を変形して「k=」の形にします。v=((k×k−1)c/2)/((k×k−1)/2+1)
→両辺をcで割るv/c=((k×k−1)/2)/((k×k−1)/2+1)
→右辺の分母分子に2をかけるv/c=(k×k−1)/((k×k−1)+2)
→右辺の分母のカッコをはずすv/c=(k×k−1)/(k×k+1)
→右辺の分子の−1を+1−2に変えるv/c=(k×k+1−2)/(k×k+1)
→右辺の分子のk×k+1をくくりだすv/c=1−2/(k×k+1)
→右辺と左辺の入れ替えと移項をする1−v/c=2/(k×k+1)
→両辺にk×k+1をかけて、1−v/cで割るk×k+1=2/(1−v/c)
→左辺の1を移項するk×k=2/(1−v/c)−1
→左辺の1を(1−v/c)/(1−v/c)に変えるk×k=2/(1−v/c)−(1−v/c)/(1−v/c)
→左辺の分母が共通なので計算k×k=(1+v/c)/(1−v/c)
→両辺の平方根をとる(kは正)k=√((1+v/c)/(1−v/c))
これで終わりです。
相対速度v(メートル/秒)で兄弟が離れるとき、互いの時間は
1/k倍=√((1+v/c)/(1−v/c))倍
の速さで流れるように観測されます。以上の計算には、本当に四則演算と平方根しか出てきませんでしたね。特殊相対性理論の計算はとっても簡単なのです。
1秒2秒のチマチマした話はやめて、1年10年の単位で「これぞ双子パラドックス」という例を計算しましょう。兄の乗ったロケットが光速に近いスピードで地球を離れ、兄弟が互いに「相手の時間が20分の1の早さでゆっくり流れた」と感じたら、ロケットの速度はどれだけでしょう。
k=√((1+v/c)/(1−v/c))
この公式を使えば求めることができます。k=20になるように、vの値を決めるだけです。
20=√((1+v/c)/(1−v/c))
400=(1+v/c)/(1−v/c)
400−400v/c=1+v/c
399=401v/cv=(399/401)c
v=0.995cロケットが光速の99.5%のスピードで地球から離れると、相手の時間が1/20の早さでゆっくり流れるように感じられます。
兄が(自分の感じる時間で)1年飛んでから、急転回して同じ速度で地球に戻る場合は、公式の「v」の部分に「−0.995c」を代入します。マイナスをつけるのは、ロケットが飛ぶ方向が反対になるからです。
k=√((1−0.995c/c)/(1+0.995c/c))
k=√(0.005/1.995)
k=0.050ロケットが光速の99.5%のスピードで地球に接近すると、相手の時間が20倍の早さでセカセカ流れるように感じられます。
【兄の視点では】
・地球を離れて1年飛んだ。
・地球から送られてきた弟の映像を受信した。
・弟は18日と少々フケていた。
・折り返し「1年フケた現在の自分」の映像を送信した。
・ロケットの向きを変えて、地球に向かって1年飛んだ。
・これで自分は宇宙で2年フケた。
・地球で再会した弟は20年と18日と少々フケていた。【弟の視点では】
・兄ちゃんがロケットに乗って飛んでった。
・自分の映像を兄ちゃんに向かって送信し続けた。
・20年後、1年ぶんフケた兄ちゃんの映像を受信した。
・それからわずか18日と少々で兄ちゃんが帰ってきた。
・兄ちゃんは出発時から2年フケただけだった。いいなあ。
前回までで、時間の伸び縮みを簡単に求める「k計算法」を紹介しました。相対速度v(メートル/秒)で兄弟が離れるとき、互いの時間は
1/k倍=√((1+v/c)/(1−v/c))倍
の速さでゆっくり流れるように観測されます。兄弟が近づくときは、この公式にvのプラスマイナスを入れ替えて適用します。その結果は、ちょうど逆数になるので、互いの時間は早く流れるように観測されます。実はこれ以外の公式があります。
「k計算法」では、我々の愛すべき兄弟たちがサル過ぎるのです。なぜならば、相手の時計の映像と自分の手元の時計が指し示す時刻を直接比較しているからです。この兄弟は「光速が無制限に速い」と考えているのですね。それは、さすがに問題あるでしょう。いくらなんでも、光の速さに近いロケットで宇宙に旅しようという連中が「光速=秒速3億メートル」ということを、知らないわけはありません。
双子の兄弟が「光速=秒速3億メートル」であることを知っていたら、互いの時間の流れをどのように評価するでしょうか。
弟は零時零分k×k秒に、兄の時計が「零時零分k秒」を指す映像を受信します。これまでサル並みの弟が、2つの時計を直接比較しました。今回の弟は、モノリスを触って少し賢くなっています。零時零分1秒に発した信号の返事が零時零分k×k秒に戻ってきたのだから、兄が返信したのは・・・
「零時零分(k×k−1)/2+1秒」であるとわかります。
兄のロケットの速度が0.5cのとき、k=√3でした。
その場合、弟の観測ではこうなります。(k×k−1)/2+1=2秒・・・自分(弟)にとっての時間
k=√3秒・・・兄にとっての時間というわけで、弟にとって兄の時間は √3/2=0.866倍で、ゆっくり流れます。
そして兄にとっても、弟の時間は0.866倍で、ゆっくり流れます。兄は地球を飛び立って、弟の時間で2/3秒(兄の時間で√3/3秒)すると、地球から2c/3(2億メートル)離れます。その地点で地球に電波を送信すると、弟の時間で「零時零分1秒」に電波が到達します。弟はそのとき「零時零分1秒」を指している自分の時計の映像を兄に送信します。兄がそれを受信するのは、兄の時間で「零時零分√3秒」です。
兄が送信したのは、零時零分√3/3秒
兄が受信したのは、零時零分√3秒すると兄の観測では、弟が送信したのは(√3−√3/3)=2√3/3=2/√3秒です。しかし弟の時計の映像は「零時零分1秒」なので、兄にとって弟の時間は√3/2=0.866倍で、ゆっくり流れていることになります。
公式は √(1−(v/c)2乗)倍となります。
兄が返信した時刻は、弟の観測ではこうなります。
k秒・・・兄にとっての時間
((k×k−1)/2+1)秒・・・自分(弟)にとっての時間したがって、倍率の公式は
k/((k×k−1)/2+1) に
k=√((1+v/c)/(1−v/c)) を代入すれば得られます。この公式 √(1−(v/c)2乗)倍は、(v/c)2乗を含んでいるので、vの符号がプラスでもマイナスでも、つまり兄のロケットが地球から離れても、地球に近づいても同じ値になります。前回までに説明した計算と違って、離れても近づいても互いの時間がゆっくり流れることになるのです。
このように、考え方によって相手の時間の流れ方が変わってしまうのが不思議です。でもまぁ理屈さえ合っていれば、その時々の都合で計算方法を選択しても良いみたいです。講談社の基礎物理学シリーズ「相対性理論」は、そのあたりの説明がていねいではなくて、2つの計算方法が並べて書いてあります。読んでいてものすごく悩みました。
互いに一定の速度で運動する兄弟が、お互いに「相手の時間がどう流れるか」を計算するための公式を2つ紹介しました。【公式1】
k=√((1+v/c)/(1−v/c))としたうえで、1/k倍でゆっくり流れる。【公式2】
√(1−(v/c)2乗)倍でゆっくり流れる。「〜倍」といっても1より小さい数ですから、早くなるのではなく「時間がゆっくり流れる」という意味なのでご注意を。「自分が2秒経過した」と感じるときに、相手は「きっと1秒経過したと感じているだろう」と推測することです。2つの公式には、それぞれ特徴があります。
【公式1】
電磁波の速度が無限大であって、光や電波が瞬間的に伝わると思っているサルの兄弟に適用される公式。vの符号(±)によってkが1より大きくなったり小さくなったりする。互いに離れるときは相手の時間がゆっくり流れ、互いに近づくときは相手の時間がセカセカと早く流れる。よく考えると、これには納得できないことがあります。たとえば、兄のロケットが地球に向かってきて、すぐ近くを通り過ぎてそのまま離れていくときは、どうなるのでしょう。セカセカ→ゆっくりに突然変わるのでしょうか。すぐ近くではなく月の軌道くらい離れたところを横切る場合は、いったいどうなるのでしょう。
【公式2】
光の速度が秒速3億メートルであるとして適用される公式。離れるときでも近づくときでも、同じ結果になるので、当然すれ違うときでも同じになる。月の軌道を横切るときも同じ。詳しい計算は省きますが、たとえば冥王星軌道から地球と月をめざして接近している状態だったら、地球に向かってるとしても月に向かってるとしても、ほとんど同じですから。以上のような理由から公式2のほうが役に立ちそうです。
ところが公式2には、問題があります。
式の導出が難しいのですね。そのため、前回の最後は「代入すれば得られます。」と書いて、おしまいにしました。代入した後の式の変形を書くのが面倒だったので。また、多くの解説書や教科書では「ローレンツ変換」を使って公式2を導出します。物理現象を抽象的に考えることに慣れていないと、ローレンツ変換はピンとこないので、式の変形を追いかけるばかりになってしまいます。それでは「わかったぁ〜っ、キーッ、キーッ」と歓喜することはできません。
ローレンツ変換を使わないで公式2を導く方法が、もう一つあることにはあります。再び列車の図で考えましょう。
列車の中で床から天井に向かう光を観測すると、兄の視点でt秒経過して、弟の視点でt’秒経過します。弟にとって、光が通る距離は
√((ct)2乗+(vt’)2乗)ですから、これをcで割ればt’秒に一致します。(√((ct)2乗+(vt’)2乗))/c=t’
(ct)2乗+(vt’)2乗)=(ct’)2乗t2乗=t’2乗−((v/c)t’)2乗
t=t’√(1−(v/c)2乗)兄の時間は、√(1−(v/c)2乗)倍でゆっくり流れる。
・・・という説明を比較的アッサリ得られました。ですが、なんだかダマされたような気分になります。既に他の解説書を読んで、ダマされ体験をした方もいることでしょう。
さらに「相対性」の問題もあります。宇宙に「絶対の原点」というものは存在せず、兄弟の関係は常に相対的であることが相対性理論の前提です。しかしこの列車の考え方だと、兄の視点からも同じ結論(兄自身の時間がゆっくり流れる)になってしまうので、兄弟の関係が相対的になりません。
とにかく強引に相対的にするには、弟が止まっている列車に乗って、弟の足元の床から真上に光を発射して、その光が天井に到達するまでの時間を評価します。その光を考えれば、兄の視点でも弟の視点でも「弟の時間がゆっくり流れる」ということになります。観測する光の「想定のしかた」だけで結果が変わってくるなんて、いかにもインチキ臭いのですけれど、そのようなことを堂々と書いている人もいます。
さらにさらに、この列車の計算はインチキなところがあります。
いったいどうやって相手の乗った列車内での「光の発着」を観測するというのでしょう。無限大の速さで到達する観測手段・・・たとえば「超光速の光」を使わないといけません。そんなものを想定した時点で、相対性理論の前提が崩れます。
というワケで、便利な公式2を得るためには「難しいローレンツ変換」か「インチキ臭い図説」が必要になります。多くの解説書や教科書では公式2だけを説明するか、あるいは公式1と公式2を並べて説明しています。どちらにしても理解しにくいでしょう。そのような深い深い配慮をしたうえで「サルでもわかる相対性理論」では公式2を後回しにしました。
・・・というのはタテマエで、ホントは途中で適当に考えながら書いてます。(^^;)
「k計算法」をもとに、兄と弟が感じる時間の伸び縮みについて語ってきました。そして、列車の例え話にはツッコミどころがあるぞ・・・という指摘をしました。ところが、「k計算法」にもツッコミどころがあります。あまりにも弟中心主義で考えているのですね。兄が弟に向けて発した信号は、兄にとって光速の半分で進んだり、光速の1.5倍で進んだりするような図解をしています。これだと、そもそもの要請である「光の速度は一定」に反しています。図解はあくまでも図解であって、地球に残った弟からすれば、兄が本当はどこにいるのか、どのような時間を感じているのかは、具体的に確かめようがありません。兄から送られてきた電波信号と観測して、あれこれ推定しているだけです。
ツッコミどころは他にもあります。
まず、兄の感じる時間をいったん2秒としていておいて、後から√3秒に訂正しました。どうして兄の時間ばっかり訂正して、弟のほうは放置するのでしょうか。結果的にそれでツジツマが合うから良さそうにも思われますが、それにしたって不公平ですよね。しかも、兄にとっては時間だけでなく空間や速度も伸び縮みします。つまり、宇宙空間の距離が縮んだように感じたり、自分の速度が実際よりも(というより弟が観測する速度よりも)速く感じたりします。そうすると・・・
どうして兄の時間と空間を伸び縮みさせるのに、弟のほうは放置するのか?
という疑問が沸いてきます。
ところが、「k計算法」を紹介する過程においては「兄の側から弟を眺めても同じ様に、相手の時間が1/k倍の速さで流れるように感じる」ということを検証しました。ということは・・・・
弟の時間と空間を伸び縮みさせて兄のほうを放置しても、たぶん同じ結果になるのではないか?
と予想することができます。できなかったら、してください。
つまり、兄と弟のどちらの時間と空間を伸び縮みさせても良いのであって、弟中心主義で考えても兄中心主義で考えても良いのであって、それこそが最初っから何度も言っている「相対性」なのです。
実は「ローレンツ変換」を用いると、弟が感じる時間と距離(つまり弟の座標系で表した数値)を兄が感じる時間と距離(つまり兄の座標系で表した数値)に変換することができます。そして、兄の座標系で表した数値を「ローレンツ変換」すれば弟の座標系で表した数値になります。早い話、同じ「ローレンツ変換」を2回施すと、元に戻ります。
「ローレンツ変換」とは、どのような数値変換をすることなのか?。どうしてそんな変換をしても良いのか?。といったことは、一般向けの解説書に詳しく書いてあります。「サルでもわかる相対性理論」をここまで読んだ方ならば、もう何の抵抗も無く「ローレンツ変換」をスラスラと勉強することができるでしょう。
おめでとうございます。